第14話
パタリと音を立てて、本を閉じた。書名は『召喚と喚起 その実例と実践』とある。先日、オカケットで手に入れた同人誌だ。二万もした。
しかし、その価値は十分にあった。良くまとめられていて、時代によって同じ対象がどのような反応をしたか書かれている。どんどん物質に近くなり、反応も具体的に、言葉を発するようになってきている。
作者がどのように術を行ったかも書かれている。代償に何を捧げたかも。
昔は、お香の煙や祈りの言葉だけでも十分だったと言われる。しかし受肉するようになり、他にも要求が出てきた。これは悪魔だけで無く、精霊や天使でもそうだ。
俺も勿論色々と試しては居るが、他人の実例があるのは心強い。
他人の見立てのやり方を自分に活かせる。理屈や妄想じゃ無くて実践だからな。それだけで世界が広がる。
さて、ちょっと出かけてくるか。今日は教会の食事会だ。前田神父に誘われて行く事になった。今日は庭で焼き肉らしい。ビールも付くらしい。なんてけしからん。俺は教会の腐敗を指摘するために潜入捜査をしなければ。
「これはいかん。魅了の呪いだ」
「教会で物騒な事言うのやめーや!」
BBQセットの上で焼けていく、牛豚鳥、そして野菜。俺はトングを使ってそれらを焼きながらも、自分の肉を確保し、塩とレモンを掛けて口に入れる事で浄化するという戦いを挑んでいた。
敵は手強い。特に牛! 恐らくオージービーフだと思うのだが、程良い噛み心地でうま味が溢れてくる。それをさっとビールで流すと、次が欲しくなる。なんと恐ろしい。
「ただ飯! 何と素晴らしい響き!」
「いや、自分参加費払ってや?」
「ちーーっ」
幾つかのBBQセットではそれなりの交流が図られていた。ここは比較的年齢層低め、かな。訳ありで学校に行ってない子が多い。それなりにグループを作ったりしながら話して食べている。中には一人で居る子も居るが、干渉はしない。
中学生くらいの少年が、隅っこで暗い顔をして端末を気にしてる。そしてそのままふらっと出て行った。
皿に肉が三つも残ってんじゃねぇか。なんと邪悪な少年だ!
来たは良いけど気後れして帰る子も居るから気にするなとは言われてたが、見逃せなかった。なんせ、その子には変なもんが張り付いてた。ここはそれほど強力では無いが聖域だ。それでもくっついてるのは普通じゃ無い。
前田神父に、簡単に事情を説明して俺も席を外す。出て行くのにちょっと時間差があったが、問題ない。
あの強度の瘴気なら、一度見ればダウジングで一発だ。
俺は五円玉に糸を付け簡易のペンデュラムとし、少年を追いかけた。
繁華街の裏。
閉まったままになった店の多い通りにさっきの少年と数人の青年がいた。強請られているのかなんなのか、小突き回されている。後ろで一人偉そうに立ってる奴がいたが、俺はそいつが持ってる物がちょっと気になった。
なんか三十センチほどの木彫りの仏像のような物から、全員の頭に黒いパスが繋がってる。
あー、これまずいね。警察じゃなくて、こっちの案件だわ……。
とは言え、俺は格闘は無理だ。あいつら相手に殴り合いはできない。ジョンや前田神父ならともかく。
となると……。
俺は右手の人差し指を自分の唇に当て、そのままゆっくり前進した。誰も気づかない。それほど広くも無い通りだ、ほとんどすれ違うようにして青年達の横を通り抜ける。
霊的防衛の基本テクニックを応用した物だ。霊的存在だけで無く、普通の生物からも気配を消す事が出来る。
そして仏像を持った奴の後ろに立つと、息を整え、指鉄砲を後頭部に向ける。
こっそりと神名を振動させると指先から光弾が二つ飛び出た! 光弾は仏像とその持ち主の後頭部に突き刺さり、破裂音を立てる。仏像も持ち主も凄い勢いで黒煙を上げる。
続けて殴られていた少年も含め全員が昏倒した。つま先で軽く蹴ってもぴくりとも動かない。参ったな、少年まで気絶するのは想定外だ。
光弾は、普通の人間にはほぼ影響が無い。昏倒するなんてのは、余程おかしなことになってる。
しょうがない。少年に簡単な瘴気払いかけよう。んで、もう一つだ。生命の木の一つ目のパスであるケテルからエネルギーを降ろす。それを俺の体で変換し、少年に与える。ゲーム的に言えば、MPポーションみたいなもんか?
少年が気づく前に、青年達に瘴気払いをかけておく。特に持ち主には念入りに。
黒煙が薄れた頃、俺は仏像を抱えてその場を去ることにする。
あぁ、勿論少年も一緒だ。ちゃんと足で蹴って起こしたぞ。
さっさとしないと人が来るとまずいしな。
一応、奴らの端末や財布は頂いておいたから、色々分かるに違いない。後はそういうのが得意な奴に任せよう。
少年のケアも俺の管轄外だ。そこは前田神父には専門家として頑張って貰おう。何せ俺は邪悪な魔術師だからな。
まだ肉が残ってるといいんだが。
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