第13話

 早朝。まだ日も昇らんうちにハゲのジョン、じゃなかったドルイドのジョンに起こされて、気がつけば山に登っている。

 普段この時間はやっと起きたくらいか。いつもなら日課をやって心を落ち着ける時間、なんだがなぁ。しかし、この辺全然人の手が入ってない感じな。放棄地なのだろう。

 道はあったが藪だらけで、これじゃ、だ。ドルイドのジョンがヤバそうな山刀を駆使して藪漕ぎしなかったら半分も進まなかっただろう。しかし、その山刀、銃刀法大丈夫なのか? 長いのと短いので二本差ししてるが。

 ジョンはともかく、俺はインドア派だ。道なき道を歩けばあっという間に限界だ。一応肉体の活性化はやってるが、二時間も歩けばそれも限界に近い。


「ジョン、休憩しよう、ぜ……」

「もうバテたか、情けない奴だ。そんな事じゃ立派なドルイドになれないぞ」

「はぁ。……いやいや、そのボケには付き合わんぞ。あと、そろそろ山登りの理由教えろ」

「よかろう」


 ジョンは、近くの平らな場所を見つけた。多分、車の停止場所だったのだろうな。でももう低木なんかも生えてきている。そこでさっきの山刀ではなく、魔術を使った。草木が場所を譲る。地面が更に平らになる。そこにシートを敷き、ガスコンロを用意。水はどうするのかと思いきや、これも魔術だ、手のひらから水がだばーーだ。便利だな。


「水を呼ぶ魔術たぁ便利だな。どうやってる?」

「自分を木に見立てろ」

「あー、そういう奴。俺に出来るかなぁ」


 粉末の日本茶で休憩しながら話す。甘いもんをつまみながら。

 理由を話す事も無く、十数分雑談が続いた。俺の状態も落ち着いた頃、変な気配がした。


「あ」

「お」


 ほぼ同時。ドルイドと同時とは、俺もやるもんだ。今日の運勢一番良かったしな。

 動物の気配に似ているが、人のように傍若無人に近づいてくる。マナが臭い。

 じっくり準備を整えた二分後、準備万端の所に出てきたのは、裸の男だった。痩せこけた犬の頭の。


「リアルな被りもんだな」

「坂田、真面目にやれ」


 ジョンが前衛、俺が後衛。接敵の前に一発かます。


「エーヘーイーエー!」


 神名を振動させる。

 するとケテルの光球が頭上に。これは一般人には見えない。

 そして、ケテルから、エネルギーを降ろし指先に伝え、発射。

 銃弾のように飛び出したエネルギーは白い可視光を放ちながら犬頭の肩にぶつかり、その肉を食いちぎる。周囲に臭い血の臭いが立ちこめた。

 こんな術は、元々の西洋魔術には無かった。

 近い物はあるが、それは本来それなりに時間の掛かる術で、こういう白兵戦には使えなかった。だが、怪異が肉を持ち戦う中で変化した。なんせ奴らには銃も刃物も効きにくい。市街地で怪異に出くわす度にミサイルをぶち込むわけにもいかん。


 犬頭はバランスを崩し、一瞬止まるが、再び襲いかかってくる。

 が、既にその時にはジョンが懐に潜り込んでいた。あっさりうつ伏せに引き倒し、延髄に山刀をするりと差し込む。犬頭はぐったりおねんねだ。

 ちなみにジョンの山刀もおかしな光を放っていた。いわゆる魔化、聖別、マジックウェポンって奴だな。


「こりゃ、ジョン、お前」


 俺は最近似たを見ている。術を暴走させたわけでも無い、偶然怪異を招いたわけでも無い。


「あぁ。先日の山狩りの原因だ。この辺りで人体実験をやったグループがいた。不法移民なんかをさらってな」


 不法移民や犯罪者が人里離れた廃村を再利用してるなんてのは、今時常識だ。それをまるっとかっさらえば、人体実験の材料には事欠かない。


「犬、猫、文鳥、ダチョウ、猿、豚、牛、馬、熊、ライオン。色々やってたようだ」

「こないだ、処分したんだろ?」

「まぁな。だが」


 ジョンは困ったように顎を掻いた。


「何人か、対話可能で、制御もどうにかなりそうだ、となってな。生きてるんだ」


 めでたい。しかし、


「それは困った話だなー。何せ、人里に簡単に戻すわけにもいかんだろう?」

「それがお節介な奴がいたらしい。逃亡した一人に理性と制御法と策を与えたのだそうだぞ、坂田」


 ジョンがこちらをぎろりと睨んだ。怖いので俺は目をそらす。良い天気だな。


「逃亡者のお陰で数人が理性を取り戻し、獣と人を制御できるようになった。不完全だがな。山狩りでもずいぶん助かった。しかし、ご覧の通り、しばらくは怪異が出てくるだろう。場合によっては数年かも知れぬ」

「あぁ、その間、訓練がてら獣人どもはここを守る。協会は獣人を支援する」

「最終的には、表を歩ける地位を用意する」

「上手く行くのか?」

「分からん。が、まぁなんとかなるだろう」

「で、俺が呼ばれるわけは?」

「礼を言いたいんだとさ」

「うわ。めんどくさっ。お前だけ行って、ビデオチャットで良かったじゃん」

「坂田、お前、なんと情緒の無い事を。それにこの辺は電波切れてるだろうが」

「ちっ」


 休憩所を畳んで、獣人達のキャンプ地を目指す。それこそ集落の跡地らしいが。しばらく進むと、再び強い気配が向かってくる。今度は複数。

 目の前に出てきたのは、大きな薄茶色の塊。立派なたてがみを持った雄のライオンだ。後ろに熊、虎、ゴリラなんかが見える。うわー、日本の山林でこの組み合わせ、めっちゃ違和感あるな。ファンタジー。


「このような すがた で しつれい する。 ひさしぶりです さかたさん」


 ろれつの回ってない感じだが、はっきり分かる日本語で、ライオンが話してくる。


「絶対死んだと思ってた。無事で何より」

「ええ わたし も いきてる のが ふしぎ」


 その後は制御法の練習をしたり、初歩の霊的防衛法を教えたり。

 ジョンは獣人達の世話をするグループの一人になっていたらしい。スケジュールなんかを話してた。電波が無いから、色々不便なようだ。物資の受け渡しも気を使うらしい。

 俺は、成り行きでたまに来る事になってた。いや待てそれはおかしいと主張したが、獣人が学んだ方法が俺のやり方である事、近くに住んでる事などで説得された。

 体力が持たない! とダダをこねたら、ジョンが道を作ってやると確約し、獣人達も頑張るから来てくれ、見捨てないでくれと言われて、言い返せなくなってしまった。

 ほんと参った。野生の生物の餌付けは駄目だな。反省した。

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