第6話

 駅の近くの繁華街は、日が落ちたばかりだというのに凄く賑わっていた。

 ちょっと奥に入ると、禁止されてるはずの客引きが平然と行われていて、何とも混沌としている。中国、韓国、東欧、ロシア? 色んな国の言葉も聞こえる。え? 言葉は分からないよ。まぁそんな感じかな? くらい。

 昔に比べたら、経済的な価値は大分下がったらしいが、周辺諸国に比べれば治安は良い。儲けるためじゃなくて安心のために来るんだって、近所のおばちゃんが言ってたな。


 古いビルの三階。エレベータじゃなくて階段であがると、古い扉に真新しい看板で「スナック 蜘蛛の糸」と書いてある。あぁ、本当にこの名前にしたのかよ……。


「あー、あっくん、いらっしゃーい!」

「よ、久しぶり! 新装開店おめでとさん!」

「ありがとー、ボトル入れてくれるの? ふーちゃん感激!」

「馬鹿っ、誰が言ったよ? 飲み放題の水割りだよ」


 絡んできたのは、店のチーママ文月ちゃん。明るい金髪で性格も明るい。ちょっとアホだけどな。でも顔は悪くないし、おっぱい大きいし、すぐくっついてくるから大好きだ。当たるんだよね、いろいろ。俺はEだと踏んでる。D説とF説もあるが、Eが本命だ。

 オーナー兼マスターのセバスチャン、じゃなかった瀬場さんはカウンターの中でグラスを磨いてる。これが、ほんとカッケージジイなんだよな。銀灰の髪はオールバックでビシッと決めて、スリーピースがきっちり決まってる。何故かモノクル掛けてるし。どー考えても飲み放題の安いスナックに居るキャラじゃ無い。


 店には他の女の子も客もいないから、今日は貸し切りみたいなもんだな。

 俺はボックス席に入り込むとだらーっと足を伸ばした。文月が水割りセットを持ってきて直ぐ作ってくれる。焼酎と水の割合は六対四。氷は無しだ。さすが本職、手品みたいな手際。


 その後、何のかんのと話していく。気がついたらボトルも入れてた。お高めの焼酎。スナックの名前は「蜘蛛の糸」と「蟻地獄」、「黄泉比良坂」の三択で。どれも嫌だと女の子達は大反対だったそうなんだが、セバスチャンが鶴の一声で決めたとか。

 ……趣味わるっ!

 大体、前の店名だって「痴情のもつれ」だぜ? そんな名前付けるからストーカーに女の子が刺されるんだよ。


 と、話してると、いい加減ヘロヘロになってきた。客も女の子も増えたけど、文月ちゃんは、俺に付いたまんまだ。愛を感じるね!

 んで、俺に肩もんで欲しいと。

 ほほう、役得来た! 俺のフィンガーテクニックにびくんびくんしやがれ! と素肌に触れて気がついた。あ、これ、ちょっと良くねぇな。


 俺がやってる魔術の系統には、真の治療の技、と言う物が伝わっている。気功にも似た物なんだが。それを言うと、先輩方も気功の人もめっちゃ機嫌が悪くなる。

 まぁそれはともかく。文月ちゃんの話だ。

 まずは俺のエネルギーを回す必要がある。酒飲みすぎて、中々上手く行かねぇ。仕方ないので酒を飛ばす。勿体ない。酔いが醒めちまった。もちろん、その間普通に肩を揉むのは忘れない。


「あー、やっぱりあっちゃんの指最高……」

「うっしっし。そーだろそーだろ」

「ちょっと、顔キモイし。それと指、下に行きすぎ! 金とるよ!」

「こわっ」


 さてさて。自分の中のエネルギーを文月ちゃんに送り、流れに沿わせる。詰まってる部分、弱ってる部分を探し、それが生来の物なのか別の要因か見ていく。

 あー、ここか。

 俺は、手を下げて、背中をさする。


「あっちゃん、何してるの?」

「んー? 肩こりってのはさ、色んな所の影響が出るからさ。背中も関係あるのよ、っと」

「あ、ほんとだー、うわー。っき、きもちいーーーーー」

「お前、スゲー顔になってんぞ」

「一家に一台、あっちゃんほしいねー。あーあ、あっちゃんがもうちょっとイケメンならなーー」

「お前、なにげにヒドいな。所で、この背中なんだけどさ」


 背中の辺りにおかしなコリがあったから、ちょっと医者に診て貰った方が良いと忠告する。死んだ爺ちゃんも同じで胃がんだったと脅すと、面白いくらい真面目に聞いてくれた。


 次、店に行ったら文月ちゃんの奢りだった。

 幸い、保険の範囲内の投薬で済むらしい。めちゃめちゃ感謝されたけど、女の子全員とマスターまで揉まされたのは参った。

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