第2話

「あ、お釣りは取っといて」

「いつもすいませんね」


 自宅前にタクシーで乗り付ける。駅からうちまでは歩くには遠い距離だ。普段ならバスなんだけど、今日はその気分じゃ無かった。


 郊外の住宅地。周囲はちょっとだけ不揃いの家が建ち並ぶ。俺の家は、他の五倍ほどの敷地がある。人口が減って住宅はだぶつき気味のご時世に、ずいぶん強気の値段だった。

 不動産屋の担当者も強気で、俺の職業を見た時には鼻で笑ってくれたもんだった。ま、年も若かったしな。

 お返しに札束入りのジェラルミンケースを机に積んでやったら、ずいぶん面白い顔をしてくれたんで許したが。


 玄関の鍵を開け、中に入る。いつも通り綺麗な廊下だ。

 普段は家政婦に掃除を頼んでいる。食事は基本外食だ。たまに気が向けば作るがね。


 そのままの足で三階に上がり、鍵の掛かった部屋に入る。鍵はパスコード式だ。指紋認証で仮想キーボードが浮かび上がり、そこに聖書の一節を打ち込む。

 部屋は広い。三階の半分以上を占めていてほども或る。ここは家政婦には入らないように頼んでいる。

 照明を付けると、そこには俺専用の儀式場が広がっていた。

 今時、日本でリアルの儀式場を作る奴は少ない。発覚の危険があるし、相変わらずコストが馬鹿高い。必要な時に貸し会議室やホテルの宴会場、人の少ないコテージを借りた方が安全だ。会議室を借りる時にも、名義、名目が大変なんだそうだ。

 確かに「魔術団体です。天使召喚のために部屋を借りたいのですが」とは言えないわな。

 それ以上に、VR上で儀式場やロッジを作った方が、リアルでカッコイイ。ジジイどもは嘆いているが、しがらみと金の無い若い奴らはそっちが主だ。

 だが、俺はこうして儀式場を作った。まぁ魔術師の夢だよな。夢。

 ただまぁ広い場所を取り過ぎて、掃除が大変なんだ。ついつい資料なんかも積んじまうし。人に見られたくない道具なんかも。

 お陰できっちりした儀式をやろうとするたびに掃除が大変だ。

 ソロは辛い。

 だけど、魔術師仲間にここを見せる時の優越感はたまらんね。作って良かったと心から思う。みんなが代用肉で我慢してるところ、一人本物のステーキを頬張ってるようなもんだ。たまらんぜ?

 ゲスだって? 上等! ゲスで文句あっか?


 30分ほど掃除に時間を費やし、沐浴し、儀式用ローブに着替え、香を焚く。


 さて、儀式の始まりだ。

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