兼業魔術師の日常
OTE
第1話
「お疲れ様です。ではまた来週」
「あ、坂田先生!」
講師控え室の出勤簿に印鑑を押し、事務室に挨拶。
そしてそのまま駅に向かおうとしたところ、呼び止められた。
手を握ってくるのは事務の有川さん。既婚。妙に色気が有る上に、やたら俺に触ってくる。しっとりした両手。それに上目遣いはやばいって!
「な、なんです、有川さん」
「ここではちょっと……、ね?」
強引に引っ張られるように、空いた会議室へ。周りの目が痛い。勘弁してくれ。
人目が無くなって有川さんは更に大胆になる。
潤んだ瞳のまま、彼女は俺に抱きつく。
「私、坂田先生のことを思うと眠れなくて……」
「た、大変ですね」
濡れた瞳。色っぽい。おっぱい当たってるし! こないだまで旦那さんの惚気ばかりだったのに、女って怖い!
「少しだけ、キスして?」
「え、ええ、喜んで!」
ぶちゅるるるるるるうーーーー
二人だけの会議室で下品な音が響く。
「坂田先生、案外積極t」
言わさねぇよ。もう一度俺が唇を塞ぐ。そんな赤い目をして、余程飢えてたんだな。俺が満足させてやるよ。
「んぐ?! あ? まって? あ、あ、あ!!」
いつの間にか、有川さんの腕は下にだらんと下がり、俺の両腕ががっちりと彼女を捉えていた。
びくんびくんと、エビのように跳ねた有川さんの全身から力が抜ける。全身から何か陽炎のような物が溢れ、消えた。
俺の中に満ちる充足感。
「しかし、まさか学校でサキュバス退治する羽目になるとはな」
先ほどまでの色気が嘘のように消えた有川さんを机に寝かせる。
ついつい、ため息が漏れる。
「しかし、周りが誤解しそうで面倒だなぁ。彼女にサキュバス付いてましたと言ったところで、本気にされるわけがないし」
そう。悪魔も魔術も幽霊も。この世界には居ない事になっている。
だから俺の職業欄には「ライター、講師」と書かれている。いわゆる世を忍ぶ仮の姿、という奴だ。
本業は魔術師、のつもりなんだがね。中々上手く行かない。
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