第二十八話「「『ファイナンシャル・ドリーム』は騙されない(けど動くよ)!!」

「いやあー。『結婚保険』での詐欺は絶対に許されないし、それをさせてはいけないし、そういう気持ちにならないように十分に気を使っていくべきだと思っているんだけどさあ、これまでも保険金目当ての詐欺まがいのお客さんも何人かいたねえ」

「あー、そうでございますねえでございます。三年間で意外と少なかったとも思いますがでございますがでございます」

「うん、分かりやすくいつもの独り言だ」


「え、なに!?パチンコで出玉を盗まれたのですか!?話しかけられている隙に八千円入ってたカードを盗まれたと!?大丈夫ですよ。パチンコホールは防犯カメラが付いてありますので。それを店長に言って確認してもらいましょう。その盗んだ犯人があなたの知人の場合は…、契約に書かれてあるペナルティーですからね。え?八時間以上打ったのに何故勝った金額の二割を保険で取られるですかって?通常八時間以上打てば勝った時の保険に取られる金額は勝ち額の一割だろうって?『ホルコン』で確認しましたよ。あなたは確かにあの日はホールの中には八時間以上いましたが休憩や打っていない時間が著しく多かったですね。台の稼働を見れば明らかに座っているだけで打っていなかったでしょう?八時間に満たない時間で大きな勝ちが確定した時点であなたは守りに入り、時間つぶしで出玉を減らさない行為をしましたね。え?『ホルコン』とは遠隔操作のことだと?勘違いも甚だしいですねえ。『ホルコン』とは『ホールコンピューター』の略ですよ。カウンターの景品交換のお姉ちゃんでも見ることが出来るんですよ。『ホールコンピューター』はどのホールにも事務所とカウンターの二か所には設置してますからね。画面でそのホールの全ての台の出玉や稼働が把握できるんですよ。あ、先生から教わった打ち方を徹底していないようですね」

「え?受験で志望校が中間層狙い?あそこは普通に名前が書ければほとんど落ちることはないでしょ?それなのに『受験保険』を何故希望されるんですか?あなたは最初から私立狙いですよね?」

「え?独立したのに最近は周りに激安店が増えて売り上げが落ちてきている?『自営業保険』で何とかしてほしい?それは分かりますがね。その前にこのところ、お店のお休みが増えてますよね?しっかりと営業日数は確認してますので。よくシャッターに『店主都合により勝手ながら本日お休みとさせていただきます』の紙を貼ってますよね?当然、食材もその日までのものも多いですよね?あなたのお店は刺身が売りですからね。原価率も当然上がってお店が苦しくなるのも当然です。本日お伺いしますのでもう一度保険の見直しを致しましょう。え?『食べロック』に嫌がらせの書き込みをされた?それを書いた人間は特定できます。ええ、では八人でご予約させていただきますのでテーブル席を二つで夜九時からでいいですか?閉店間際にならお話する時間も取れますでしょう?ええ、はい。飲兵衛たちを連れ行きますので。ではよろしくお願いします」

「え?『マイホーム保険』で確定申告したら思っていたよりお金が返ってこなかった?領収書は全部出しました?ええ、ドラッグストアの湿布や虫刺されの領収書は?温泉へ行った領収書は?ジムの領収書は?ええええ?!とってない?全部医療費として認められるんですよ!!散々ご説明したじゃないですか!再発行して全て用意しましょう。ええ、今から伺います」

「え?怪盗キッ〇に宝石を盗まれた?あれはアニメの世界でしょう?え?ガチですか?コ〇ン君にル〇ン三世までコラボレーションでとんでもないことになってる?まあとりあえず急いでお伺いしますよ」



 とまあこんな感じである。まだ創業三年の若い会社である保険屋『ファイナンシャル・ドリーム』は世界一の保険屋を目指している。これからはもっと悪質で巧妙な保険金目的の詐欺行為も想定される。そんなことは橋本も大山も商品を考え出し、お客さんに提供する時点で何度も自分ならこうやって保険金を騙し取ると考える。しかも「結婚保険」は金額が大きくなればなるほど危険な商品であると考案者の橋本は十分に理解している。今後もしっかりと目を光らせて、ふんどしを締めなおして、兜の緒を締めなおして、転ばぬ先の杖を通販で購入する気で、春には芽が出るように、踏ん張ると実が出るように、お手洗いで大をした時、拭いた後にその紙を必ず誰しもが見るように、はらたいらさんに五千ウォンを一ウォン0・3円と換算してでもかけるように。まあ、とにかく頑張っていこうねということである。

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