第二十七話「結婚保険編・『永遠の愛を誓おうぜ!!』」
「おい、一体どういうこと?」
「この保険を悪用するならお金を貯めこんで、意図的に相手を死に至らせること。それしかないでしょう」
「!」
もじおがようやくもじこの感じた想像に追いつく。
「世の中には保険金絡みの事件、金に目が狂った狂人は暴走し、最悪な行動をとることもあります。我々はそのような行為を決して許しません。もし、この『結婚保険』に加入されている方でその満期となる永遠の愛を誓った相手の死を迎える時、その死に我々が少しでも疑問を感じた時は徹底的に調べます。我々の人脈を甘く見ない方がいいとお考え下さい。我々の目を欺くことは不可能とご理解ください。その時は掛け金を全て没収いたしますし、一円の保険金もおりることがないとご理解ください。それと同時に全てを失い、その後の人生をとてつもない恐怖に怯えながら送ることになるとお考え下さい。まあ、そういう可能性も確率としてありますのでというお話とご契約ですよ」
「そうですね。僕も彼女も絶対にそんなことはしませんが、過去を振り返ってみればそういう人間がいるのも事実ですからね」
「それはとても悲しいことだと思います…」
「まあ、人生送りバントという言葉もあるぐらいですし、美人は三日で飽きるとか。そうそう人生こちら葛飾区亀有公園前タイムリーヒットとか。あと、私は人を見る目も結構ありますと言いますか、不思議と私の直感と言いますかね。当たるんですよ。長江様、沢原様。お二人はとても素敵なご夫婦になられるとお会いした時から感じてますよ」
「あ、ありがとうございます!是非『結婚保険』の契約をお願いします。いいだろ?」
「うん。もちろん。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします」
「それじゃあ君。契約書と書類の用意を」
その後、もじこもじおはとりあえず月二万円からの掛け金からスタートする契約を交わし、今後は出来る限り余裕がある時は掛け金を多めに払い、子宝を授かったらもじこは一度仕事を離れること、子供に対して一番に考えること、共働きも税金面などのレクチャーを受けてメリットデメリットを考えながら子供優先を大事にしながら今後検討することなどを話して帰っていった。そして後日、『ファイナンシャル・ドリーム』の二人に結婚式の招待状が送られてきた。
「いやさあ、『結婚保険』って我が社の目玉商品で確実な商品なんだよねえ」
「まあ、結婚には人生のリスクのほとんどがつまっているであるでございます。統計ではこの国の浮気をする確率は…」
「うん。そうだね。小学校の先生が生徒のお母さんと不倫したり、自動車教習所で教官と生徒が短期間で突き合う関係になることも普通にあるからねえ。まあ、男女の心と秋の空と山の天気とどっちも可愛すぎてどっちがマ〇カナちゃんだけはいつになっても分からないねえ」
『ファイナンシャル・ドリーム』の目玉商品である『結婚保険』。マイナスは確実にゼロ。黒字のみの保険である。そのからくりは橋本が海外放浪の旅で作ったものすごく金利も高く、元本保証の今では「そんなの絶対無理でしょー!」と言われるような海外の銀行口座をいくつか持っているからである。年利二パーセントの金利を付けようがその三倍以上の金利の海外の銀行で『ファイナンシャル・ドリーム』はお客さん以上に金利で儲けを出している。また、実に坂上町での統計でも毎年婚姻届けを提出するカップルの数の三分の一の数の離婚届が提出されている。そして橋本のシミュレーションでは離婚したお客さんに支払う四分の三の金額とそれ以外の離婚による裁判費用や弁護士費用を差し引き、会社に残るお金の単価は離婚一組につき約百五十万円。三年前の『ファイナンシャル・ドリーム』設立時から始めた橋本が考えたこの『結婚保険』ぽつぽつと加入者は右肩上がりで増えている。特に紹介での加入者が多い。保険は紹介でお客さんを獲得することがとても楽である。またこれまでの二人の人柄からか「善意」の紹介が圧倒的に多い。この三年で『結婚保険』加入者で離婚したカップルの数は四組。どちらかに『正義』があった事例が二回、どちらにも『正義』があった事例が二回。どちらとも掛け金の総額は百万円にも満たない時点での解約だったが『ファイナンシャル・ドリーム』の取り分である掛け金の四分の一は全額裁判費用と弁護士費用にぶち込んだ。そして「足らない分は知りませんのであとはどうぞご勝手に」と。もちろんどちらかに『正義』があった場合の二回は赤字を出してまで『正義』のあった方を最後まで援護し莫大な慰謝料を相手からぶんどり、赤字分だけは返してもらった。この結婚保険は十年経ったころから旨味が出てくる。なにしろ掛け金三万円で四百二万円である。橋本の人脈には成功報酬型の優秀な弁護士がいる。これまた安い着手金を支払えばしっかりとした仕事をしてくれる。『正義』のない相手からぶんどり百万円は必ず回収する。橋本は満期を待たずに解約の場合「掛け金の四分の三は全額お返しする。そして裁判費用も弁護士費用も残った四分の一から全額負担する」と言っていたが、相手から回収した金に関しては約束を口にはしていない。契約書にもその点は明記してある。しかし気が付かないお客さんがとてつもなく多い!それでも今のところ解約したその四組は文句を言ってきていない。現在、この「結婚保険」の加入者数百四十八組。掛け金はすべてものすごく金利も高く、元本保証の今では「そんなの絶対無理でしょー!」と言われるような海外の銀行口座へ。そしてあと七年ほど経つと離婚一組で約百万の利益。今の加入者である百四十八組すべてが七年後に離婚すれば『ファイナンシャル・ドリーム』に入ってくるお金は百万円×百四十八で一億四千八百万円。そしてもう一度言うがこの「結婚保険」の加入者は右肩上がりで増えている。十七年後には三万円で二十年掛け金を支払い続けたお客さんがメインになってくる。二十年間三万円を支払い続けたお客さんの積立金は通常の銀行への預金なら七百二十万円だが「結婚保険」なら八百九十二万千九百九十四円。その四分の三が六百六十九万千四百九十五円。『ファイナンシャル・ドリーム』の取り分は二百二十三万四百九十八円。こうなれば多少弁護士費用や裁判費用を持ち出しにしても百五十万円は手元に残る。その頃に二百人が離婚すれば百五十万円×二百で三億円の利益。そして元本保証でものすごい金利の海外の銀行口座。これが「結婚保険」の錬金術である。あくまで『ファイナンシャル・ドリーム』の理想は「結婚保険」で永遠の愛を誓い合った二人には最後まで誓いを貫き通してほしいのが本音である。それでも莫大な利益が出るのは確実であるから。それでも毎年多くの男女が離婚をするのである。それが現実であり、仕方のないことでもある。
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