第二十六話「結婚保険編・危険な保険」
「ご、五十パーセント?この数字はどこから出てるんですか?」
「『結婚保険』を取り扱っているプロの保険屋、世界一の保険屋を目指している我が『ファイナンシャル・ドリーム』が独自の数式にデータを当てはめて弾き出した数字になります。数字はとても正直で正確です。さあ、ここから『結婚保険』についてご説明致しましょう。掛け金はお二人で基本月三万円。この金額は下げることも上げることも可能となっております。その時のご収入に応じて変動して頂いて構いません。そして最大の売りはお二人がどちらかの死を見届けるまで、そう、最後までその誓いを貫き通した時、お支払いいただいた掛け金を全額残された方にお支払い致します。受取人がその残されて悲しみを受け止めるための、そしてそれからお一人で、まあ、その時にまた新しいお相手を見つけるのも自由ですがその時にまとまった金額のお金を手にすることが出来ると言うわけです。お金で悲しみを埋めることは出来ませんが生きていくのにはとてもお金は大事です。例えばですよ。三万円をこれから、そうですねえお二人が二十代後半で加入したとして五十年生きたとしましょう。医療の発達はすさまじいですからね。この国の平均寿命はこの数十年で格段と上がりましたから。これからもその数字は上がるでしょう。三万円×十二の一年で三十六万。そしてそれに×五十で千八百万円。どうです?残された方がこれだけのお金を受け取るわけです。もちろん掛け金はお二人でいる間は払い続けていただきます。もちろん年金暮らしになって収入が減ったからなどの理由で掛け金を千円に減らされても結構です。これはお互い、相手のことを思っていないと成り立たない保険ですので。そして二つ目のメリット。それはお支払いいただいた掛け金を生活に困った時、そうですねえ、子宝に恵まれてその大事なお子さんが病気になってしまって大金がかかってしまうとか、家族の収入が突然なくなり仕事を探すまでお金が必要になったとか。そんな時に申請していただければそれまでの期間に積み立てておいた分の金額までは自由におろしていただいても結構です。もちろん、保険が満期になった際にお支払いする金額から使った分の金額は引かせてもらいます。そこで確率です。もし、あなた方お二人が誓いを破った時。ちょっとした価値観の違いで別れることも普通に起こりうると想定しております。男女とはそういうものです。しかし、結婚式で永遠の愛を誓うのと我々の前で永遠の愛を誓ったのは意味合いが違ってきます。では我々の前で誓った永遠の愛を破った場合。離婚した時点でこの保険は解約となります。その際にお支払い出来る金額はそれまでお支払いいただいた金額の四分の三になります。残りの四分の一は我々に嘘の誓いをしたと言うことでそのペナルティーとお考えいただければ。そしてお支払いする四分の三の金額。これは明らかに一方に非が認められる場合、つまり浮気や浪費癖が激しい、お互いの役割の放棄、肉体的・精神的な暴力など。その場合、『正義』のある方に全額お支払い致します。もちろん丸々四分の三の金額です。裁判など離婚にもお金がかかります。その費用も我が社が負担します。全面的に『正義』のある方に我々はつきます。それ以外の場合。つまり、どちらにも非がない場合。すれ違いや性格のフィッチである日突然離婚届を突き付けられることも現実としてあります。その場合は話し合って四分の三の金額をお二人で分け合ってもらいます。もちろん、その場合も裁判費用や弁護士費用も我が社が全額ご負担致します。もちろん一年持たずに誓いを破られた場合なども想定されます。その場合は極端な話として、裁判費用も弁護士費用もその金額に見合ったレベルで我が社が段取りを組みます。もしかしてですが…。今のご説明の時点で少しでも迷われてませんでしょうか?」
「え、いや…」
「たった今、永遠の愛を誓ったばかりなのに『もしも』のことを考えていらっしゃる。その慎重さは大事ですし、私は好きですよ。だったら普通に貯金した方がいいじゃないの?『もしも』の時に四分の一の金額を失うのはバカらしい、と。普通ならそう考えます。ここからがこの『結婚保険』の特徴です。まず、税金面。生命保険なら相続税で税金をがっぽり持っていかれます。しかしこれは『生命保険』ではなく『結婚保険』です。受け取りに税金はかかりません。そして『利率』です。この『結婚保険』は積み立てとお考え下さい。この国で銀行に預金して今の時代どれほどの金利が付くと思いますか?大手で0・01パーセントの世界です。ATMの手数料で利子なんて一瞬で吹っ飛ぶのが一般人の預貯金です。それを何十万人と集めて年数パーセントからカード系なら十数パーセントの金利。銀行が単なる両替屋から国が銀行を救う時代になり、今ではサラ金とやってることは同じと考えた方がいいでしょう。クレジットカードのリボ払いなど雪だるま式で借金地獄行きなのに気付いてない方も多いのでは?はい、一番の本題になります。我が社の『結婚保険』は受け取る際に年二パーセントの利率を付けます。百万円が一年で百二万円に。一千万円が一年で一千二十万円に。これではピンときませんね。掛け金を月三万円でシミュレーション致します。十年後に四百二万七百三十七円。二十年後に八百九十二万千九百九十四円。三十年後に千四百八十九万六千五百九十八万円。これを普通の銀行に預けた場合三十年後が千八十万円。利子だけでたかが年二パーセントが四百九万六千五百九十八円の差が出ます。四十年後で二千二百十七万九千六百七円。五十年後で三千百五万七千五百五十五円。銀行に普通に預金して利子がほぼなしとして五十年で千八百万円。その差千三百五万七千五百五十五円。どうです?ピンときました?」
「す、す、すごーい!」
「三十年で四百万円!?五十年で千三百万円!?それって途中でおろすことも出来るんですよね?」
「はい、お支払いいただいた金額内でしたらおいくらでも」
「契約します!問題ないよね!?」
「もちろん!これってすごーい!『結婚保険』さいこー!」
「あ、一点だけよろしいですか?」
「は、はい。もちろん、こんな旨い話には理由があるんですよね?」
「その一点とは何でしょう?」
興奮して橋本に身を乗り出しているもじこもじお。
「この保険は考え方によるととても危険な保険でもあります。なにしろ高額なお金が絡む保険ですので。不正にお金を受け取ろうと考えると…。お分かりになりますか?」
「…いえ?分かりません」
「…あ!」
「沢原様はお気付きになりましたようですね」
橋本が冷たい目をもじこもじおに向ける。もじこはものすごく緊張した表情に変わってしまう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます