第二十五話「結婚保険編・『さがしものはなんですか?』だぜい!
「お二人ともご両親やたくさんの方に愛され大事に育てられ、今に至るのです。おもちゃに飽きたからと言って新しいおもちゃを買えばいいで済みますか?その飽きて捨てられるおもちゃにだってたくさんの方の情熱や愛情がそこには宿っているんです。そして若さは永遠ではありません。人は時間と共に年老いていくものです。誰かひとりを生涯愛し続けると言うことはとても大変なことなんです。私も多くのご夫婦を見てきました。その方たちがそれを続けていくことのコツを教えてくれました。それをまずアドバイスとしてお二人に言っておきましょう。それは『ほんの少しでいい。相手に対して優しい気持ちを持ち続ける』ことです。今はこれだけストレスの多い社会です。旦那様が仕事で理不尽な目にあうことなどこれからいくらでも起きます。それは奥様も同じくです。女性の大変さを男性が理解することなど無理があるのです。しかし想像することは出来ます。相手のことを常に想像し、ほんの少しでいいから優しい気持ちを持ち続けるのです。『仲良くケンカしな』と昔はみんなが歌っていたもんです。あとこれは映画監督である小津安二郎様のお言葉です。『どうでもよいことは流行に従う 重大なことは道徳に従う 芸術のことは自分に従う』。有名な走り屋のチームの言葉なら『どっちでも構わねえことは流行に従えばいい だが大切なことはルールに従おう そして燃えるべきことは自分に従おう』ですね。私はとても好きですよ。この言葉。それで沢原様。結婚するとあなたは今のお仕事を続けるおつもりですか?それとも結婚後は専業主婦になるつもりですか?」
「私は…、今の仕事は続けるつもりです…」
「それで子宝を授かった時はどうされます?」
「その時は…、今は即答出来ません…。それは彼とも話し合って決めたいと思います…」
「共働きにはメリットもあり、デメリットも同時に存在します。税金面や年金、社会保険、あとやはり子宝を授かった時ですね。仕事より大事なものはたくさんありますが子供より大事なものはありません。またご高齢者もそうです。よく『年金など払っても自分が受け取る時にはシステムが破綻するから払えば損するだけ』と聞きませんか?それは間違ってます。今、私たちが支払っている年金はこの日本を急成長させ、長きにわたって支え続けてきたご高齢者のために支払っているのです。そしてその考え方を浸透させれば私たちが年金を受け取る世代になった時に若い力が私たちを助けてくれるのです。さて、ここで長江様、沢原様。我々の前で永遠の愛を誓うことが出来ますか?結婚とは必ず最後にどちらかが先に死を迎えます。残された方は想像できない悲しみを受け止めなければなりません。また、その時に新しい相手を見つけるのも自由です。一途に先立った相手を想い続け、少しだけ遅れてまた一緒になるもいい。また、信じられないと思いますが時に相手の顔を見るのも嫌になるぐらい相手のことを憎んだり、嫌いになったり、誘惑に一時の感情で大きな過ち、取り戻しのつかない過ちを犯してしまうこともあります。ある日突然相手が洗脳されたり、偏った教えにのめり込んでしまったり、巨悪に巻き込まれ理不尽な悲しみに襲われたり。それでも誓えると言えますか?」
「誓います!」
「私も誓います!」
もじこもじおがハッキリと口を開く。さあ電卓の時間だ。おや?
「素晴らしい!お二人の素敵な誓い。我々はしっかりとこのお耳で聴かせていただきました。さて、君ぃ!電卓用意!…のまーえーにー。お時間をまたまた少しいただきますねー」
そして立ち上がる二人。
「探し物は何ですか?」
「はい、ちょっとしたものです」
「見つけにくいものですか?」
「そうですねえ。まだ見つからないので見つけにくいですねえ」
「カバンの中も机の中も探しました?」
「探しましたけれど見つかりませんわ」
「まだまだ探す気ですか?」
「もちろんですわ」
「それより僕と踊りませんか?」
「え?踊るんですか?」
「夢の中へ行ってみたいと思いませんか?」
「え?夢の中ですか?行きたい!行きたい!行きたーーーい!!」
「休むことも許されず、笑うことも止められてはいつくばって、はいつくばって一体何を探しているのか?」
「なのでちょっとしたものですわ」
「探すのを止めた時、見つかることもよくある話で」
「そうなんですか?」
「踊りましょう」
「本当に踊るんですか?」
「夢の中へ行ってみたいと思いませんか?」
「行きたい!行きたい!行きたーーーい!!連れてってえー!でもね、それよりも」
「それよりも?」
「秋が終われば冬が来る。本当に早いわ」
「秋から冬はあっという間だからねえー」
「夏休みは二人してサイパンに行ったわ」
「楽しかったよねえー」
「日焼けした肌まだ黒い、楽しい思い出」
「あー、思い出すなあ。またお金貯めていこうねー。今度は国内でもいいかあー。冬は温泉もいいよねえー」
「温泉もいいけど、来年もまたサイパンへ泳ぎに行きたいわ」
「えー、来年もまたサイパン!頑張ってお金貯めないと!こりゃあ温泉は我慢かな?」
「あなたは優しい人ね、私を抱き寄せて」
「お、なんだなんだ。急に改まってえー。なんか照れちゃうな。でも抱き寄せちゃえー!がばあ!」
「ずっとこのままいようとキスをした」
「ぶちゅううううううううううううう!」
「私がオバさんになっても泳ぎに連れて行くの?」
「も、も、もちろんじゃないかあ!」
「派手な水着はとてもムリよ、若い子には負けるわ」
「その頃には俺もお腹がメタボでダイエットに励むよ!」
「私がオバさんになっても本当に変わらない?」
「俺の体系は変わっちゃうかもしれないけれど、心はひとつです!」
「とても心配だわ、あなたが若い子が好きだから」
「若い子も好きだけどお前だから好きなんだよー!」
「私がオバさんになってもディスコに連れてくの?」
「もちろん!ミニスカでもなんでも好きなものを履けばいいさ!」
「私がオバさんになってもドライブしてくれる?」
「どこまでも!オープンカーの屋根を外すんだよね?それより俺がおっさんになっても『下着をめくる冒険』に付き合ってくれるかい?」
「私がオバさんになっても『下着をめくる冒険』に連れてってね」
「二人で死ぬまでずっと『下着をめくる冒険』だ!!」
とても素敵なものを見る目でもじこもじおが二人を見る。そしてまた座り直して橋本がいつもの言葉を発する。
「君ぃ!電卓用意!」
「電卓入りまーす!」
いつものようにものすごい勢いで大山が電卓を弾き、手を止めてから電卓を橋本に渡し、それを橋本がもじこもじおに提示する。
「これがあなた方お二人の確率、どちらかがどちらかの死を見届けるまで共に人生を歩み続ける確率になります」
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