第二十四話「結婚保険編・『ラブホテルにラブはない』ぜ!!

「長江様が二十七歳。沢原様が二十六歳。交際歴六年。出会いは大学のサークルの飲み会にて。現在は長江様がサラリーマンで入社五年目。沢原様も同じく大手企業にお勤めで入社四年目。お互い収入も安定されてますね。長江様が年収三百五十万円。沢原様が年収四百万円。あ、沢原様は年俸制なんですね。お住まいは坂上町のマンションで同棲生活を一年半。お互いの両親にはそれぞれご挨拶は済んでいらっしやる、と」

「なるほど。お互いに安定した企業で毎日汁まみれになって働いていらっしゃるわけですね」

「社長、汁まみれと言うよりも汗まみれと表現した方が若いお二人にはお似合いかと」

「これはこれは。大変ご失礼申し上げました。それでお二人は『下着をめくる冒険』はもう…お済ですよね?英語で言うなら『インアウト』ですか。まあ、お子さんを作る行為と言いますか」

「…まあ、それは…」

「付き合いも長いですので…」

「それでいいお突き合いをされてます?」

「社長、録音したご自分の声をお聞かせいたしましょうか?」

「うわ!それは勘弁!ごめんなさい!録音した自分の声を聞くと誰もが不快な気持ちになるよね?あれってなんでだろうね?すいません。横道にそれました。それでお二人は『ラブホ』って言葉をどう思われますか?坂上町にも何軒かございますよね?」

「……どうなんでしょうね。僕は使ったことないですね…」

「……私も。使ったことないです…。なんかイメージですが大人のホテル…なんですかね?」

「まあ、私は何回か利用したことがありますが。終電を逃したり、他の宿泊施設を確保することが出来なかった時にです。常に一人で利用しました。中は、そうですねえ。共通していたのはホテルではありますが『ラブ』なホテル、『ラブホ』とは言えないということです。お二人はお突き合いも、おほん!お付き合いも長いですので『下着をめくる冒険』を何度も行われたと思います。でも計画的にしっかりと子宝を授からないように、『ゴムゴムな実』の進歩のおかげで快楽をお楽しみになったでしょう。本来、『ラブ』な『下着をめくる冒険』はお互いの家、部屋のどちらかで行います。私が思うにあのようなホテルを利用される方には『ラブ』がない、もしくは邪な見せかけの『ラブ』、もしくはお金で売り買いされる『ラブ』が非常に多い!純粋な『ラブ』はあまりないかと。そうですねえ、純粋な『ラブ』なら夜景もいい、ディナーも素晴らしい、ゆったりとお酒も飲める、そんな環境が整った宿泊施設、相手に特別を演出する気持ちがあればそれらを含めて『下着をめくる冒険』だと思いませんか?よく芸能人が『ラブホ』に入る瞬間をスクープされたり、一般人でも『ラブホ』に入る瞬間を写真に撮られ脅されたり。それはなぜ?『ラブ』なホテルなのに人はゲスイ感情を持つのです。その時点で『ラブ』なホテルとは呼べません。じゃあ何と呼べばいいか?『アダルトホテル』でいいんじゃないでしょうか?分かりやすくていいじゃないでしょうか?」

「言われてみれば…」

「そうですね…」

「私は野暮な質問は致しません。お二人はこれからお互いを生涯の伴侶として生きていくわけです。しかし、現実として理由は様々ですが離婚される夫婦も実に多い!実際の統計にもこの国の離婚率はとても高い!立派な結婚式を挙げ、たくさんの祝福してくれる皆さんの前で生涯の愛を誓い合った二人も多くの割合で離婚してしまう。結婚とはそれほど『リスク』の伴うものなのです。今までお互いのいいところしか見てなかった、しかし嫌なところも必ず見えてくる。『プリプリ』の『ダイヤモンド』って曲をご存知ですか?」

「あ、知ってます」

「私も…、知ってます」

「あの曲は結婚指輪を買いに行ったカップルを歌った曲なんですよ。売り場で店員さんにダイヤモンドの指輪を勧められた女性は『ダ、イ、ヤ、モ、ン、ド、だねー♪』と。そして予算オーバーで焦った男性は『ダ、イ、ヤ、モ、ン、ド、だめー♪』と押し問答がありましてね。他にもまあ『キグナ〇氷河にカ〇ュさんが授けた最も初歩的な技が、ダ、イ、ヤ、モ、ン、ド、ダストだねー♪』とまあこれは無理があると思うんですけどね。他にも『アグネス・チャン』さんを『アグネス・チャン』ちゃんと呼ばないといけなかったとか、『ヒアルロン酸』ちゃんを『ヒアルロン酸』さんと呼ばなかったから揉めたなど。壊れるほど愛しても三分の一も伝わらない上に、らんまさんは二分の一だから、らんまさんが壊れるほど愛しても実際には六分の一も伝わらないなど問題も多いんですよ」

「社長。本題に」

 ポカーンと橋本の話を聞いているもじこもじお。

「おほん!こほん!それで結婚のリスクの話でしたね。他にもお互いの親のこと、将来は介護もしなければならない可能性もあります。相手の親と上手く関係が築けずに別れる方もいらっしゃいます。それがストレスになることも多いのです。また、親戚や兄弟、そういった方とのお付き合いも大変です。義理とはいえ兄弟や姉妹になるわけですから。他にもいろいろありますよおー。と言うわけで少し私たちにお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

 もじこもじおの返事を待たず立ち上がる二人。始まるぞー。

「人生には常に!」

「そう!人生には常にリスクがある!!私の私の彼ぇはー♪ひだりきっきぃー♪だけど文字を書くのは右手だけどね!素敵な素敵な旦那様!愛しのレディー!ピアノ前奏十五秒!バタフライ♪今日は今までのどんな時より素晴らしい!永遠の愛を誓いのチュッ!ブーケ受けとれい!あなたぁ!いってきますのチュッ!ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・後ろから前からハッスルハッスルー!お腹の子がー!おぎゃあああ!先生!安心してください、ご主人様。元気な男の子です。お前、頑張ったなあ!冬の『ボーナス確定』!柱の傷はー♪しかし家庭にひびが!お父さんリストラ!お母さんが知らない人とアダルトホテルに!ジュニア、リーゼントで武丸商事!買い物しようと町まで出かけたらテレクラのティッシュを渡され愉快痛快あなたの知らない世界!旦那の母親と同居もお茶が薄い!塩分が濃い!そもそもあんたの存在が薄い!警察です。息子さんがちょっと万引きの現行犯で、ええ、はい。とりあえず署の方まできてもらえませんかねえ?休日も家族サービス!残業終わって深夜に帰宅!家に帰ったらテーブルの上にどん兵衛が置いてあるだけ!お小遣い?そんなのお昼代五百円毎日渡してるでしょ?タバコ?そんなの辞めればいい話でしょ?スパー!あああああああ!危ない!危ない!危なーーーい!!はい、よろしく」

「危ない!危ない!危なーーーい!!」

 もじこもじおが怯えるように二人で身を寄せ合いながら二人をポカーンと見つめる。

「と、まあ結婚には実に様々なリスクがあるわけですよ」

 座りながら橋本が再度話を続ける。

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