第二十一話「橋本のプライベートだぜ!!」
さて、世界一の保険屋を目指す『ファイナンシャル・ドリーム』の橋本と大山。ここで少しだけ二人の休日の過ごし方やプライベートを覗いてみよう。
え?なになに?放送前に流していい部分とそうでない部分、チェックを入れるならオーケー?うーん。こればかりは個人のプライベートな部分であるから致し方ない。
それでは橋本の方から見てみよう。
午後十一時前に帰宅。二匹の猫が玄関までお出迎え。この二匹がリキマルにコジローなのだろう。リキマルもコジローも橋本を見上げてにゃーにゃ―鳴いている。「ただいまー!今日も元気におとなしくお利口にしてたかな?」と言いながら空っぽの二つのお皿に餌を入れる。水も新しいのに取り換える。リキマルとコジローは与えられた餌に夢中になり橋本は「おいおい。僕じゃなくて餌待ちかよー」とぼやきながら猫のトイレの掃除をする。それからスーツからスエットに着替えるが携帯電話がひっきりなしに鳴る。会話を聞いているとどうやら「パチンコ保険」の先生方からの連絡のようだ。携帯を手にしながら冷蔵庫を開け、食材を取り出している。携帯を肩と耳に挟み、器用に話しながらまな板でトントントン!手際よく夕飯を作っているようだ。携帯は切っても切ってもかかってくる。この時間帯は毎日そうらしい。ようやく落ち着いてテーブルで自炊した夕飯にありつく頃には餌を食べ終わったリキマルとコジローがテーブルの上に乗り、橋本の夕飯を狙ってくる。「だめだめ!これは僕のだぞ!」。夕飯を食べ終えるときれいに後片付け。そしてその間に沸かしておいたお風呂にざっぱーん。欧米人のようにお風呂の中は泡だらけ。バスタブの中で体を洗ってしまう。そしてお風呂から上がり、鼻歌気分でドライヤー。歯磨き。そしてベッドのある部屋へ。橋本の自宅は賃貸マンションの三階。広めの1DK。家賃は八万円らしい。寝室兼自分部屋にはベッド以外に大きな本棚が三つ。あとは机と椅子とノートパソコンとプリンターのみ。おっと、キャットタワーがあった。寝る前に橋本は自宅でも仕事を続ける。ネットを見ながら呟く。「リスク、リスク、リスク」。そんな橋本にリキマルとコジローは容赦なく邪魔をする。「あー分かった分かった」。両手でそれぞれの喉元をゴロゴロ撫でてやる。そしていろんなことをメモに取りながら、時に本棚から資料を出して読みながら。それからその日初めてお会いした新規のお客さんに出すハガキを手書きで作成。顧客リストにはそれぞれのお客さんの特徴や初めて知った情報などあれば随時更新していく。そして更新が一番古いお客さんをメモに書きだし、明日には連絡を用事がなくても入れるようにする。「あー、そういや『転職保険』の瀬戸さんはどうしてるかなあ。『孤独保険』の鷲見さんはちゃんとやれてるかなあ。明日、時間を作って訪問してみるか。鷲見さんは確か…、えーと、好物が洋ナシかあ。用はないけど作らないとね」。まだ聞いてない保険名がいろいろと出てくるがそれはまた別の機会に。午前一時。「お!もうこんな時間だ。寝ないと寝ないと眠らナイト」。そしてリキマルとコジローと一緒にベッドに入り眠りにつく。そしてベッドの枕元にもメモ帳が。そして寝ているかと思えばいきなり飛び起きる。「ひらめいた!」。そしてメモを取る。「そうだ!京都!行こう!じぇいあ〇る東海林のり〇。これ使える!メモメモ。あ、寝ないと」
そして翌朝八時に起床。リキマルとコジローが橋本の顔周りをウロウロして目が覚める。「おい!起きろ!餌だ!餌を用意しろ!」とアピールしてくるのである。そしてリキマルとコジローに餌をあげ、水も取り換え、昨夜の晩御飯の残りを朝ごはん代わりに軽くとる。八時十五分。顔を洗い、歯を磨き、髭を剃り、スーツに着替え、ワックスで髪を整える。そしてトレードマークの赤ぶち眼鏡をビシッと決めて鏡の前でスマイルスマイルスマイル。
「ん?スマイルスマイルスマイル、こころかくせない♪大嫌い♪大嫌い♪大嫌い♪大嫌い♪いや、結局嫌いなのかよ!メモメモ」。そんなこんなで資料をカバンに詰め込んでレッツゴー!「じゃあ、お留守番頼んだよ!」。そう言って部屋を出るがお出迎えはしてくれるがリキマルとコジローはお見送りまではしない。「なんだよもー、冷たいなあー」と八時三十五分。原付に跨り事務所へ向かう。八時五十分。『ファイナンシャル・ドリーム』の扉を開けると毎朝大山の「おはようでございます」の声で仕事が始まる。
それでは休日は何をやっているのだろう?橋本に基本、休日はない。それでも『ファイナンシャル・ドリーム』の事務所は日曜日だけは誰もいない。『ファイナンシャル・ドリーム』は週休二日で祝日も休み。社員には働きやすい環境である。しかし、お客さんからの電話は常にかかってくる。「パチンコ保険」はパチンコ屋さんが年中無休であるため、橋本はいつでも対応できるように備えている。それでも事務所へは行かない日曜日。ん?リキマルやコジローが「おい!餌をくれ!」とベッドで眠る橋本の顔の上を行ったり来たりとするが「うーん、むにゃむにゃ。もう食べられないよー、巨人には。餌は自分たちで開けて食べてくれー」。巨人には?ああ、あの売れている漫画のことか。そして十時起床。パソコンを立ち上げ、フルセグチューナーで民放を流しながらリキマルやコジローに餌を与える。水も取り換える。「おせえなあー、まったく。むしゃむしゃ」そんな文句を言いながら餌をがっつくリキマルとコジロー。いつものように前の日の晩御飯の残りを食べ、お皿の後片付けをしてからコーヒーを淹れ、民放を眺めながらボケーっとした時間を過ごす。それでも携帯電話はなることもある。そんな時はシャキッと対応する。そしてすり寄ってくるリキマルとコジローに一週間分の愛情を注ぐ。「ごめんなー。いつも仕事で相手にしてやれなくて。ほら、リキマルはお腹コリコリが好きなんだろー。ほれえー、コリコリ。コジローは眼球マッサージと耳の後ろコリコリが好きなんだろー。いつもより長くやるからねー。ほれえー、ぐりぐりぐりぐり。コリコリコリコリ」。どちらかばかりに偏るともう一方が拗ねてしまうので何度もリキマルとコジローと交代を繰り返して「お、もういいぞ。満足じゃ」と言ってくれるまで続ける。新聞は事務所で全て契約して目を通しているが日曜だけは事務所へは行かないのでネットやテレビから情報を得る。しかし、お客さんにはどんなに話題のニュースだろうと、誰もが知っている大事件のことも、「え?そんなことがあったんですか?へえー、初めて知りました。よかったら詳しく教えてもらえませんか?」と言うようにしている。人間とは知らない人間に自分の知っている情報を教える時に少し気持ちがよくなるものである。橋本がお客さんに知らないことを説明して教えるのとは違う。「へえー、なるほど。そんなニュースがあったんですね?これはいい話を聞かせてもらいました。ありがとうございます!え?誰でも知ってるんですか?ますます感謝です。他のお客さんの前で恥をかくところでした。本当にいい情報を聞かせてもらいました」と。そして昼過ぎには私服に着替え、いつもの眼鏡に大きめのリュックサックを背負って徒歩で坂上町を歩く。携帯は時折鳴るが、そんな時は立ち止まり、周りの迷惑にならないように。事件は会議室で起こっているのではない。坂上町の至るところで起こっているのである。「え?旦那の浮気が発覚?離婚する?それは大変ですね。急いで状況やお話を聞かせていただきたいと思います。ご都合のいい日時はいつになりますでしょうか?」「え?ダイエットでリバウンドした?体重は?え?八十キロに?うーん、早急にお伺いしてお話を聞かせていただきます。ご都合のよろしい日時をお教えください」「えええ!?娘さんのバージンが遊び人相手に奪われたあ!?なんてことが…。心境お察しいたします。我が社で精一杯出来る限りの保証をさせていただきますので。いえ、こういうことは早い方がいいです。娘さん同席でお話が出来る日時をお知らせください。え?相手ですか?場合によって僕はその男を許しませんよ!」などなど。それにしても『ファイナンシャル・ドリーム』の保険の種類は一体どれだけあるのであろう。是非、一つ一つ、彼らの対応を見てみたいものである。そんな電話を受けながら、坂上町をテクテク歩く橋本。「テクテクテクテク。テクテクテクテク。…、テクテクテクテクサンシャイン♪伊豆前へ前へ前へ♪メモメモ」。橋本が坂上町を歩いているとよく声を掛けられる。「あ、橋本さん!こんにちは!」「あ、〇〇さん。こんにちは!」。老若男女問わず、小さな子供まで。橋本はかなり坂上町の人気者のようである。「お!今日は休みかい?これ持っていけ!うまいぞおー」。坂上町の個人店の店主たちが野菜や魚、肉、お饅頭にお団子など。それらを橋本はしっかりとお礼の言葉を伝え、ありがたくいただく。リュックサックにどんどん増えていく荷物。坂上町には様々な施設が充実している。図書館や公園、町が運営するジムにはプールもついている。他にも美術館、公民館、会議場、運動場。それらはほとんど無料、もしくは格安の料金で利用できる。橋本は坂上町の隅々まで歩くことを日曜日の決まりにしている。出会いはたくさんある。橋本は出会いをとても大事にしている。人生では出会いがとても大事である。「あ、そう言えばお客さんのあのおばあちゃんの家はこの近くだった。ちょっとお邪魔していくか。アポなしだけどご迷惑だったら帰ればいいし。お顔だけでも見ていこう。もし晩御飯がまだなら、今日いただいた食材で腕を振るうのもいいな。甘いものも確か大好きだったはずだし」。そして遅くとも夜八時には自宅に帰る。この時、必要なものは薬局やスーパーで買い物も済ませてしまう。行きつけの床屋さんに行くこともある。眼鏡屋には特に足を運ぶことも多い。そしてリキマルとコジローのお出迎え。餌をやり、水を取り替え、お客さんのところで食事を済ませていない場合は晩御飯の用意に取り掛かるが、ご馳走になったり、お客さんの晩御飯をお客さんの家で橋本が腕を振るってふるまうことも多い。主婦の知識は尊敬に値する。「野菜を五十度ぐらいの熱湯につけるとシャキッとするの」「洗濯機もいろいろ。ドラム式は高いしねえ。私ゃ、もう年だから便利な機能もいいけど、手を突っ込んで楽なもの。高さが低いやつが一番だねえ」「スーパーなら定価で買うのはあり得ないわね。タイムサービスでお惣菜なんか半額以下になるからね。私、日曜大工に凝っているんだけど、これいくらか分かります?え?二千円?ブブー!正解は百均でそろえた材料で、…そうねえ、五百円かな?この棚。持ち運びも出来て色々使えるし。便利でしょ?」。主にお客さんでも男性の方からは専門知識を学ぶことが多いが、女性のお客さんからは生活の知恵を学ぶことが多い。そこには若さも経験も関係ない。知っている人だけが知っている。知識は財産とはよく言ったものである。そして早めにお風呂に入り、明日の仕事の準備をしてから、夜十一時からの「パチンコ保険」からの電話ラッシュを終えてからプライベートタイムに入る。ノートパソコンをベッドに移動させ、リキマルとコジローを交えて映画鑑賞会。最近のお気に入りは「八代将軍吉宗」を見てゲラゲラ笑うことと、「フォレストガンプ」を見てシクシク泣くこと。この二時間ほどが橋本の大事な時間である。そして就寝。メモはいつでも用意している。
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