第二十話「マイホーム保険編・『戻ってくるお金って結構あるよ』だぜ!」
「ローンの返済年数や新原様やミセス新原様、それから新原ジュニア様のこれからの収入によっても変わってきますが。基本料金として掛け金を月二万円とさせていただきます。お支払期間はローン返済期間と同じになります」
「ま!毎月二万円をローンとは別に!?それは高すぎるでしょうがあ!」
「高すぎるでしょうがあ!子供がまだ食べてるでしょうがあ!紅ショウガあ!」
マイホーム持ちたい芸人嫁は本当に最後まで肝が据わっていると言うか…、お気楽と言うか…。ま、そこが魅力なのであろう。
「お話は最後まで聞いてください。ご意見はそれからお伺い致します。月二万円をローン返済期間と同じだけの期間払い続けることが高すぎるか?まず我々は普通の保険屋ではありません。自然災害や火災などは普通の保険屋さんにお願いしてください。我々はマイホームを購入する際のリスクを請け負います。欠陥住宅だった。『匠』を手配します。その際は月々の掛け金以外のお金はいただきません。もちろん、欠陥がないのに新原様の意思でリフォームする際には別途料金をいただきますよ。それでも相場の半額で『匠』を手配します。一番安い見積もりを持ってきていただければその半分を掛け金からお出しします。そしてこの『マイホーム保険』は掛け捨てではありません。満期になりますと、つまりローンの返済が終わると同時にお支払い続けていただいた二万円の半額の一万円、つまり三十五年ローンなら一万円の四百二十回払いで貯まった四百二十万円をお支払い致します。途中でお客様の意思で『匠』を使った場合はその費用、つまり『匠』に二百万円のリフォームを頼んだ場合、我が社が負担する半額の百万円をその掛け金から引かせてもらうことになります。そしてこの保険の一番のメリットは月々二万円の掛け金はお客様の持ち出し分を極端に減らすことです」
「え!どうゆうこと?」
「実はですね。〇〇が〇〇で。□□が□□でして。他にも△△が△△とかですね。新原様は実に税金で年間戻ってくるお金が十万円以上あるんです。徹底するとその金額は二十万円以上になりますね。ミセス新原様の年収も実に所得税で損してますね」
「ええええ!税金の控除ってこんなものまでも対象になるのおおおおお!!『補助金』、『助成金』、『還付金』もこんなにいいいいい!!」
「そうなんです。知らない方が多いだけなんです。幸いにもこの坂上町は行政がしっかりしてましてね。新原様の場合、少なくともこの金額は確実に申請すれば毎年戻ってくる金額がこれですね。なので月々の掛け金も実際のご本人様のご負担は半分以下になりますね」
「それで満期になれば半額戻ってくるのね?」
「はい。もちろんでございます」
「そのさっき話していた競技場の件は本当?」
「はい。もちろんでございます」
「その選手って誰なの?」
「それだけは今は企業秘密になります。君ぃ。君のモットーは何だったかな?」
「私は嘘とラーメンのお世辞だけは絶対に言いません」
「よし!契約しよう!」
「新原様。差し出がましいようですが今日はご説明と詳しい資料をお持ちした次第であります。ご家族でそれらをよくお読みになってご検討の上、その気になればご契約していただければと思いますが」
「や!その必要はない!僕はあなた方二人がとても気に入った!お前もそうだろ?」
「そうねえ。ネタもたくさんいただいたことだしねえ」
「それでその世界一になる陸上選手ってのは君かい?それともお姉ちゃんの方かい?」
「やだねえあんた。それすらも分からないのかい?」
このマイホーム持ちたい芸人夫婦。本物を見抜く目をお持ちのようだ。これには私も驚きと人を簡単に判断してはいけないと言うことを学ばせてもらった。
「ただいまー!」
話が終わった夜の八時過ぎにようやく新原ジュニアが部活から帰ってきた。
「こらこら。お客さんが来てるんだぞ。ちゃんと挨拶しなさい」
「あ、こんばんは!」
「それとな。聞いて驚け!お父さんな、マイホーム買うことに決めたから!」
「え!そうなの?それは寝耳にH2Oだよ」
泥だらけの顔で新原ジュニアはさらりと言った。ギャグセンスはすでに母親を超えている。
ブルルーン。
「いやあ、まさか帰りも僕が運転するとは。それにしても『マイホーム保険』。今回はとてもスムーズに話が決まってよかったねえ」
「私はその代り散々ネタを差し上げたでございます」
「まあまあ、そんなのは無限に溢れてくるしね。いいじゃないか。実に気持ちのいいご家族さんだったよ」
「そうでございますでございます」
「まあ、『マイホーム保険』は我ながらよく出来てる商品だと思うね。『匠』さん方にはまあ簡単に提携することは出来たけど。この町の町長が我々の要望をしっかりと聞いてくれる、つまりこの坂上町の行政を動かせることによって成り立つ部分が大きいからね。思い出すなあ。今の坂上町の町長である西井東野介さんが二年前に我が社に初めていらっしゃったことを」
「例の『選挙保険』でございますねでございます」
「まあ、『文字数』の都合でその話を遡って皆さんにお聞かせしたいとは思っているんだけどね」
「また独り言でございますかでございます」
「まあ、『保険』と『税金』は切っても切れない関係があるからね。『保険』は所得を減らすための控除にもなりえるし、時としてリスクなどなかろうと税金対策の為に高額な『保険』に加入する方もいらっしゃるしね。我々も高額な給料が発生しているが毎月高額な積み立ての『保険』に何百万と積み立てて、人件費をものすごい金額で申告しているから税金もかなり抑えられているからね」
「世の個人事業主の常套手段でございますでございます。それにしても『マイホーム保険』でいつも聞く、最後の『世界一の陸上選手』とは一体誰のことでございますかでございます」
「それはね。僕は世界一高く跳べることが出来る方を知っているんだ。その方は今、ちょっとした理由でお休み中なんだけど。僕はその方が近い将来、もう一度跳ぶと信じているんだ。いや、これは確信を持っているんだ」
「その方がお休みしている理由とはなんでございますかでございます」
「さあねえ。今度その方と一度向き合って真剣に話してみるよ」
「その方がお話を聞いてくれるといいのですがでございます」
「それよりどう?おごるからさあ。いつものように帰りに一杯やっていかないかい?」
「いいでございます。いつもの一杯でございますねでございます。今日はどの一杯にするでございますかでございます。私の今日の気分はとんこつよりも塩の気分でございます」
「よし!今日も一日お疲れさん!塩の一杯で〆とするかあ!」
ラーメンは飲み物であり食べ物でもある。
『マイホーム保険』。
『ファイナンシャル・ドリーム』では二年前から現在の契約者数は五十件。その契約数はものすごい勢いで増えてきている。現在、この保険からの収入は掛け金二万円×五十で月に百万円。ちなみにご都合主義で誠に申し訳ないが、橋本は大手保険屋に就職する前の海外放浪の旅でものすごく金利も高く、元本保証の今では「そんなの絶対無理でしょー!」と言われるような海外の銀行口座をいくつか持っている。『ファイナンシャル・ドリーム』のお客様から預かったお金は本当に下手な投資よりも確実に利回りで増えている。もちろんお金は大事だと橋本も大山も知っているし、思ってもいる。しかし、一番大事とは二人とも思っていない。人生には常にリスクがある。この二人。仕事が一番好きなのである。
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