第十八話「マイホーム保険編・もうなんとなく疲れたよ…、パトラッシュ」

 ピンポーン。ガチャリと扉が開く。中年の少し背の低い男が二人を出迎える。

「本日、十九時よりアポイントを頂いておりました保険屋『ファイナンシャル・ドリーム』でございます」

「や!お待ちしてました!ま!狭いところですがどうぞどうぞ!」

「それではお邪魔致します」

「おーい!例の保険屋さんが来てくれたぞー!」

「はーい!」

 部屋の奥から女性の声が。そして背が高くぽっちゃりした同じく中年の女が姿を見せる。

「や!これがうちの家内です。あとは息子が一人いるんですが今は部活ですかね。まあ、うるさいのがいないので落ち着いてお話が出来ると思います。今日はよろしくです!」

「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします」

 例の自己紹介と名刺交換を行ってから二人は狭いキッチンの四人用のテーブルに向かい合うように座る。

「本日はご紹介でしたね。新原様は。お電話でお伺いした分ではマイホームをご購入されるそうで」

「そ!そうなんです!もうね、子供も大きくなってきまして。今住んでるところも手狭になってきましたし」

「あらやだ!私ったらせっかくのお客さんなのにすっぴんで。なんか申し訳ないですー」

 そのくせ、やたらキメキメに化粧を決めてある新原嫁。

「こら!僕らの夢のマイホームの保険を請け負ってくれる大事なお客さんなんだぞ!ちゃんと準備しておかないと!僕、怒っちゃうぞ!めっ!」

「家だけにイエーイ!なーんちゃって」

 このマイホーム持ちたい芸人の二人は明るい人柄のようだ。橋本が心の中でつぶやく。

(殺意出していきましょう。エーザ〇♪)

「それで我が社の『マイホーム保険』をご希望とのことですが。これまで専門家のお話やご説明は受けられました?不動産屋の営業マンのお話などは?」

「そ!それなんだけどね。いろいろと専門家にも相談したよー!不動産屋の営業マンはすごく熱心だねえ」

「そうねえ。何件か『掘り出し物件』も特別に教えてくれたし。専門家の話は…、なんか専門用語が多くてよく分かりませんきゅー!なーんちゃって」

「はははは、お前。大事な話をしてるんだから真面目に話しなさい」

(リキマルとコジローは寝てるのかなあ。早く帰って遊んでやりたいなあ)

 橋本が心の中でつぶやく。

「ファイナンシャル・プランナーのお話なんかも聞かれました?」

「そ!それそれ!なんかいろいろとお金を払って相談に乗ってもらったよ。いろいろと勉強になったけどいまいちよく分からないことが多くて。こっちは初めてのマイホームだし。向こうはプロでしょ?専門用語も多くてもなんか質問しても分かったようなー、分からないようなー。そんな感じですわ!」

「そうそう、万事休す!バンジーきゅうす!なーんちゃって」

 お茶を入れるきゅうすを持ちながらどや顔を決める新原嫁。

(もうなんとなく疲れたよ…、パトラッシュ)

 このマイホーム持ちたい芸人嫁に大山が少し大人げなく反撃する。

「1984年。ドラゴンズオーダー。一番ライト田尾、二番センター平野、三番ファースト矢沢、四番レフト大島、五番サードモッカ、六番ショート、七番キャッチャー中尾、八番セカンド上川」

「ん!?なになに?その心は?」

「『宇野』って言ってなーい!です」

「………。『宇野』と『UNO』をかけたのかねえ!いやあー、やるねえ!これは一本とられました!」

「まあまあ、新原様。我々はご相談する分には無料ですし。こうやって面白く、分かりやすく、そして何よりも安心を売りにしております。これからいくつかご質問を致しますので分からないことや疑問に思ったことは遠慮なく聞いてください。納得がいくまでご説明いたしますので。まず家族構成とご職業とご予算を。あとはマイホームを購入しようと考えたきっかけを教えてもらえますか?」

「あ!僕は三十五歳で会社員。家内も同い年で昼間はパートで働いてます。スーパーでね」

「魚屋のおっさんが驚いた、『ぎょっ』!なーんちゃって!」

「そこは『うおっ!』でもいいのではないですか?ミセス新原様」

「それいいわね!明日使おうっと!」

 どうやらこのマイホーム持ちたい芸人嫁の相手は大山に任せておいた方がいいようである。

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