第十七話「『グーグル検索』ゲームだぜ!」

 お客様の元まで車でブルルーン。カーナビでは目的地まで一時間ほどと表示されているが約束の時間までかなり余裕を持たせてある。お客様との約束の時間に遅刻など『ファイナンシャル・ドリーム』では許されない。もしもに備えての当然の行動である。単独で行動する場合は原付で移動するが本日は二人揃っての訪問であるため車での移動となる。

「お、見たまえ。君ぃ。あそこにタクシーを捕まえようと大きく手を振っている二人組の男女がいるじゃないか」

「確かにいるでございます。私も移動中はよく見る光景でございます」

「僕はねえ、ああいう光景を見ると車を止めて目的地を訪ね、少しでも乗せてあげることが出来るなら乗せてあげたいといつも思っているんだよ。でもね、それをするとタクシーの運転手さんのお仕事を奪ってしまうことになるからねえ。だからそれをやらないんだよ」

「確かに気持ちは分かるでございます」

「あとね、原付で移動している時にああいう光景を見るとね、僕は常に手を振り返すようにしているんだよ」

「それは社長らしい行動でございますわねでございます」

「そんな時、手を振られた相手はどんなリアクションをするか分かるかい?」

「人それぞれ、様々なリアクションをすると思いますでございます」

「そうなんだよ。思わず笑ってくれる人、キョトンとする人、気付かないふりをする人、ムッとする人、僕は少し意地悪で子供っぽいのかな?そういう観察がとても好きなんだよ」

「私ならYMCAのポーズをその瞬間に素早くとるでございます」

「はっはっは。そんな人は今までいなかったねえ。それにしても目的地まで少し時間がかかるようだ。車の安全運転はとても大事だ。しかし、それに差し支えない程度にならこの運転している時間を無駄にはしたくない。人生は有限だ。僕は無駄が好きでもあり、嫌いでもある」

「同感でございます。さて、何をするでございますかでございます」

「『名曲方言シリーズ』でもやるかい?」

「それは前にやったばかりでございます。『それがわだすの生きる道』や『部屋とYシャツとわだす』、『わだす中卒やから仕事』と散々聞かされたでございます」

「そうだったかい?まあ、我々は世界一の保険屋を目指しているからね。それならば同時に世界一の営業にもならなければいけない。素晴らしい営業にはトークが大事だ。そのためには日頃から発想力とユーモアを鍛えないといけないと僕は思うんだよ」

「それは社長の口癖ですでございます。それでは久しぶりに『グーグル検索シリーズ』でもやるでございます」

「お、『グーグル検索シリーズ』か!いいねえ。今日は僕が運転しているから君がグーグル検索するってことだね。よーし!頑張るぞ!頑張ろう!神戸牛!」

「社長、アウトォー、でございます」

「なかなか厳しいね…。よし!じゃあいくよ!うーん…。………………、『いとしさとせつなさといといしげさと』!」

「それはなかなかキレキレでございます。それではグーグル検索してみるでございます。いとしさと、せつなさと、いといしげさと、とでございます。ピコピコでございます。あら残念でございますねでございます。約六千件ヒットするでございます」

「ええ!?六千件?本当に!?ちくしょう!結構ピンと来たんだけどね。世の中にはまだまだ面白い人が多いんだねえ」

「そうでございますねえ。このネタは芸人さんの持ちネタのようでございます。あら、クスクスでございます。この芸人さんのネタシリーズがかなり面白いでございます」

「じゃあ次いくよ。……………、うーん、……………、うーん、……………よし!いくよ!『ウーソーみたいだろ?コンセントなんだぜ』。これはどうだ!」

「あのアニメの有名なセリフを麻雀のウーソーを使って表現したのでございますですね。それではピコピコでございます。ウーソーみたいだろ?コンセントなんだぜ、っとでございます。あらまあでございます。約三十二件ヒットでございます」

「お!三十二件かあ!被ってるのあるかい?」

「うーんでございます。どうやら同じ発想のはないみたいでございます」

「ウーソーってコンセントに似てない?似てるでしょ!いやいや、似てるって!まあ、麻雀を知らない人にはなんのこっちゃだけどね。よし!乗ってきたぞー!次いこう!次!えっとねえ…、……………!これきた!『飛車角落ち』で『飛車角王落ち』!」

「分かりやすくていいでございます。それではピコピコでございます。飛車角王落ち、っとでございます。あら残念でございます。約一万千五百件ヒットでございます」

「うそーん!そんなに!」

「でも発想が被ってるのは三件ほどですでございます。これはありだと思いますでございます」

「ダメダメ。僕は完全オリジナルに拘りたいのだよ。人によっては『それは先に他の人が言ってる』と言うだろう。そんなことは百も承知なのだよ。しかし、それに辿り着くにはその発想を考え出さないと検索すらも出来ないのだよ。しかし僕はそれでも完全オリジナルに拘りたいのだよ」

「それを言うなら先日の午後の紅茶のくだりもグーグル検索するとすでに被っていたでございます」

「うそーーーん!まいったね!こりゃあ。僕は何かを失いそうだ」

「僕は何かを失いそうだでピコピコでございます」

「え、それも検索するのお?結構出てくると思うよ」

「約四十一万三千件でございます。陣内大蔵様の曲のようですでございます」

「陣内さんかあ。自信がないよお♪ないない♪自信がないよお♪時間がないよお♪ないない♪時間がないよお♪」

「陣内様なら『心の扉』でございますわでございます」

「うーん、陣内さんで軽く一時間話が出来そうだけど今はグーグル検索だ。次!……………、うーーーー、あーーーーー、うーーーーーーーー、あーーーーーーー、……………。いくよ。『魚屋のおっさんが屁をこいた。へえー』。どうだ!」

「これは多いのではでございます。それではピコピコでございます。魚屋のおっさんが屁をこいた、へー、っとでございます。あれまあ意外でございます。約七千四百四十件ヒットでございます」

「被ってる?」

「被っているのは……ないみたいでございます」

「よしよし!いいぞ!君も何かないかい?僕が考える時間に君も何か出してみてくれないか」

「あらまあいいでございますか?連発するでございます。『サイボーグスリーナイン』、『ポトリもあるよ!』、『とむらいジャイアンツ』。どうでございます?」

「ん?今回もなかなかいいねえ。自分で調べてもらっていいかい?」

「ピコピコでございます。サイボーグ、スリーナイン、っとでございます。約一万九千三百件ヒット……、でございます。でも被ってるのはないでございます。オークションで009とスリーナインを勘違いしてる方がお一人いらっしゃいます。この方が狙ってたのなら私の負けでございます」

「いやいや、なかなかやるもんだねえ。次はどう?『ポトリもあるよ!』で調べてごらん」

「ピコピコでございます。ポトリもあるよ!、っとでございます。………約四万六千三百件ヒットでございます………。私も何かを失いそうでございます」

「被ってるの多いでしょ?」

「被りまくりでございます。しくしくでございます」

「オッケーオッケー!次いこう!『とむらいジャイアンツ』!」

「気を取り直してピコピコでございます。とむらいジャイアンツ、っとでございます。あ!でござーます!約二千六百二十件ヒットでございます!」

「被ってるのは?」

「被っているのは…結構あるでございます」

「じゃあね。代わりに『とむらいジャパン』と検索してごらん」

「ピコピコでございます。とむらいジャパン、っとでございます。約二万六百件ヒットでございます」

「じゃあ、漢字で弔いと検索してごらん。『弔いジャパン』で」

「むむむでございます。嫌な予感でございます。ピコピコでございます。弔いを漢字でジャパン、っとでございます。約八万九千四百件ヒットでございます…。まとめサイトのタイトルになっているでございます…。オーマイガでございます。マザファでございます」

「はっはっは。意外と斬新な考えを持っている方も多いのだよ。落ち込むことはないさ。いいセンスしてると思うよ。グッジョブグッジョブ」

「私もまだまだでございます」

「じゃあ僕がいくよ!これは自信あるなあ。どうだろう?いっくよー。『まぐれリコピン』!」

「は?でございます」

「なんかよくない?『まぐれリコピン』」

「頭の中で復唱すると何故か味が出てくるでございます」

「だろ?これは自信作だね。さあどうだ!」

「まぐれリコピン、っとでございます。ピコピコでございます。約八百二十件ヒットでございます」

「うそーーーーーーーん!『ウーソーみたいだろ?』より全然多いじゃん!?嘘だろおおおお!」

「でも被りはゼロでございます」

「だろお?来るぞおー。『まぐれリコピン』の時代がこれからは」

「きっとその時代は来ないでありますでございます」

「あ!王手だは…、いや、なんでもない」

「社長ォー、アウトォー、でございます」

「ほら、もうすぐ目的地だ。いい時間が過ごせただろ?」

「そうでございますわねえでございます」

「これはなかなか頭を柔らかくするにはお勧めなので皆様も是非!」

「また独り言でございますか?」

「そうだよ!そして『マイホーム保険』の巻ぃ!その前に。パーキングに車を止めてっと」

「ご依頼人の新原夫妻はあのマンションにお住まいでございます。さあ行きましょうでございます」

「マンションから夢のマイホームってわけだ。リスクだらけだよ。まあ話を聞いてからだね。帰りは『りんな誘導尋問』でもやるかな?」

「運転手は君だ、でございます」

 この赤黒眼鏡コンビの日常会話をご覧いただいた。この二人が実に魅力的な意味が少しでも伝わったなら嬉しい限りである。二人は常に向上心を持って、工夫しながら感性を磨いているのである。「グーグル検索」。今度私もやってみよう。さあ、この二人がお相手する新原夫妻からの「マイホーム保険」とは。彼らの対応とアイデアをこれからお見せしてもらおう。

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