第十三話「初恋告白保険編・へたっぴ!」
「クックック、へたっぴ」
「ダメだぞ!橋本は僕の許可なく喋っちゃあ!」
「そうです。橋本は黙るですわ」
「いやいやいや。こんな状況で黙ってられないね。斎藤様、あなたはへたっぴですね。『女性への接し方が』」
「僕がへたっぴだとお!」
「そうです。斎藤様、『入れる時硬くて、出すと柔らかくなって紙で後始末するもの、なーんでしょ?』」
「ガム?」
「正解。次。新入社員の『ほうれん草』とは?」
「ほうこく、れんらく、そうだん」
「ブブー」
「え?違うの?」
「斎藤様。知識とはとても素晴らしいものであります。時に人はそれに溺れるものです。特に斎藤様、あなたのような年頃の方は多感でもあります。そして生きていくといつかずるさや嘘を覚えていくのです。出来れば優しいものを身に付けて行ってもらえると嬉しい限りですね。私は斎藤様よりほんの少しだけ人生経験と知識がございます。先ほどの『ほうれん草』ですが『ほうこく』と『れんらく』はほとんど同じ意味だと私は認識してます。そういう意味では『ほう草』もしくは『れん草』が正しいかと思われますね」
「うーん、そっかあー。橋本!喋っていい!」
「ありがとうございます。で、本日の斎藤様のご相談をお聞かせください」
「うん…。ここは『守秘義務』は大丈夫だよね?」
「もちろんでございます」
「実は僕…、一年以上気になってる女の人がいるんだ。どうやら僕はその人のことが…、その人のことを…、気になっているというか…、その日とのことをずっと考えてるというか…、頭が変になりそうというか…」
「『好き』と言う表現でいいと思いますよ」
「そうなのかなあ…。橋本…」
「それで我が社へご相談に来ていただいたということはどんな保険をお考えでしょうか?もしかして…、斎藤様。あなたはその女性に想いを伝えたいと考えておられる。そしてもし、ダメだった時の為に保険をかけておきたい。そうお考えではないのでしょうか?」
「う、うん…。橋本の言うとおりだよ。もしダメだった時の為に保険をかけておけばと思ってここに来たんだけど…。こんなの『大数の法則』にもならないしどうにもならないよね?」
「確かに世の保険屋さんは『大数の法則』で成り立っています。しかし、それではつまらないと思いませんか?我々『ファイナンシャル・ドリーム』はその考え方が全てだとは考えておりません。例えば自動車保険と言うものがあります。二十年の間に交通事故を起こす確率は実に十二パーセントと言う数字が出ております。残りの八十八パーセントの無事故の人間がその十二パーセントの損失を補っても有り余る利益が出るから保険屋は成り立つのです。数字はとても正直であり、確率をより近似値に近付けるには圧倒的な数がそれを可能にするのです。では我々『ファイナンシャル・ドリーム』が他の保険屋と違うところは何か?それは世界一の保険屋を目指しているところにございます。我が社は『リスク』が生じるものに対して『保険』をお受けいたしております。少しお時間いただいてよろしいでしょうか?」
「何?」
橋本と大山が小学四年生の男の子を前にガチで演じる。いつもの決め台詞と決めポーズ。
「人生には常に!」
「そう!人生には常にリスクがある!!ああ!生まれて初めて感じるこの想い!あの子のことを考えると夜も眠れない!だから昼間寝てしまう!これではドキがムネムネしていてもたってもいられない!この想い、あの子に何としても伝えたい!でも、想いを伝えることで今までの関係が全てぶっ壊れてしまうかもしれない!今まで普通に話をしていたあの子もギクシャクしちゃって想いを伝えることが裏目に出てしまったらどうしよう!!かと言ってこのまま想いを伝えなければ二人の仲はいつまで経っても進展しない!ああ!困った!ロミオ!ああ、なぜあなたはロミオなの?民生さんだったらイージューライダーでうまくやり抜く賢さとか大体アバウトなことは分かっているんだろうけれど。えーい!もう当たって砕けろ!わあ!砕けた!危ない!危ない!危なーーーい!!!はい、どうぞ」
「危ない!危ない!危なーーーい!!!」
「…橋本、大丈夫?大山さんも…」
斎藤コナンがいまいち信用していいものかどうか複雑な表情で二人を見つめる。ソファーに腰を下ろしながら橋本が続ける。
「それで斎藤様。あなたの初恋の、つまり今、想いを寄せている相手はどんな方でしょうか?」
「…うん。親戚のお姉ちゃんなんだ…」
「親戚のお姉ちゃんですか?素晴らしい。親戚同士でもこの国では結婚出来ますよ」
「本当!?」
「親戚のお姉ちゃんはおいくつでしょうか?」
「うん。今、高校一年」
「と言うことは…。斎藤様の六つ年上と言うことですね。うーん、とても素晴らしい。年上の女性と言うものはとても魅力的なものです。人を好きになることに年の差は関係ありません。ペタジーニ選手は友達のお母さんと結婚して幸せに暮らしてますからね」
「ペタジーニって誰?」
「元スワローーーズの最強助っ人外人ですよ」
「ベジ〇タみたいなもん?」
「そうですね。でもそっちのお話になると私は長いですよー。まずイダ〇サ君がですね…」
「はーしーもーと」
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