第五話「パチンコ保険編・勝ち組になろうぜ!」
「我が社の保険は『確率に生じるその場での誤差』に対してお金をお支払いしております。つまりですね、この坂上町に設置されているパチンコ台全てのボーダー回転数を我々は把握しております。ボーダー回転数を下回る台を打った場合、保険は支払われません。それは当然です。ボーダー回転数を下回る台を打ち続けることはただ漫然と負けようとしている行為としか言えないからです。これをご覧ください」
そう言って橋本が大山に指を鳴らし合図する。大山がだーやま君に分厚い封筒を差し出す。その分厚さにだーやま君は少ししんどそうな顔つきになる。パチンコ好きで負けている人間は典型的な面倒くさがりである。新しいタバコに火を点けながらだーやま君が封筒の中身を取り出して驚く。
「山田様が普段よく打たれる機種は?」
「……、あ、ああ。今年は『北斗』?あと『慶事』とか?」
「その機種ならこれとこれですね。ちょっといいですか?」
そう言ってだーやま君が手にする分厚い書類を橋本は手にし、「北斗」と「慶事」の用紙を取り出す。細かく書かれた坂上町のホールごとのボーダー回転数に最低限必ずやるべきこと一覧。
「なになに?出玉アップの為に必ずやるべきこと?」
「ええ。ちりも積もれば大和撫子と言いましてね。…はい、殺意出していきましょう。エーザ〇♪」
「ざわ…、ざわ…」
「ちょっともう一本タバコ」
「どうぞどうぞ!それでですね。まず、初歩の初歩からいきましょう。保留玉は三つまで。これは全ての台に共通して言えることですね。山田様は普段打ち出しを止めるのはどんな時ですか?」
「保留玉が四つになった時ぐらいかなあ」
「オッケーです!山田様も保留玉が四つになれば打ち出しは止めてらっしゃるのですね?」
「そりゃあ、ねえ。保留玉は四つ以上スタートに入ってもカウントされないからねえ。それだけ無駄になるから」
「それでも打ち出しを止めた瞬間にポンポンっとスタートに入賞することはよくありませんか?」
「あるなあ」
「それも無駄じゃありません?だから保留玉は三つまで。それなら万が一スタートに入賞しても保留玉が四つになるだけで無駄はありません。保留玉二つだと回転効率が落ちます。今の台は保留玉がなくなると無駄にオーバーな演出が出やすくなってますからね。まあ、今は保留玉が八個の台もありますが基本同じと考えてください。次に捻り打ち。大当たり中にアタッカーが開いて決まった個数の玉を拾うまでアタッカーは開いています。ここで釘により出玉を大幅にカットされることが実に多い!中にはアタッカーが開いて、閉じて、また開くまで演出で時間を取ってその間無駄な玉の打ち出しをしている方も非常に多い!!ラウンド中の止め打ちは基本として、右打ちの台なら一ラウンド九玉入賞と決まっていましても狙ってオーバー入賞、つまり十玉入賞させる。それが捻り打ちです。昔のアタッカーがデカい台はオーバー入賞が普通にあったじゃないですか?今は普通に打ってもそれはないです。一ラウンド九玉入賞なら八玉入賞までは普通に打ちます。そして九玉目を少しハンドルを左に戻して緩く打ち出します。そして十玉目はハンドルを右に全快にして勢いよく打ち出します。それだけでオーバー入賞は起こります。やれば必ずとは言いませんが高確率でオーバー入賞します。そして確変中、時短中の止め打ちも徹底。今では止め打ち対策で確変中やST中、時短中のチューリップも開くタイミングが一定じゃない台も多いですがランプを見ればどのタイミングで開くか分かります。電サポ中に上皿の玉がなくなることはありませんか?」
「あれって無茶苦茶減るよなあ」
「今の台は電チューが賞球一個戻しの台も多いです。止め打ちしなければ確実に玉は減ります。止め打ちして増えることもなくなりましたがやるのとやらないのでは一日打てばドル箱三つ分の差が出ます。『オヤジ打ち』って言葉聞いたことありませんか?なーんにも考えずに打ちっぱなしの人の打ち方をそう言うんです。プロとオヤジ打ちの差は大体そこで埋まります」
「へえー。一日でドル箱三箱分?ホンマかいな?」
「ホン大魔界村です。電サポ中に玉が減るのは打ち方に問題もあるんです。上皿が五百円で百二十五玉出ます。それより多くなると下皿に落ちてきます。一回の大当たりで上皿の玉が減ると考えて一日に三十回大当たりしたとして百二十五×三十で三千七百五十玉。三・三玉交換の『坂上グランドホール』だと一万二千円を超える金額になります。それから山田様?出玉を交換する際に余り玉はどうされてますか?坂上町のパチンコ屋は、全て換金は千円からになりますが」
「余り玉?そんなの適当に多い時はタバコやビールかなあ」
「余り玉が三十玉とか少数の場合は?」
「そん時はチョコレートとかお菓子かなあ」
「それでは余り玉が五玉や八玉の時は?」
「飴玉とか貰ってるかなあ?」
「一玉四円で二玉だと八円です。蜂円分の飴玉はさぞかし高級なものなんでしょうね」
「言われてみれば…。袋に入ったやつをばらしたもんやなあ。あれは八円もせんなあ」
「我が社の保険に入っていただいた場合、換金は一円単位まで換金致します」
「なに?それどういうこと?」
「坂上町のパチンコ屋には『貯玉カード』つまり、再遊戯出来るようなシステムはございません。一玉四円をパチンコで遊んでいる方がどれだけ大事にしているか。山田様はドル箱から玉が一つこぼれたら拾いますか?」
「そんなの拾うわけないだろ。乞食じゃあるまいし」
「ホールでのそんな余分な落とした玉や景品交換時にないがしろにした五玉、十玉でパチンコ屋がどれだけ儲けていると思います?例えば一日に景品交換するお客さんが百人いたとして五玉二十円だけで二千円になります。一カ月で六万円。たかが五玉されど五玉ですよね」
「それで一円単位で換金するってことは?」
「簡単な話です。我が社の『パチンコ保険』に加入している方は何十名単位で毎日パチンコを打たれています。出玉を機械に流すと一枚のレシートを受け取りますよね?景品交換する際にレシートを二枚、三枚と同時に受付のお姉さんに渡すことはありますよね?」
「ある。勝って流した後で他の台が打ちたくなってその台でまた出たらレシートは増える」
「我が社の保険加入者の方々は景品交換には代表者お一人で全員分のレシートをまとめて交換してもらっています。それをすることで余り玉という余計な無駄を省くことが出来ます」
「なるほどなあ。それなら自分の出玉を控えておけばきっちり一円単位まで割れるわなあ」
「そういうことです。山田様。この町でパチンコを打っていると『坂上梁山パーク』と言う名の集団を聞いたことがありませんか?」
「!『梁山パーク』!知ってるぞ!あの坂上町のパチプロ軍団の!」
「あれ、私が作ったんです」
「ホンマかいな!?」
「ホン超魔界村ですよ。それではここからこの『パチンコ保険』の掛け金に関してご説明致します。最初に預り金として五万円お支払い頂きます」
「五万円?そんな金払えるかい!五万もあればわしはパチンコ打つに決まってるやろ」
「勘違いしないでください。山田様。私は五万円を預り金と言いました。この五万円は山田様に必ず戻ってくるお金です。ただ、必ずお返しするお金と言いましても最初にいくつかの契約事項をご確認いただきます。そこにあります禁止事項を破られた場合、その場合のみ返金は一切致しません。もちろん契約はお客様のご判断になりますので山田様がご説明を全て聞かれたうえでそのままお断りして頂いても全然結構ですので」
「…うーん。まあ話だけで断ってもいいんやな。あの『梁山パーク』を作ったってのもホンマなんやな?」
「ホンマですよ。我が社の『パチンコ保険』のご説明をする前に『坂上梁山パーク』のご説明をした方が早いですね。あの軍団は攻略軍団でもプロ軍団でもありません。皆さんはパチンコで常勝している軍団と思っていらっしゃるのでしょう。その実態は素人の集まりです。共通していることは一つだけ。それは軍団員全員が我が社の『パチンコ保険』に加入していることです。若い方もお年を召された方も幅広くいらっしゃいます。全員がもともとは山田様のように負ける方が多い方、パチンコを『運』と考えていらっしゃる方ばかりでした。サイコロで一の目が出れば六千円として、そのサイコロを六回振るのに一万円使っているような方ばかりでした。六回振るのに六千円かからなければ確率的に必ず勝つのです。千円で二回振れるのなら三千円で六回振れるのです。確率的に一の目を出すのにサイコロを六十回以上振ることもあります。パチンコも全く同じです。確率的に勝てる回転数の台を一日単位で見れば負けることも普通にあります。『坂上梁山パーク』の軍団員一人一人を見れば常勝しているわけではありません。ボーダー回転数を上回る台を打っていても負ける方は普通に出てきます。現在のパチンコ台は一日ぶん回しても回せる回転数は二千回後半がいいところです。大当たり確率が三百分の一よりも低いマックスタイプを打てば一日大当たりなしも確率的に普通にあります。そこで我が社の『パチンコ保険』!一人で一日に回せる回転数も十人集まれば十倍に!二十人集まれば二十倍に!三十人集まれば三十倍に!極端な話、山田様が一か月毎日打ち続けて得られる確率の結果を三十人いれば一日で出せるということです。さてその確率の話ですがサイコロの話に戻します。六分の一であるサイコロ。これが実際の六分の一に収束するまで何回サイコロを投げればいいか山田様はご存知ですか?君ぃ!電卓用意!!」
「電卓入りまーす!」
電卓を取り出し右手五本指全てを使って電卓を素早く打つ大山。
「うーん。分かんねえ。百回ぐらい?」
だーやま君が腕を組み、宙を見上げながら答える。
「出ました」
そう言いながら大山が電卓をだーやま君にかざす。その数字を見てキョトンとするだーやま君。電卓に並んだ9の数字。
「山田様。これに答えはないんです。例えサイコロを千回振ろうが一万回振ろうがきっちり六分の一と言う数字になることはありません。限りなく六分の一、つまり十六・六…。そのパーセントに近付くが単純に六分の一の確率になることはない、が正解なのです。そしてその数字、きっちりと六分の一の確率になることを『奇跡』と呼ぶのでしょう。サイコロの六分の一でさえ、一万回振っても限りなく確率の近似値に近付くレベルなんです。それがパチンコでは甘デジでさえも九十九分の一。マックスタイプでは三百分の一よりもさらに低い確率なんです。それを収束させるにはどれだけの回転数が必要になってくるのでしょう?一日三千回せるとして一カ月で九万回転。まあ、リーチも短く効率のいい台ならまだしも今の無駄に長いリーチや演出の台では一日三千も回せません。しかも一日十三時間、一か月休みなく回してその数字です。それでも偏りは出ます。それでもパチプロが存在するのは確率を理解し、稼働しているからなんです。彼らは一日で五万負けたとしても『五万円負けてしまった』とは考えず、『今日もしっかりと稼働し、期待値を追えたのでよしとする』と考えるのです。そして長いスパンできっちりと生活できるだけのプラスを得ているのです。『梁山パーク』の軍団員は現在約百名。坂上町にはパチンコ屋が七軒。彼らは勝てるホールではなく、勝てる台を打っているのです」
「…。それで五万払ってあとはどうなるんや?」
「長くなりましたね。それでは具体的なこの保険のご説明といきましょう。預り金五万円は我々と山田様の信用に対する対価とお考え下さい。山田様が毎月コンスタントにきっちりプラスの収支を出している証明があれば必要ないお金なんです。同時にその五万円が初月の掛け金になります。そしてまず最大のメリット。我が社の『パチンコ保険』に加入している方には負けた金額の五割!つまり半分の金額を保険で負担しております!!しかも即日に!」
「え!半分!ほな十万負けたら五万はろてくれるんかい!?」
「ええ、もちろん。もちのろんです」
「でもあれやろ?逆に勝った時も半分とかそれ以上持っていかれるんちゃうか?」
「いいえ。そんなの暴利でしょう?せっかく勝ったのに半分も取られたらやってられないでしょう。我が社の保険では一割から三割と基準を決めております。三割の場合もよほど確率を無視した場合、たまたま勝てたような場合です。例えば閉店二時間前にフラっと打ってたまたま勝った場合なんかはその数字になります。『梁山パーク』を例えに出します。彼らの平均の勝った日の支払いは一割五分。もちろん負ければ半額負担させてもらってます。その基準は『期待値の高い台をどれだけ長い時間回したか』のみです。まず時間ですが一日八時間以上打った方は勝った時にお支払いいただく保険金は勝ち金の一割です。五時間以上八時間未満で二割。五時間未満は三割となっております。あ、あと通常時、つまり確変やST中、もしくは時短中以外は閉店二時間前以降は時間としてカウントいたしません。確変中に閉店を迎えて確変の台を捨てることは無駄以外何者でもないですので」
「なるほどなあ。ほなわしは打つときはいつも八時間以上打ってるから勝った時は勝ち分の一割取られて、負けた時は負け分の半分負担してくれる、そういうことか!?」
「そうなります。しかし山田様はトータルでかなり負けてらっしゃいますね?我が社に来られたということはそういうことですからね。まあ『自称プロ』の方も来られますがね」
「自慢じゃないが毎月ほぼ結構負けてるで」
「そこで最初の預り金五万円なんです。五万円最初に預けていただくのは失礼ですが山田様との信頼関係がゼロに近いと言う意味なんです。ではその信頼関係を高めるにはどうすればいいか?もう一つの条件である『期待値の高い台』をこれからは打っていただきます。つまり回る台を打っていただく、漫然と台を決めずに回る台、勝てる台に座っていただくことを求めます」
「そんなこと言われても。わし、釘なんか分からんで。回る台が分かればもっと勝ってるわいな」
「『梁山パーク』にはパチンコで食っている人間が多数在籍してます。坂上町のパチンコホール七軒全てに毎日二名はそういう人間が常に打っています。そういう人間を『先生』と我々は呼んでいるんですが、『先生』方がこれからは山田様にアドバイスを差し上げます。回りそうな台がどれであるか、期待値が高い台はどれであるかと。もちろん回りそうな台と言っても実際にはムラが出ることもありますし、見た目はよかったが実際にはボーダーには届かない台だったということもよくあります。そんな時も次はこの台、それでもだめならこの台と言う具合に。『先生』方はオカルトと言う概念を一切持っていません。この台は千回ハマっているからそろそろ当たる頃だなんてことは絶対に言いません。確率とはそういうものと熟知しているからです。三百分の一の大当たり確率は一回転目だろうと千回ハマっている台であろうと常に三百分の一なんです。『先生』方の基準はボーダー回転数プラス三回転の台を本当のボーダー回転と考えております。そんな台が今の時代にあるのか?と思われますよね?はい、ハッキリ言いますとなかなかありません。そこを最初にお話ししました技術介入で何とか出来る部分、しっかりと止め打ちをしたうえで無駄玉を減らし、一玉四円の重みを十分に理解された打ち方をすることにより千円で回せる回転数は増やせるし、ボーダー回転数を下げることが可能になるのです」
「ボーダー回転数を下げる?」
「無駄玉を減らせば得られる出玉が増えることになります」
「あ…、なるほど」
「台により無駄玉を徹底的になくす打ち方を『先生』方は全て把握しております。まあずっと手取り足取りと言うわけにはいきませんが最初のうちはしっかりと山田様についてご指導させますので。思っているより想像以上に簡単に身に付くもんですよ。止め打ちは。それで山田様には、まあ他の方、つまり保険に加入していらっしゃる方全員には我が社規定の紙に全て記入しながらパチンコを打ってもらうんですが。大山君」
「規定用紙入りまーす!」
そう言って大山が一枚の用紙を取り出し、だーやま君の前に置き身を乗り出す。
「ん?書きながら打つ?」
ここからバトンタッチして大山が説明を始める。
「そうです。これは必須になります。ただ、ホールでこの紙に書きながらだと目立ちますので実際には帰宅されてから自宅でご記入していただければと。あくまで我が社に提出していただくのがこの規定用紙になります。ホールではメモ帳や携帯に記録して頂ければと。では各項目をご説明していきます。まず打った日付、打ち始めた時間、打った機種、その機種に投資した金額、大当たり毎にかかった回転数、大当たりの種類はつまり何ラウンドの大当たりかや確変大当たりなのか通常大当たりなのかを。時短やSTもその回転数をカッコの中にご記入ください。それから打つ台を変えたらまた同じように投資金額から回転数をご記入お願いします。そして止めた時間、休憩をとったのならその時間、その他に持ち球で飲み物を購入した場合などもお願いします。そして獲得出玉ですね」
「まあ、これぐらいならスマホのメモ機能で書けるなあ。それを家でこの紙に書きだしたらええんやね?」
「そうです。つまりこの規定用紙と引き換えに保険金のお支払いを致しますので。即日ご申告でも結構ですし、最長で一か月、つまり三十一日分をまとめてのご申告が可能となっております」
「へえー。この紙に十万負けた記録を書いたら五万円即日に貰えるってことやな?」
「そうなります。ただし、不正が発覚した場合は即保険は解約、預り金も全額没収となります」
「ふ、不正ってなんやの?わしがごまかすと思ってるんかいな?」
「いいえ。山田様が不正をされるとは決して言いません。しかし先ほど橋本が申し上げましたように現在、山田様との信頼関係は堅実ではないのも事実です。ご参考までに過去の事例をお話しておきます。ここでもう一度私どもにお時間をいただけますでしょうか?」
そう言って橋本と大山が再度その場で立ち上がり寸劇を始める。
「あれええええええ?しっかりと打つようになったら今月の収支がプラスになったぞおおおお!!待てよ、馬鹿正直に規定用紙に書くことないんじゃないのおおおお?ごまかしてちょい負けぐらいになるように書けばいいんじゃない?そうすれば保険もおりるしパチンコでもプラスだしぽっくん、ラッキーぃぃぃぃぃい!!はい、一緒に」
「ぽっくん、ラッキーぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!」
両手を合わせて右頬にあて、顔を笑顔で傾ける二人。だーやま君ポカーン。キリッと顔を引き締めてソファーに腰を下ろす二人。そして大山が説明を続ける。
「山田様はパチンコ番組をご覧になったことはございますか?」
「あ、あるよ…」
二人の演技に少し押され気味にだーやま君が答える。
「山田様が『パチンコ保険』にご加入されましたら今後は常にそのパチンコ番組のように後ろでカメラが回っている状況でパチンコを打っていると思っていただければ分かりやすいかと」
「え!?常に後ろで誰かが監視すんの!?」
「坂上町の七軒のパチンコホールに『先生』方が常時二名はいらっしゃるように、保険契約者様がどのような打ち方、立ち回りをされているかをしっかりと見ている『監査役』も常時置いているということです。まあ、我が社の『パチンコ保険』専門の社員です」
『ファイナンシャル・ドリーム』は橋本と大山の二人しか社員は存在しない。もちろん「監査役」の社員など存在しない。しかし「先生」方は存在する。そして「監査役」専門のアルバイトも存在しない。ただ、「先生」クラスの保険加入者には「監視」業務と引き換えに特約を設けている。それは清算を一か月単位ですることも条件としてマイナスの月は負け分を全額保険で負担するということ。「先生」クラスの人間は月単位ではきっちりと食える分だけの稼ぎを得ているがパチスロと言う職業はなかなかプレッシャーもあるようでマイナス時に全額負担と言う保険は精神的に大きな支えになるようである。また、「監視」と言ってもトイレついでにホール内を一周するぐらいは「先生」クラスになれば自分のためにも必然的に行う。また「先生」以外の「パチンコ保険」加入者、つまり「梁山パーク」はお互いの顔を知らない。近くで打っていても同じ保険加入者だとは分からないようにしている。換金時のレシートも「先生」が受け取りその場で一円単位までそのホールの換金率で換金することになっている。もちろん目立つようなところでお金の受け渡しなどはしない。閉店二時間前ルールのため、閉店間際に何人もの保険加入者が「先生」方へ換金に殺到することもない。あくまで自分だけが儲かればいいと言う考えで成り立つ部分も大きいのである。連れ打ちと言う友達同士で打ちに行く人も多いが並んで打たれたらたまらない。お喋りやお互いの台の演出に夢中になり、台の回転数など大事なことを疎かにしてしまう。
だーやま君の心は決まったようである。
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