第23話 欠陥魔術師と魔術師の再戦

生前は、剣を振るうことに一生懸命になるなんて思わなかった。

 人生とはわからぬものである。


ちなみに生前とは言ったものの、今の私は幽霊ではない。二度目の人生を歩んでいるだけである。いわば来世ともいえるだろうか。


 かつては、全力を尽くすことに面白みを感じることはあったけど、誰かを傷つけるのなんて性に合わなかった。ましてや、傷つくことに身を晒したいとも思わなかった。

 それが、私だったはずなんだけどね。


 さて、魔術学園には訓練場と言う場所がある。


身体が治るまでは座学一辺倒だったが、そこそこ動けるようになった最近は、ここでの修練が日課になっている。


 以前から、個人的に模擬戦を行うことも、自主練習を行うこともあったけどね。やはり、恒常的に戦う相手がいると言うのは良い。

 初見殺しの技を磨くのが私の基本だけど、練習相手がいなければ、それも磨きようがない。


 私の目の前には、吉田純希がいた。

 それを見守るのは、指導教官であるロドキヌス師。

 

私たちは、以前、試練の塔を攻略するための訓練のために引き合わされた。

当初は、大した付き合いにならないだろうと思っていたのに、今や、連日連戦。毎日のように私たちは戦い競いあっている。


「どうしたよ? 今日は、そっちから掛かってこないのかよ」


 吉田くんは、警戒しながら私にそう尋ねた。

 以前と同様に、吉田くんの装備は大型杖のままだが、今やその姿に油断も感じ取れない。


「逆に、聞きたいんだけど。 君からは来ないの?」

「オレからは絶対、お前に近づかないからな!」


初日の件がトラウマになったのか、警戒の度合いがすごかった。

そのあとも、必ず1日に1回はひどい不意打ちを叩き込むことにしているので、それも原因かもしれない。


「そう? 先手くらい譲るけどなあ。 刀もありあわせの訓練武器じゃなくて、新しいのが用意できたから。 ちょっといろいろ試してみたいからね」

「なおさら嫌な予感しかしねえんだよ!」


 この疑われようである。

 私は肩をすくめて、刀を引き抜いた。


 飛燕ひえんと言う魔導器セレクターを元にした武器。

飛燕改、あえて名前を付けるとしたら、刃を黒塗りに染めたから『黒燕クロツバメ』と言ったところか。


飛燕は伸縮自在の刃を持つ刀剣だ。

魔術師の防護結界を貫通する性能がある。

さらに、基本的な伸縮変形パターンをあらかじめ8パターン登録している、日本の魔術化部隊でも採用されていた魔術兵装だ。廃れ気味だけど。


その飛燕の刀身を、あえて見づらくするために黒く染め(カッコいいからと言う理由もあるけど)、以前と同じく、本来のパターンよりも多い2倍の伸縮変形パターンを搭載してある。

前回の戦いを経て、『ヒイラギ形態』を含む、いざと言う時の仕込みもしているがそれはそうそう使うものでもない。


「どっちみち本調子じゃないし、『馬鹿には見えない服コモン・センス』も、使わないっているのにねえ」

「お前がなんでもないような顔をしているときは、だいたいなんか企んでんだよ!」


 吉田くんにはひどい言われようである。

 何度か素手でボコボコにしたくらいで、なぜここまで言われるのか。


「仕方ないな。 でも、今回はいつもと条件が違うからね」

「じょ、条件だあ?」

「きみ、あれだろ。 北村翔悟とやらに勝ちたいんだろ」


 その名前を聞いた瞬間、吉田くんの目の色が変わる。


「ああ、そうだ! あいつには負けねえ!」

「熱いなぁ。 まあ、そういうのは嫌いじゃない。 そういう風にするのは趣味じゃないけどさ」


 それなら、私も手加減する理由はなかった。

 そこまで覚悟を決めている相手に、どうして手加減が出来ようか。


「それなら、今日は……本気で斬るぞ」


 吉田くんが半歩間合いを取り、槍のように大型杖ロッドを構えた。


 伸縮する刃が、吉田くんに迫る。

 『飛燕』はあらかじめ設定された一定のパターンでしか伸縮しないが、どんな軌道であれ、間合いの外から迫りくる刃は脅威だ。


 吉田くんは、冷静に大型杖ロッドを巧みに使い、刃を弾く。

 彼の立ち回りは、懐に入られることを警戒した防御的な立ち回りだ。

 

 私に格闘戦を挑まれるのが常になり、短剣を装備するようになったが、いまだに格闘戦となれば私に一日の長がある。


 だが、私には伸縮自在の剣がある。

 大型杖ロッドの間合いに優れた要素は、私に対しては必ずしもアドバンテージにならない。


 私の連続攻撃に、吉田くんは対応しきれなくなっていく。


「く、お前、なんでこんなに使いにくい武器が扱えんだよ!」

「そりゃ先生に恵まれたんだよ」


 魔術がまともに使えないので、それに割り振れる時間が長かったのもある。


 とはいえ、1年生のころにはほとんど目が出なかった。

 一朝一夕では、武術は身につかない。毎日の反復練習を積み重ねて、ようやく実践でとっさに使えるようになる。


 飛燕は、伸縮時に反動があるので、とっさに武器が跳ねてしまい、手の中で暴れて思わぬ動きをしたり、そのままどこかへ飛んで行ってしまうような事故も発生しやすい。

 だから、日本の魔術化部隊ではあまりはやらなかった。今、使われている魔剣は、もっぱら虎徹コテツと言う名の魔導器セレクターである。


「飛燕は便利だよ。 確かに、一癖あるじゃじゃ馬だけど、慣れればかわいい奴だ」

「なにが、くぁわいいやつだ!」


 吉田くんは、私の攻撃をいなした瞬間に、大型杖ロッドから火炎の弾丸を打ち出した。一般的な炸裂魔術、『爆炎の槍』の魔術式である。


飛燕による連続攻撃には、どうしても距離があるほど隙間ができる。そこを突かれた。

 だが、私にとっては、予想の範囲だ。


とっさに空中に足場を作り出し、蹴るようにして飛び跳ねるように回避する。兎跳びバニーホップと呼ばれる魔動器セレクターを起動したのだ。

何もない空間に、加速可能なジャンプ台を作り出すことができる。

先読みして急加速さえすれば、そうそう当たるものでもない。

 

熱気はかすめることもなく、すれ違い、私のはるか後方で炸裂する。


 無防備に直撃すれば、一撃で仕留められてしまうだろうが、当たらなければいい。


「これで終わりじゃねえぜっ」


 大型杖ロッドから雷撃が走る。

それはそのまま鞭のようにしなり、私の動きを追い襲ってきた。


 『雷撃鞭』の魔術式だ。

電撃で編まれた鞭を作り出し、一定の範囲で操ることができる。これも伸縮自在で、飛燕に近い攻撃手段だ。


電撃に、刃で直接触れると、こちらが感電させられる羽目になる。

直撃しても、雷撃鞭で攻撃を受けとめられても危険……かなり面倒だ。


兎跳びバニーホップを連続起動。何度も、空中飛びを高速で繰り返す。

より不規則な加速を繰り返すことで、雷撃鞭を回避し続ける。


 雷撃鞭の速度は、恐ろしいほどだ。だが、それを操る吉田くんの方が、高速で不規則に動く標的に、対応できるかと言えばそれは別の話である。


その合間を縫い、距離を詰めた。

空中で身体をひねりながら、『飛燕』を繰り出す。


「くっ」


 吉田くんの左肩に刃が命中。

 吉田くんを守る防護結界、ディフェンスフィールドDFが削られた。鈍い衝撃が走り、疑似的に発生した痺れが、その動きを鈍らせる。


 吉田くんは、左肩に攻撃を受けたため、両手で扱う|大型杖(ロッド)の使用を維持できなくなった。杖を投げ出し、魔導器セレクター『ムラクモ』を右手で抜き起動。

ここぞとばかりに、近接戦闘を挑む私の一撃を受け止めた。


「負けてたまるかぁあああ!」


 『ムラクモ』は魔力をブレードに変換する魔導器セレクター。その込めた魔力が強大であるほどに、大きなブレードを形成する。


 飛び退こうとする私に向けて、巨大なブレードが生成された。

 ムラクモの刀身は大きさ問わず重さがなく、常に最速で振るわれる。

 

「――っ、受け止めきれないっ」


 勢いに負けて跳ね飛ばされる。


 吉田くんは、兎跳びバニーホップで加速したのかそのまま、体勢を崩した私を追撃。

 そのまま、私に『ムラクモ』のブレードが私に突き刺さる……。


 そう思われた瞬間に、吉田くんの首にめがけて、飛燕が側面から炸裂した。


「ぐぁあああっ!?」


『吉田純希 DF残量ゼロ。 戦線を離脱します』


 無機質なアナウンスが耳元に流れる。

 実際には、目の前で倒れたままだけど。


 刃の縮む反動を、両手で受け止め、鞘に納める。

 ちょっと無茶な軌道で、長い曲線で伸ばしたせいで反動が大きい。

 片手で使える程度の反動で収まるように、軌道を修正しておかないと、実践では致命的な隙になるな、これ。


 飛燕は、伸ばした距離が長ければ長いほど、伸縮の反動が大きくになる。

 そのため、連続攻撃にどんどん支障が出る仕様になっている。


「本当にじゃじゃ馬だ」


 だからこそ、使いこなせたときの感動が大きいのだけど。


「ぜ、全然軌道が見えなかったぞ。 なんだ、今の」

「君の攻撃を受け止めた瞬間に、刃を伸ばしたんだよ。 君が追撃してくるであろうポイントにめがけて、時間差でね」

「俺の動きを予想してたのか」

「あの状況なら、絶対追撃してくるでしょ。 私がバランスを崩しながら退けばね」


 自分自身をおとりにするように、そのまま死角となる側面から刃を伸ばせばいい。

 黒く染め上げてるのもあるが、真横というのは、人間にとっては死角だ。

 ましてや、窮地がチャンスに変わった瞬間は、視界が狭まるだろう。


「くそ、近接戦闘になったらお前の方が分がある」

「そこは修練した期間の差だね。 それに、大型杖ロッドがそもそも近接戦闘に向かないんだよ。 接近できなければ、私が負ける」

「だけど、これは俺の魔力が尽きたら撃てなくなるぜ」

「そうだね。 だから、私は君のたま切れまでしのげばいい。 それまでに、私を接近させずに、仕留めれば君の勝ち」


 他にも、剣を使う生徒はいるようだが、ほとんど『飛燕』を使わない。飛び道具は、普通に魔術を使えばいいだけだからだ。

 それでも、大型杖ロッド相手に射撃戦闘を挑むのは避けたいところだろう。


 大型杖ロッドは、中距離戦に特化にした武装だ。

 シールドも展開できるし、登録した魔術式を発動させることで、強力な射撃戦闘が可能だ。

 燃費が大きいことを除けば、強力な武器だろう。


 まあ、私には使えないんだけどね。


「俺が不利じゃねえの?」

「回避動作だって魔力を使ってるし、攻撃権はそっちにあるよ。 私に先制をとらせるのが間違ってる。 吉田くんなにやら、私の言う通りにすることに拒否感があるみたいだけど、君が先手をとり主導権を握り続ければ、君が勝つんだから」


 ロドキヌス師が、私に同意した。


「その通りだ、吉田。 お前は相手に先手を譲るべきではなかったな」

「でも、コイツの言うとおりにしたら、嫌な予感がするんですよ」

「それが、すでにコイツのペースに乗せられてるんだ!」


 まるで、私が悪い知恵を働かせてるみたいに言うのはやめてもらえませんかね。


 ちなみに、ロドキヌス師は、一見、眼鏡でひょろっとした体形の冴えないおっさんである。

 しかし、その服の下は筋骨隆々だし、身長が170cmに対して体重が200kg近くある改造人間だ。絶対水に浮かばないと思う。


 生徒の白兵戦担当教官で、私達が『試練の塔』に挑むにあたって、指導をしてくれている。

この人が、私たちを指導する立場になったというのは、今考えても幸運だった。


生徒には厳しいが、論理派なだけあって理不尽なことは言わないし、きちんと指導もしてくれる。積極的に、自分を伸ばそうとする生徒にとっては良い先生だろう。


「こんなんで、翔悟に勝てるのかなあ」

「勝つとは、決戦競技ディシプリンということか?」

「そうです!」

「うーん、決戦競技ディシプリンか……」


 ロドキヌス師が考え込む。

 私は首を傾げた。


「私は、あんまり決戦競技ディシプリンって詳しくないんだけど」

「要するに、チーム組んで戦うんだよ。 1チーム、3~4人くらいかな。 で、いくつかのチームでお互い同時に戦いあうの。 生き残ったもの勝ちのバトルロワイヤルだよ」

「なるほど?」


決戦競技ディシプリンとは、生徒が部隊を組み行う、模擬戦争である。

生徒たちは3~4名程度の部隊を組み、複数のチームの乱戦状態で戦力をぶつけ合う。

 

ルールは、簡単。

時間切れまで戦いあう。

生き残った部隊の中から、もっと多くの敵を倒した部隊が勝利する。

ただ、それだけだ。


安全面も考慮されていて、自分に掛けられた防護結界、ディフェンスフィールドDFを破壊された人間は失格となり、戦場の外に離脱ワープする。


心臓や頭、首は致命的な部位として、ダメージを問わず失格となり、これも離脱ワープさせられる。


なお、破壊までいかずとも、ダメージを受けた部位に、疑似的に衝撃や痺れなどの悪影響バッドステータスを受けるため、なるべくダメージを避けるのが望ましい。

さっき吉田くんは私から攻撃を、左肩に受けたため、片腕が使えなくなったわけだ。


「それで、そんな戦争競技ディシプリンにわざわざどうして?」

「翔悟の奴、部隊を結成したんだ。 これから『炎の監視者ウォッチャー』の代表になれるように、特訓するんだって!」

「代表?」

「ああ。 学校で大会をしてるのくらい知ってるだろ。 優勝とかいい成績出したら、施設とか貴重な素材とか、優先的に使わせてもらえるんだよ。 すごいサークルだと、シード権があるから」

「へえ…… それはいいね」


 北村翔悟、名前だけは知っている。

 同じ2年生で、私以外にマンティコアを初回の攻略で撃退した人物。


 1年の頃に関わりはなかったから、どんな人物かは詳しくは知らない。

ただ、地球人であるにもかかわらず、2年生に上がった瞬間、メジャーサークルである『炎の監視者ウォッチャー』に、なぜか2年に上がった瞬間に入会。

 

 噂によれば、彼は地球人ではあるものの、異世界の英雄の末裔であると言う。

いわば、血統主義特別扱いの申し子と言うやつだ。


どうでもいいと言えばいい。

でも、そういうものが個人的に気に入らないと言えば、その通りだ。


「だけどさ、吉田くん。 チームを組まないと出場できないよ」

「……まあ、それはそうなんだけどさ」

「友達同士で組んで出るの?」

「それはちょっとなあ。 友達の中に、あんまり真剣に戦う奴いないもん」

 

そりゃ、みんな遊び気分だから真剣に取り組む生徒は少ないだろう。

特に、地球の生徒だと、基本的に頑張る理由があまりない。


「でも、仲良くなれる人同士でやったほうがいいんじゃないの? とりあえず、友達誘ってみたら?」

「甘く見るな、決戦競技ディシプリンは戦争だ。 比喩ではなくな」


 ロドキヌス師が、そこにストップをかけた。


「あれは地球マトリワラル異世界ニーダの戦力を、疑似的にぶつけ合うためのものだ。 お前たち生徒を、互いの世界の新兵と見立てて、戦い合わせることで、今後の戦力を互いに分析している」

「……ずいぶんと物騒な話ですね」

「一般的な生徒はそうでもないが、一部の生徒が取り組んでいるのは事実上、軍事訓練だろう。 特定の科目にある計算式も、戦闘におけるコストを計算するためのものだ」


 それ、生徒に行っていい話なんだろうか?


「あ、と言うことは! 真剣に一緒にやってくれる生徒もいますか!」

「……正直、そういった事情のある生徒たちは、もうすでに部隊を固めているだろう。 だから、新規でツテがない生徒が入り込む余地があまりないのが現実だ」

「と言うことは難しい?」

「残念ながらな……」

「そっかぁ」


 ロドキヌス師が申し訳なさそうにしている。

 簡単に手が貸せる話でも出ないようだ。


 でも、良い成績を残せば、施設の優先権とか、研究の支援を受けられるのはいいな。

 サークル単位で受けられる話を、個人で受けることが出来れば、研究もはかどりそうだ。


「先生、どっかの部隊チームに入れてもらうとか無理なんスか?」

「一応、優秀な生徒をヘッドハントしている部隊もあるだろうが。 そこに上手く目を向けてもらえるかと言うと……な」

「うーん……」

「ひとまず、何らかの形で人を集めて、試合に出てみてだな。 そこで活躍することで、ヘッドハントされるかもしれない」

「どっちみち、簡単にはいかないんスね……」


 話を聞いている限り、ますますその北村翔悟くんとやらに与えられた境遇はずるいな。

 やる気がそこまでない仲間をかき集めて、活躍すると言うのもなかなか難しいだろうし。

 そもそも、他にメンバーを探している部隊とやらがあったとしても、活躍したところで、求めているメンバーかにもよるだろう。


狙撃手を探している部隊が、大型杖ロッド使いである吉田くんを見つけても、スカウトしようとは思わないよな。


「いっそやってみるか?」


私の中で、一つの選択肢が提示されつつあった。

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