第13話 試練の塔 最初の挑戦 ~その2

 石碑を書き写した私は、周囲の風景を見渡した。

 いくら考察を重ねても、情報があまりに足りなさ過ぎたのだ、もちろん早く動けばいいことはわかっていたが。


「さて、地図を書き写したはいいけれど……縮尺がわからないね」

「ついでに目印もないのだな、どこまで行っても似た光景が続いている」


 近隣に明確に目印と言えるものがなかった。

 どこまで見ても暑苦しい乾いた荒野が続き、小さな丘がちらほらと見える程度だった。それも陽炎のせいではっきりとは見えないものも多い。

 方向は太陽で決められるとしても、地図に対しての目印がなければ距離が測れない。


「空が飛べる使い魔がいれば、簡単に行くのだろうけれど」


 そう、例えば魔女マリンカの『賢鷹ペラフォルン』であれば、目印となる記号の位置も確認しに行けるのかもしれないし、危険があるか見に行くことも出来るだろう。


「さて、そう簡単にいくかな」

「おや、テイラー……君はなにか思うところでも?」

「さあな。 ひとまずネズミは空が飛べぬ、人間もそうだろう。 しかし、高所から見ると言うのは良いアイディアかもしれん。 体力の消耗はあるだろうがな」

「それは……まあ、そうだろうね」


 私は書き写した地図を頼りに、歩き出した。

 今は正午を過ぎ、日が傾いているように見える。なんとなく、南がどっちかはわかる。


 腕時計は身に付けていたが、学院にいた時からの時間を指し示しているため、何の参考にもならない。仮に今を1時半として、時計を動かしておこう。

 時計と太陽を使えば、少なくとも方向がわかる。短針を太陽の方向に向けて、12時の方向の間を見れば、ちょうどそこが南に位置する……のだったかな。

 ただ、正確なここでの時間がわかるわけでもないし、頼りにはならないかもしれない。


 まあ、ひとまず歩いていこう。

 階段を目指す。その間にあると思われる水場をまずは目標にすれば、明確なはずだ。


 風と共に塵埃が舞う。

 あまり吸込まないほうがよさそうだと、ローブに付属されているマスクをずらして口を覆った。これは訓練の時にも使っている、耐衝撃機能を備えたコートだ。

 火炎や多少の毒ガスも想定されたマスクが付属されている。

 そういった装備を貸し与えられている以上、これからの道中に何が待っているかはわかろうというものだ。


 自作で持ってきた魔装具は、模擬戦で使っている物以上の、火力が高いものを揃えている。

 普通の人間ならば、1ダースは木っ端みじんにできる程度の魔装具だ。テロリストになった気分である。


「魔術師と言う生き物は、簡単に大量殺りく兵器が用意できるから、恐ろしいよねえ」

其方そのほうも魔術師だろうが。 欠陥だらけにしても、な」

「まあね、それでもなお手軽に人をいくらで殺せる力がある。 これは本当に恐ろしいことなんだよ、テイラー」


 魔術師が犯罪を起こした場合、普通の人間よりも遥かに重い罪に問われることになっている。それは、魔術師が何らかの犯罪を起こした場合のその被害が、とんでもないものになるからだろう。


 それに、一般市民の魔術師に対する感情も相当悪化するだろうし。

 私から見ても、魔術師なんて化け物とそう変わらない。

 頭で考えるだけで、人を殺せる技を好き好んで学ぼうと言うのだ。それで正気を保てるなんて異常者としか思えなかった。


 私がもし前世と同様の精神だったら、『いつでも人を殺せる』と言う重圧に耐えきれなかったはずだ。


 しかし、死ぬまで働き続けた結果が、努力して築いた人生を奪われたという結末。

 さらに、突然に赤ん坊をやらされるのを続けて体験をしてみれば、幸なのか不幸なのか、大抵のことには耐えることが出来るようになるというものだ。

 引き換えに、命の重みを認識する繊細さは失われつつあった。


「私は自分の感覚がいずれ麻痺してしまったとしても、理性としての常識を持っていたいね。 可能な限り、常識に囚われていたい」

「軟弱薄志……いや、人間と言うのはずいぶんと繊細にできているのだな。 ネズミは大量虐殺を平気でしてくる巨大な生き物が隣人にいてな、必死に生きるので精いっぱいなのだ。 そんな些細なことを気にする情緒や余裕はまるでない。 いやあ、人間のように感受性豊かでいられたらな」

「遠回しに私を責めてるのかい?」


 なかなか難解な言い回しで、ネズミに対する人間の態度を責め立てているようだった。

 しかし、そうは言うけれども、テイラーの物言いに本気を私は感じなかった。

 なので、言い直した。


「本気で責める気はなんてないくせに、よくすらすらと皮肉が言えるねテイラー」

「ああ、余は人間を責める気などないとも。 強いと言うことは、己の我儘や傲慢さを貫き通せるということなのだ、陽介」


 皮肉屋のテイラーは、よくネズミから見た視点で人間を責め立てることを言う。

 だがそれは、彼が心の内を出してくれたわけではない。テイラーにとっては、ネズミの命も人間の命もさして変わることのない数字でしかなかった。

 魔術の恩恵を受けたネズミである彼は、本当の同胞などこの世にいないのだ。


 私はテイラーと話しているうちに、喉の渇きが限界に来つつあった。たまらず水筒を開き、喉を鳴らすように水を飲みこんでいく。

 荒野の熱さと渇きは、この旅路をひどく過酷なものにしていた。


「余はネズミだが、ネズミには戻れぬ。 後悔などはないがな、余自身が望んだことだ」

「私も君に同情したことはないよ」

「余に同情して良い者など、この世におらぬ。 ネズミは逞しく、ずる賢くしぶとい。 しかし、相反するように簡単に死ぬ」

「人間だって簡単に死ぬさ」

「ああ、そうだ。 お前たちも結局は獣に過ぎない。 あの忌まわしき邪悪な猫もそうだ、絶対者気取りで面白半分に殺すくせに最後には死ぬ。 それならそれで構わない」

「テイラー、君の死生観は人間からしてみれば、ただの地獄だよ」


 実際、彼はこの世が地獄であることを受け入れているのだろう。

 ネズミのくせに孤高なのだ。魔術師と一緒にいながら人に拠らず、ネズミにも拠らない。

 私が魔術師を人間の化け物と見ているのと同様に、彼は自分をネズミの化け物として受け入れていた。そうあるべきとすら考えている。


 彼の精神性と、私の精神性は酷く似通っていた。それは魔術による繋がりを得てしまったために発生した副作用なのかもしれなかった。どちらが原因かはわからないけれど。


 テイラーは奇妙な含み笑いをした。「キュキュキュ……」と器用に音量を殺しながら鳴らすのだ。


「代わりと言っては何だがな。 人間もいずれ蹂躙される側になった時に、素直に受け入れてくれると公正フェアで良いと思っているところだ」

「それは無理な相談だね」


 そう、それは無理な相談だった。

 人間はそんなことを受け入れない。言ってしまえば、それは世界の終末だ。古くから世界の終末を訪れることを願う人間は数多くいるが、そのなかで自分が特別に選ばれると思っているからこその結論だ。

 人間は、神様に「人間と言う生き物が特別だと認識されている」と思いこんでいるからこそ、その神を信仰することができる傲慢な生き物なのだ。


「まて、陽介」


 私はテイラーの声に反応して、立ち止まった。

 私よりも、ネズミであるテイラーは遥かに索敵能力に優れている。私も少しずつ肉体改造を始めてはいるけれど、動物に比較できるほどのレベルにはなっていない。


 しかし、そこに何かがあるとわかっても、なお分析できないほど劣ってもいないし、そこまで間抜けでもないつもりだ。


「あれはなんだ?」


 私は小声で疑問の声をあげた。


 それは遠目で見て、明かるグレーの犬にそっくりだった。強いて言うなら、少し大きめのコリー犬に似ていた。しっぽはふさふさと丸みをおびていて、見ようによっては可愛らしく思えたかもしれない。


 それらが三匹ほど、動物の死骸を食い漁っていたのだ。

 牙と器用に、二本の前足……いや、発達した手を使って。


 私の眼球は魔術の発動と共に、その小さなシルエットを拡大してみせた。

 それ前足はなにかを掴むのに適した形をしていて、ある種のサルの手にも見えた。

 ムシャムシャとかがみ、体を猫背に曲げて獲物を食らう様子からは、はっきりとは見えないものの、その生物の小さな頭は、丸みを帯び、それもまたサルにようにも見えた。


「近づかないほうがよさそうだぞ、陽介。 こちらは風下だ、大人しく迂回しろ」

「ああ、あえて危険に挑む必要性はない」


 得体のしれない怪物モンスターを相手に嬉々として挑むような神経は、私には備わっていない。

 戦って得られるものなど何もないのだから。


 十分な距離をとったまま、迂回する。それだけで危険は避けられる。

 ……そのはずだった。


 何かの遠吠えが聞こえた。

 目の前にいる生き物からではない。


 陽炎でぼやけるほど、遠くにある丘陵からだ。


 その遠吠えに、奇妙なコリー犬にも似た生物たちは反応した。

 奴らは私達に気付き、しっぽがふくらみ、水平に持った。そして、黄色く汚れた牙をむいたのだ。サルのように思えた小さな頭は、思った以上に歪んだ人間の頭蓋骨に近かった。

 それどころかその顔は人間が作り出す、嘲笑する表情に近い類似性を見せていた。人間が自分よりも力の弱いに対して、強い態度を出すときのようなそんな醜い姿。ひどく嫌悪感が湧き出す。


「戦いは避けられぬな」


 テイラーは淡々と言った。

 彼の冷静さに相反して、私は感情を抑えきれてなかった、


「ちょうどいいさ……あの生物は癇に障る」


 目の前のコレが存在することは、人類に対する嫌がらせだった。


 異世界の地において、人間は弱い。傲慢さや我儘を貫けるような存在じゃないことは知っている。恐らくこの『試練の塔』においてもそうなのだろう。


「それでも、私はアレが不愉快だ!」


 私は、剣と触媒つえを抜いた。


 歯引きなどされていない真剣、それを引き抜くのは久しぶりだった。

 利き手に刃渡り30cmほどの小ぶりな刀剣と、左手に指揮者の金属製タクトのような触媒つえを構える。私の普段通りの戦闘スタイルだ。


 猫背に腰を折り曲げたその3匹の生物は、私に目掛けて駆け寄ってくる。

 私は一応、逃げることも視野に入れたがその考えを破棄した。獣と足の速さで競うのは、バカバカしいし、追跡されれば面倒だった。

 獲物を何十キロも追跡し続け、弱ったところを狙える獣もこの世にはいる。


 ここは力を抑えるべきか?


 一瞬だけ、私は冷静になり逡巡した。

 余力を残すべきではないかと、悩んだのだ。


 しかし、ここで私のパートナーは即座に断言し、迷いを断ち切った。


「出し惜しみするな。 全力で行け、陽介!」

「承知したっ!」


 『馬鹿には見えない服コモンセンス』を展開。

力場を使用し迫りくる獣の目前に、一本の試験管を投擲。


 地面に衝突する前に、破裂した試験管は内容物をまき散らし、錬金術を発動する。悪臭を伴う紫の煙と共に、不毛な乾いた荒野に出現したのは、巨大なイバラである。

それも金属でできた強度の高い頑強なイバラだ。


 鋭い槍を蓄えたソレは出現と同時に鞭のようにしなり、強烈な一撃を獣たちに叩き込む。


 加速した獣は避けきれず、一匹に直撃しもう一匹をかすめた。直撃した獣は、肉体が四散し五体がバラバラに転がる。かすめた獣も手足を失い、動きを封じられた。


 巨大なイバラはそのまま数秒ほど暴れると役目を終えて、すぐに塵と化す。その形を長くとどめてはおけるほどの技量を私は持たない。しかし、結果を見るまでもなく、足をもがれた獣も原型を留めていないことは明らかだろう。


 対魔術師用の攻撃魔術、『潔癖症のイバラ姫オールドメイド』だ。爆風や熱は力場で弾かれかねないので、それ以上の強大な質量でたたき潰すことを目的としている。実際に魔術師を殺すには確実性が低い失敗作ではあるが、私にとっては切り札の1つだ。


 すり抜けた一匹が駆け抜けてくる。私は力場を応用し、私自身に推力を与えた。

自分自身を投げ飛ばす要領で加速させる。自身を中心とする力ではないので、本来の使い方よりも難しいが、エルフであるファルグリンとの戦闘をこなすには必要なスキルだった。


 この魔術を失敗すると、まさに車から投げ出された子供みたいに、悲惨なことになる。魔術にはブレーキやエアバックなんて安全機構がないのだから当然、加速には危険を伴う。


 急速に加速させた身体とともに剣を振るう。

なんと獣はそれを反射的に避けて見せた、驚くべき身体能力である。私は身をひるがえし、一回転。舞うように剣を返した、それも宙返りと共に避けられる。

 だが、二度目の回避を私は予測していた。ファルグリンと比べたらなんと無駄のない直線的な動きだろう。獣の不規則性など、頭脳戦に長けたエルフの動きに比べたら、相手取るのは難しくない。

 私の剣が変形する、刃がぐにゃりと曲がり敵を捉えた。それは一枚の紙が曲げられた時の動きのようにも見えるし、つかみどころがない液体のようですらあった。


 両断することはできなかったが、獣に手傷を負わせることに成功。子供の腕力では、致命傷は与えられないことは計算済みだった。私の剣術は、何度も同じ動きを繰り返すことで連続攻撃が出来ることが想定されている。

 これはロドキヌス師直伝の実践剣術だ。

 すかさず動きが鈍くなったところに、再度攻撃を仕掛ける。なお、闘志を見せて私に食らいつこうと獣は抵抗するが、『馬鹿には見えない服コモンセンス』によって働く力場フォースフィールドはそれ以上の力を加えられない限りは、鉄壁の壁となる。攻撃は防がれた。

 ひるんだチャンスを逃さない、剣の重さを遠心力にして加速、力場フォースフィールドによってそれをさらに加速、寸分たがわず、人間によく似た醜悪な表情を見せるその首を跳ね飛ばした。


「まだ終わってないぞ、間抜けめ。 さっきのヤツだ!」


 周辺を警戒していたテイラーが、すかさず叱咤する。

 手足を吹き飛ばされたはずの一匹が、ボロボロの肉体を動かしながら、私に向かって突進していた。思った以上の生命力だ。よだれを口から垂れ流しながら、黄色い牙を突き立てようとしている。


 すかさず左手の触媒つえを鋭利な刃に錬成。

 獣の顎から突きあげるように刺した。対人なら十分に殺せているだろうが、化け物相手にはやり過ぎるくらいでちょうどいい、右手の剣を逆手に持ちそのまま突き刺すようにして、振り下ろす。動かなくなるまで、何度も。何度も。

 

 ……今度こそ終わった。

 呼吸を整える。乾燥した空気と、暑さもあいまって喉にずいぶんと負担をかけてくる。


 私には白兵戦術だけならば、魔術の使える同じ学年の生徒に負けることは確実にないと自信がある。殴り合いならば、負ける気がしなかった。


 私は、気色悪さに顔を歪めた。

 そして、反射的にコートの裾で顔をぬぐう。


「しまった、これだとコートが汚れたな」


 剣も手入れした方が良いだろうし、戦いは面倒だ。

 体力も消耗するし、出来る限り避けたほうがよかったのに。


 私は遠方の、小高い丘の連なりに目を向ける。

 先ほど、この獣たちを遠吠えでけし掛けた奴がいたはずだった。


「どうやらもういないようだな、逃げ足の速いことだ」


 テイラーがそう言った。


「こいつらは……いや、それよりもさっきの遠吠えは何なんだ?」

「どうやら、声の主はこの人面犬どもを操ることが出来ると見える」

「なるほど人面犬ね、言い得て妙だ。 個人的には昔、写真で見たチュパカブラにも似ていた気がするが」

「なんだそれは?」

「実在の怪しい謎の生物だよ」

「それはよかったな。 ほら、実在していることが証明されたぞ」


 私はテイラーの言葉を無視して、剣と触媒つえを点検した。


 私の剣はあらかじめ、16パターンの変形が出来るように組み込んである。代わりに、この魔術を使うたびに劣化する。刀身が微妙に歪んだり、耐久性が衰えていくのだ。

 元は学校から私個人に貸与されている備品であるが、別に構わないだろう。いずれ形あるものは壊れるものだ。


 なお、剣の形状は16パターンも用意しているが、実際に使うのは片手で事足りる。実戦においては、有効に使える場面で適正に判断できる瞬間と言うのは意外に限られる。

 無数の技を使える剣士よりも、基礎を可能な限り高めたほうがシンプルで強い。私が手数にこだわるのは弱いからである。


「あまり何度もこんな戦い方は出来ないな、装備が使えなくなる」


 模擬戦で吉田くんに使われた大型杖ロッドはその点、便利そうだった。本体が頑丈にできているだけでなくて、相手に触れずに戦える。間合いがとれるから防御にも攻撃にも優れる。


 私の触媒(つえ)が耐久性を重視した作りなのは、無茶苦茶に扱っても壊れずに使えるからだった。多少変形させても、劣化はするが触媒としての機能に一応問題はなかった。

 なお、暴発する危険性も高まるはずなので、他の人には進めない。


「ひとまずは大儀である。 まあまあの手際だった、一応及第点だな」

「命賭けてるんだから、もう少し褒めてくれない?」

「スマートさと余裕がなさすぎる。 一言で言ってしまえば、其方の戦い方には優雅さが足りぬのだ。 それでもよく出来たほうであろうな、普段の模擬戦もこうやってみせたらいいものを」

「いつ、私の授業なんか見てるのさ。 だいたい、こんなもの模擬戦で使ったら殺しちゃうよ」


 授業では絶対に使用できない魔術や戦術だらけだった。

 私は錬金術による爆発物や毒物、あるいは鉱物の錬成を得意とはする。そして、同様に植物も多少なりとも操ることもできる。

 いや、錬金術が得意と言うより、それしか使えないのが正しいわけだがその大半は殺傷能力が高すぎて、ほぼ人間には使用できないものだった。


 それに初見で使った方が成功率はいい。授業や教師には見せずにおいた方が良いと、私は思っていた。同じ条件でなんでもありなら、相手だってそうなるはずだし。

 魔術師の家系連中ならかなりド派手に決めてくるはずだから、不意を討つ必要があった。


 鼻をひくひくさせながら、テイラーは言った。


「フム、どうやら遠吠えの主は本当に何もしかけてこないつもりらしいぞ」

「みたいだね。 どんなやつかも目的もよくわからないままだ……力を隠した方が良かったかな」

「いや、少しでも見せつけて牽制した方がよかろう。 立て続けに襲われた時の方が厄介だった。 獣相手なら自分を大きく見せたほうが良い、それが鉄則というものだ」

「なるほど、確かにその通りだね」


 すこし様子を見てみたが、遠吠えの主は気になるものの、今はこれ以上のちょっかいを出してこないつもりらしい。

 人面犬を倒したわけだし、この場から離れるのが正しいだろう。死臭目掛けて、別の怪物が集まって来ても困る。


 私は少しだけ死体を観察するのに、わずかに時間を割いてから歩き出した。

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