1962年秋(3/3)

松代夫妻は大喜びだった。


「え、そんな仕掛けして来たのですか。本当に交通部長の奴、ロクでもないなあ。よくぞ冷静に対処してくれました。お礼を言います」


松代さんはうちの卒業検定合格に喜びつつ、うちに平謝りだった。


「松代さんの方は何か言われました?」

「俺の負けだ、松代さんの言う通り女性運転手はもっと増えるんでしょうなと。それだけ」


負けを認める人なら、まあ後腐れはそんなにないかな。


「ほんと、うちの人が相手見極めずに喧嘩をするから。御免なさいね。古城さんには借りが出来ちゃったな」


そう礼子さんに言われた。そして続けてある提案をされたのだった。




夕方仕事を終えて呉駅に着いた。すると改札口で千裕さんが待っていてくれた。


「千裕さん、どうしたんです?」

「合格したんじゃろ?」

「はい。古城チセ、無事合格しました」

「おめでとう。チセさん」


そういうと千裕さんはうちをお祝いにレストランの外食に連れて行ってくれたのだった。

レストランではワインを二人で飲みながら礼子さん、というか松代さん夫妻から提案された事を伝えた。


「チセさんがやるなら応援する。チセさんが楽しい方がわしも楽しいから」


なんて事を言われたのだった。


後日、県の学科試験を受けて晴れて運転免許証を取ったうちはすぐ自家用車を運転する事になった。

千裕さん、うちが合格するだろうという読みでさっさと車の注文を入れていたのだった。

地元自動車会社の小型車。かわいらしい朱色の乗用車。


「千裕さん、いつ注文したんです?」

「松代の学校に行くと決まった時。納期時間掛かるかもと言われて予約注文してくれたら値引きするとも言われたから」


とシレッと言われた。千裕さん、博打打ちの血が入っておりんさるとうちはちょっと恐怖した……というのは嘘だけど、うちが検定を簡単に通らずに何回も落ちるとかしていたらどうする気だったのだろうとは思ってしまった。

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