1962年秋(2/3)
卒業検定の朝。千裕さんといつもより早く家を出た。
「神社お参りして行こうか」と誘われたのだった。
始発のバスより前に家を出た。
県道沿いだと車道なので大回りなんだけど一直線に惣付町へ抜ける細い電電公社道路があってそこを抜けていけば1時間もかからず駅まで行ける。
神社は駅より少し東の方にあったので途中からそちらへ向かって気持ちのいい朝を手をつないで歩いて行った。
この人の手は温かい。こうしていると大丈夫かなあと思えてしまう。
神社にお参りして二人で並んでうちの合格を祈願した。
そして駅で千裕さんと別れた。うちは呉線で学校へ。千裕さんは市役所へ出勤だ。
「チセさんなら大丈夫。通るよ。一つだけ助言するとしたら何か唐突に起きるかもしれない。無視して」
「はい。変な事があったら安全第一で無視します」
この人、変な事言うなあと思いつつも気に留めておいた。
「千裕さん、でも通るかなんてそんなの分かんないわよ」
「ほうか?じゃあ通ったらご褒美用意しておくから。それなら頑張れるかな?」
そう言って千裕さんは少し笑った。一体何を企んでるのかしらん。
「それでは卒業検定を始めます。一同礼。この検定には警察の方が視察同乗しますがいないものとして検定に取り組むように」
検定員は
指導に当たってくれた教官は検定員はやらない事になっていた。
だから潮洲教官の事は事務室の職員としてしか知らないんだけど他の生徒さんと座学などで話をしていたらハンサムなおじ様とか言われていて女子には人気だった。
うちは千裕さんがいるからそういう興味はなかったけど、千裕さんよりは少し落ちる程度じゃないかなあと思わない事もなく……なんて事考えてる場合ではなかった。集中、集中。
さあ、ハンドブレーキを切ろうとした瞬間、変な事が起きた。
どこからか蛾が飛び出して来たのだ。驚く潮洲教官。
うちもギョッとしたけど千裕さんの言葉を思い出した。
そして慌てず蛾を掴むと窓を降ろすハンドルを大慌てで回して窓を開けると外へ投げ出した。
バックミラーで後ろを見たけど交通部長は素知らぬ顔していたけど悔しかったに違いない。
うちは和かに宣言した。
「教官、安全点検完了しました」
潮洲検定員もこの時には冷静さを取り戻していた。
「どうぞ。始めてください」
うちの卒業検定は滞りなく終わった。流石に運転中に仕掛けてくる事はなく無事合格した。
信号停止するかしないかというタイミングで交通部長が「今日はいい天気ですな、奥さん」と言ってきたので無視したぐらい。下手に答えたらそれが運転を集中してないと難癖つけられると思ったし。
終わった時、交通部長は何かブツブツ言っていたけど検定内容にはケチをつけずに校舎の方へ戻って行った。
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