1962年初夏・新婚旅行(1/5)

千裕さんは月曜日から5日間の結婚休暇が取れていたので日曜日は片づけをして月曜日早朝に伯父さんと伯母さんに見送られて呼んでいたタクシーで新婚旅行へ出発、呉駅へ出て普通列車で広島へ。

そして7時30分発の気動車特急「へいわ」に乗り込んだ。この列車で神戸に向かうのだ。


千裕さん、せっかくだからと奮発して6輌中たった1輌しかない一等車を取ってくれていた。

特急の一等車なんてうちは初めて。

千裕さんは出張する事もあるから乗っているほうだろうけど、


「普段は二等車だから。あっちは席が2つ一体だがこっちは独立しているんだな。経験はしてみるもんだ」


と言っていた。

席がちゃんと一人ずつ独立していて枕部分が上下に動くようになっていた。

足を置ける台なんかも付いていたりしてやっぱり二等車とは違うなと思う。


「へいわ」は定刻通り広島駅を発車した。

しばらくして千裕さんに隣に連結されている食堂車に行ってみようかと誘われたので一緒に行った。

食堂車は窓際に質素ながら真っ白なクロスが掛けられた机と椅子が並んでいた。席に着くとウェイトレスの人が注文を取りに来たので二人ともコーヒーをお願いした。


「今日の予定はと三ノ宮に着いたら食事だけどどうしようかな」


ありゃ、りゃ。神戸は千裕さんの生まれ故郷だから大丈夫かと思っていた。


「戦争が終わった時に離れちゃったからね。うーん」


そう言って頭を抱えている千裕さん。案外かわいい。


「11時46分定刻に三ノ宮駅へ到着いたします。降りられる方はお忘れものなどないようにご準備を」


車掌さんのアナウンスがスピーカーから流れた。

千裕さんが網棚から旅行カバンを降ろしてくれた。


「さ、チセさん、神戸だよ。降りてまずはお昼に行こうか」

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