1962年初夏・新婚旅行(2/5)
名残惜しいけど「へいわ」はここでお別れ。三ノ宮駅を出ると手荷物預かり所に荷物を預けると改めてお昼はどうしようかとなった。
「わしが知ってるお店は戦争で何もかも燃やされる前やからなあ。戦争終わって軍隊から復員したらすぐ呉に行ったし」
「気にせず適当に入りましょ。当たり外れは時の運」
「うーん。でもなあ、うちの故郷でチセさんに美味しいもの食べてもらいたいしなあ」
まだどうするか決めてなかったんだ。案外優柔不断なところもあるんやねえ、というのは新鮮な驚きだったけど、すぐ千裕さんは何か思い出した。
「そうやな。あそこはやっとるだろうから」
そういうとうちの手を引っ張って三ノ宮駅を出て西の方へと向かった。
「どこ行きますの?」
「中華街。神戸は華僑やインドの人が多いんや。ちょっと歩くけどチセさん、大丈夫か?」
「千裕さん。うちはあなたより10歳も若いんだから運動苦手なあなたが大丈夫ならうちも大丈夫」
「それを言うてくれるな」
「え、年齢?」
「運動音痴」
あちゃー。やっぱり気にしてますか、千裕さん。ちょっと意地悪だったな、うち。
「千裕さん、言うほど運動音痴じゃないですよ。さ、急ぎましょ」
そういうとうちの方が彼の手をひっぱって走った。
三ノ宮の繁華街をつっきると元町の中華街に入った。
街並みの一角に中国の息吹があふれていた。こういうのは呉とかないから二人でどの店に入ろうかと見て回った。
「わしもどの店がいいかまでは分からんから、チセさん、えいやっって入るお店決めたらいい」
という事で気の向くまま思いつくままパッと目に入ったお店を指さした。
「じゃ、千裕さん。このお店にしましょう」
そこは飲茶のお店だった。店の人に話を聞きながら食べたいものを選んで食べた。
千裕さんが持っていたカメラをお店の人に渡して二人で撮ってもらった。
「ありがとうございます」
「新婚さんですか。お幸せに」
なんて声をかけられたりもした。
こうして夕方まで千裕さんとうちは元町から三宮の方へ戻りつつブラブラと探索した。
そして16時前に三ノ宮駅に戻って荷物を引き取ると各駅停車の電車に乗って芦屋駅に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます