1962年初夏(3/3)

山の上の集会所までやってきたうちの学生時代の友人達は思った以上の反応をした。


「ちーちゃん、結婚するとは思ってなかった」

「チセが結婚するならきっと同い年ぐらいだろうって思ってたけど10って。うちでも5つしか離れてないのに」


結婚に驚いているのはうちも同じなんだけど、年上をうらやましがる子がいるとか思ってもみなかったわ。


横手さんはうちの顔を見て開口一番、


「チセ先輩、独身の男の同級生は呼んでないんですかあ」


と言ってきた。本気でこの子、ボーイフレンドを探しているらしい。

千裕さんのお友達は皆さん結婚してるし。期待に添えなくてごめん。


千裕さんの学校時代の友人の方々は皆さん大喜びしていた。


「やっと不良債権が片付いた」

「最後の独身主義者が降伏した。これで俺らの戦後は終わった。もう終わらないと思ってたぞ」

「あいつはしっかりし過ぎてるんだよ。家事とか料理とか昔から平気だし」


そんな事を言われまくっていた。

挨拶して回っていると広島市内で自動車運転教習の学校の経営をしている人を紹介された。


「中学校の時の同級生で松代といいます。うちは女性向けの教習も力入れているのでチセさんが取る気になったら是非」


彼は苦笑して説明してくれた。


「わしの行っていた中学校は地元の酒造家が作った学校でね。いいところのお坊ちゃまが多いんだが、彼は広島にいられなくなって親父さんに無理矢理入れられたんだよ」

「……広島にいられなくなった?」


それは穏やかじゃない。


「こら、千裕。適当な説明するんじゃない。少なくとも悪さしたとか人妻に恋していられなくなったとかそんな理由じゃないぞ」

「仲が良いんですねえ」

「何、腐れ縁じゃ」


そんな事を二人で行って大笑いしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る