雨香李の一存
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(茅原雨香李)
人生の変えたかった。どこか、心が遠くに行きたがっていた。
そう、誰も自身を知らない場所で、また人生をやり直したい。宗教も、名も、無き生まれさえも捨てて、誰も知らないところでまた違う人生が送りたい、と考えていた。
――私はこの街も海も好きでした。
だけど、変わらなくちゃいけないようにこの街も少しずつ変わっていき、海だって同じように見えて毎日違う形を形成している。
「私はもっと普通に生活して、普通に買い物をして、普通の幸せが欲しいんです」
言った時に、心が破裂しそうになっていた。
好きな人からの拒絶、味方だと思っていた人間からの攻撃は今の私には耐えれれるものではなかった。
「カエルが言う普通ってなんだ?
普通ってのは嫌なことから逃げることじゃなくて、そのために誰だって戦ってるんだよ?そのためにはカエルは姉の静香に本当の気持ちを伝えるべきじゃないのか?」
私は嫌だ。
私は日本人なのです。神様なんて本当は信じたくありません。そうやって、見えないものに縛られたくない。だって、私は一体誰なんですか? それが、兄妹に対して
「あなたは、林ふみは、私に荊の道を歩けというんですか? それはきっと痛い。痛いのは嫌なんです……」
それが、せめてもの言い回しだった。
自身の運命を信じたくなかった。
「だけど逃げてたら、カエルは自分の人生を何も変えることはできな――」
「――それを、逃げてきたあなたが言いますか?」
口に出したときには遅かった。……ぁ
大好きな
思わず、口を手で隠したときにはもう遅かった。
心の汚い言葉が溢れてしまう。だけどなんで、林ふみは何でこんな笑顔でいられんですか? この笑顔を、なんで私に向けるのですか?
「だから、俺は普通じゃない。普通にはもう戻れない。そんな俺とは、本当はさ。俺と一緒にいちゃいけないんだよ」
ごめんなさい、そんな単純な言葉も出なかった。
そして、何も言えない私の肩を優しく叩くと「今日は遅いから、もう夕食にするか」ふたりであの田舎の家へと歩いていった。
その最中、林ふみは、
「俺の家にはいくらでも居ても良い。俺はカエルが居てくれて助かっているのも確かなんだ。だけど、それがカエルの人生を狂わす理由にはならないし、だからこそカエルがこうやって悩んでるのを見てられない」
そう、気を使ってくれた。
彼は私の大事な人……。私の事を真意に考えてくれていることぐらい最初から分かっていた。だって、そうじゃなきゃ家出少女に手を出さない男なんていないぐらい分かっているつもりだった。
「大丈夫です。林ふみがこういう人だと分かっています。迷惑かけたとか思ってもあなたにソレを謝ろうと思いません。私とあなたの関係はそうでなくてはならないもの。ええ。」
そうやって、一生懸命林ふみに甘えてよいかも、考えていた。でも、その戦いから逃げていたのは私の方だった。
私は、彼に惹かれている。
それだから、彼の言うことは信じてみたいとも思えた。
ただ、少し嬉しかった。
誰かに望まれていると知った時ちょっと胸が浮くような気持ちになるのです。
だけど静香は、私の事を本当は邪険に思っているに違いありません。それは兄妹だから止む負えなく私に宗派の教えを説いてるに違いないのに……。
私に無理強いをする以上、私は彼女を認めるワケにはいかない。だけど、あなたが戦えと言うなら、私は戦うわ。
そうよ……、林ふみがそう言うならその通りなんだと思う。
ただ、そう思っている心の片隅には、ソレを選ぶ前に私には知らなくちゃいけない問題があった。
それは私の事。両親の事……。
まだ、自身が誰なのか分からない。それがとても辛かった。
心に魔が差したとは、まさにそういった感情のことを言うんだなと――そのときの私は知りもせず、感情のまま動いてしまった。沸きあがるその感情を『不可能』という言葉で片付けられるほど、振りきれる楽な性格ではなくなっていたから。
「私、今から母と話してきます」
「家に帰るという事か?」
「えと、そうですね。また会いましょう、林ふみ」
「気を付けて行ってくるんだぞ?」
「はい」
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