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 時刻よりかなり早く雨香李と約束をした『茅原教会』に到着をしたのだが、そこには既に修道服の雨香李が待っていた。その周りには日曜の早朝だと言うのに老若男女と人々が集まる不思議な光景だ。


「林ふみ?」

 恰も彼氏彼女の待ち合わせのような感じで雨香李はこちらに溌剌はつらつと手を振った。だが、他の目線に気づいたのか、その手は小さくなっていく。


「ごめん、待ったか?」

「いいえ? でも、朝にあなたの顔が見たかったの」

 ん……誤解を招く言い方だな。


 胸のあたりが少しかゆくなる感覚に襲われながら、雨香李と共に教会の中へ向かったのだ。


「すみません。初めての方はここに名前を書いてもらうことになっているのです」

 雨香李はテーブルの前に俺を案内すると、そこにはひとりの女性がいた。

「シスター静香? 彼が例の私の友達でりんふみと言います。では、これで一度失礼します」

 雨香李は静香と呼んだ女性に俺を案内すると、逃げるように礼拝堂れいはいどうの裏へと消えた。

 俺が声を掛けようとしたら「終わったら、また来ます」と、足早に去っていく。


 ――白状だ。

「はじめまして。ここ茅原教会のシスターで静香しずかという者です」

「ああ、今日はお願いします。彼女、雨香李さんの友人で林ふみです」と、やはり初対面の大人の女性には緊張をする。


いもうとの雨香李さんから話は伺っています。いつも仲良くしてくださっているようで。これからもよろしくお願いしますね」

 妹――とは、この女性、静香は雨香李の姉ということだろうか?

 そんな静香は俺よりも年上でおそらく二十代後半ぐらいだろうか。ベールで髪を隠しているが、自身より年上だというのはその態度や風貌で理解できる。


「いえ、こちらこそ。名前はここに記入するんですか?」

「はい。言ってくだされば私が書きますので、お願いします」と、静香はペンを左手に持ち、俺の言葉を待った。


 左利きか……と思いながら俺は彼女に名前の漢字を述べると、そのぎこちない手がスラスラと紙の上を走らせた。

 書き終えると、一枚の冊子を渡された。そして、ステンドガラスが綺麗に光る教会の中へと案内されると、どこでも好きな場所に座ってくださいと言われた。


 俺はあたりを見あたしてから、後ろから二番目の席に座ることにした。

 信者の方たちは前の方から次々へとテトリスのように埋まっていく。うおぉ。二段目クリアだ! と言っても人間が点滅しながら消えるという不可解なことが起きるはずもない。



「今日もいいお天気ですね」と、隣に座った女性が俺に声を掛けた。


 内心ヒヤッとした。

 信者でもないのに訪れていて、もし熱心な宗教信者だったら俺は到底口の歪みを抑えられる自身がない。だが、彼女は見覚えのある女性だった。

 赤のセーターにここでもエプロン、男性の本能を擽るようなモスグリーンのタートルネックと言ったら殺される人物。


「アヤカさん?」

「こんにちは。フミ?」

 その言うと悪魔のクセに淑女のような笑みを見せる。俺はこの笑みには騙されない。


「こんなところで会うなんて奇遇ですね?」と俺も偽の笑顔で反撃する。


 俺とアヤカは二人でミサの様子を眺めていた。

 左右に誰もいないのを確認してから、俺はアヤカさんに話し掛けた。


「アヤカさんが信者ってのは驚きですね」

「まさか、そんなはずないじゃない」

 この人、一体何考えているのだろうか……。



 聖歌隊(せいかたい)とオルガンの音が鳴りやむと、一度大きな拍手が壇上に向けられた。その中に、雨香李の姿もあった。そして、白い服を着た男性が十字架の前に立つ。彼がこの教会の司教しきょうということは一目で分かる。


「今日から新しい生活を送る方も多いこの季節ですが、我々もまた、新しい仲間を向かい入れるべく、日々神の言葉に耳を傾けてきました。

 宗教というのは、カトリックだから、プロレスタンスだからとか、関係なく……そうですね。生活の一貫、生きる道しるべとして、捉えてもらえたらそれ以上に嬉しいことはありません。

 我々は、ただでさえ日本という狭くも広い国で、異教徒いきょうととして見られます。

 異邦人に見られるのが多いのは確かです。ですが、ここが日本というのを認めなければなりません。これこそ、イエスの言葉を信じるべきだと、私は思います。

 彼は言いました。

 マタイ5:44です。汝、敵を愛せ、そして迫害する者のために祈りなさい、と。

 敵というのは、日本という国に対して失礼かも知れませんが、イエスは敵、味方関係なく他人を愛せと言われたのです。

 それゆえ、我らが教えはもっとも虐げられた宗教だという方も少なくありません。

 仇を愛するというのが如何に難しい事か……」


 こんな会話の最中にアヤカは俺へと体を寄せてきた。ムンっとした彼女の匂いがしたが、目的はそんなふしだらな理由ではない。

「よくアンタ、あの子の知り合いでしたね……」

 あの子とは雨香李あかりのことだろうか? もしかしたら、ココへ入る前から俺の行動が見られていたのかも知れない。


 尚もアヤカの話が続く。

「一応、知っといて損はないでしょうから。あの教壇で話している司教と受付のシスター、林の知り合いの女の子は元司教さんの子で三兄妹なのよ?」

「え? そうなんですか」


 少々声が上擦った。

 先ほど知ったばかりだが雨香李には兄妹はいないと思っていた。しかも、司教の兄がいるのは今初めて聞いた。そもそも、雨香李は自らのことを孤児だと語っていたし。兄妹で引き取られても可笑しくない話だが……、もっと入り交じった理由があるのかもしれない。


「今話している司教が長男の茅原竜二、受付であなたが話していたのが長女の茅原静香。それで、次女が茅原雨香李」とアヤカはバレない角度で、さきほどの受付でお会いしたシスターと雨香李にゆびさしで兄妹の説明をしていく。



 司教の話は続く。

「ですが……その中で神だけを信じるのではなく、自分自身を信じることもとても、大事だと私は思うのです。たとえば、大事な人が苦しんでいるとき、それをほっといて置けるわけないじゃないですか…?あなたは、我が子に石を投げられたら、それをただ見守りますか?俺は……無理だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 ――あれ…?

 司教は感情があふれんばかりにマイクを手に取っている。それは、テレビで見たプロレスの挑発会見に似ている。

 一度も、ミサに参加したことのないが、この神前での行いは神に反する事象というのが分かる程だ。だが、信者たちはわざめきだすところか、大声で笑っている。


「かつて、偉い方は言いました。田舎には地獄が必要だと。それは、田舎者と上級貴族を区別するための言葉です。だがしかし、イザヤの書では――」といったところで、周りのお仲間たち数名が教壇へと乱入し、彼の身体を抑え込む。


「くそー!ヤメるのだー!お前たち――」

 二人のブラザー達が横にあったパーテンションで教壇を隠す。

 ひとりのブラザーが大声で「すみませーん。しばらくお待ちください」と言った。ってパーテンションが常備されている礼拝堂ってなんだ?


「まず、このパーテンションで信者の目は隠せても、神の目は隠せないでしょうね」アヤカはうまいこと言ったという具合に笑みを零す。

「まったくだ……」

「本当、毎度ながら変わっているわ。あの人たち……」

「毎度って、毎回こんな茶番劇をやっているんすか?」

「でなきゃ、こんなところにパーテンションが常備されますか?」

 言われてみれば……


 神父はあの失態で、周りのその他信者(おそらく、ブラザーたち)に抑えられて裏のほうへ退散。だが、その奥で、僅かながらに説教をする男の声が聞こえる。


「――あれほど、言ったじゃないか?」

「――神前ですよ? 分かります?」

「――神の教えを勝手に解釈することは――」

 等々……


 そのあと、パーテンションが外されると、司教の代理として忍びなく雨香李が教壇にいた。


 一度大きく頭を下げた。

 マイクに対面しながらも、皆の機嫌を伺うように周りを目視した。やはりというか、顔が引きづっていた。それを見た信者のひとりが「ホラッ!!頑張るのよ!!」なんて言っている。


 今この時は神にぶどう酒とパンを捧げる儀式の途中ではなかっただろうか?

 周りの雰囲気が彼らのコントなのか本音だかは知りたくもないが、周りの空気が温まっているのは確かである。既にご承知なのか。暖かい態度で雨香李を見守っていた。

 だが、こんな暖かい食事会のような場ではあるが、教壇に立つ神父代理の雨香李には、叙情詩に書かれた地獄なのかも知れない。


「あの…毎度のことながら、神に叛くような哲学じみたお言葉失礼いたしました」と、一度大きく下げた後も彼女の話は続いた。


「それで、今回は毎年この時期梵令ながらも、新しい方も、私たちに興味がおありな方も多いようですので、祈る時の心構えと言いますか…その教えについて話をしたいと存じます。


『我々は祈る時に偽善者であってはなりません。

 彼らは既に報いを受けているからです。

 あなたは祈るとき、狭い部屋で一人で神に祈るのです。

 そうすれば、神はあなたを導くでしょう。

 神は長いことは嫌いです。

 しかし、神を知らない人々は数多くの願ってしまうのです。

 大丈夫です。

 父なる神は、あなたの願いを既に知っていますから。

 だから、私たちは、こう心から願うべきなのです……』」と黙々と話は綴られていった。

 雨香李の声が小さいせいで、俺とアヤカの無駄なお喋りはできない。

 そして、彼女の声に長々しく耳を傾けた。




 ミサが終えると、雨香李の兄である司教は第一に新しい方、この宗派に興味を持ってくれた方々への挨拶に回っていた。横にはブラザーが一人見張りをしている。……この教会、大丈夫か?


 もういいか、と腰を上げて雨香李に一声掛けてから帰ろう――そう思って立ち上がったが、何か冷たいモノが俺の手に絡みついたのが分かった。


「まあ待ちなさい……。ちょうどいいから『天使の事案』に付き合いなさい」

 そんな言葉を俺に聞こえるぐらいの小声で言ったかもしれない。


 しばらくして、儀式を終えた教会は俺とアヤカだけを残し、物静かな冷たい空気へと変わった。


 竜二という司祭はミサの儀式中は蔓の詩集が入った白の礼服に来ていたが、こちらへもう一度訪れる時には黒のローブへと着替えていた。


 そこで、アヤカと竜二司教は話を始めた。

「久しぶりだな、山田」

「そうねって、私たち違う教会でよく会うじゃない?」

 どうやら、ふたりは知り合いらしい。


 彼らの合わせる視線には、司教と信者といった余所余所しさがまったく感じられない。

 それなりの深交関係があるのだろう。たぶんだが、探偵事務所のほうで。


 そこで、アヤカは俺を竜二という男に紹介をした。

「この子は林ふみ、新しくウチでバイトすることになったの」

「って、あの古本屋でか?」態とらしい驚きの態度をみせる司祭。

 それは、あることを分かっていながらも、あ・え・て こう聞く具合であった。


 それを見たあやかに笑みが零れる。

「いいえ? ウラといって分かってもらえるかしら……」訂正を加えたアヤカはその笑みをこちらへと向けた。

 それを聞いた瞬間、司祭の隣にいたブラザーは何かを察したかのように、一礼をしてこの場を離れた。


 それとは別に、司祭は俺へとなにやら不思議そうな目線を向けた。

「ん……そうだな。林と言ったかな? 君は雨香李の友達と聞いていたが驚いたな? 私は彼女の兄、茅原 竜。どうぞ、よろしく」茅原竜二は俺にと手を差し出した。


 一瞬兄妹というのは、宗教上の言い回しなのかと考えたが、今日のミサでのアヤカとの会話で彼らがどんな形は不明だが実際の兄妹だということを思い出す。と言うが、竜二と雨香李では兄弟というには少々歳が離れ過ぎではあるが。それは某国民的アニメ並みに、だ。


「どうも、宜しくお願いします」

 竜二という男は背が高く、それに合わせ手の大きさも人一倍大きい。

 立っている俺に対して握手をするにも、彼は子供に目を合わせるように、一度屈まなければならない程に。この風貌はとてもじゃないが日本人には見えない。だが名前は『竜二』、なにか理由が分からないが日本人なのは確かのようだ。


「それで、山田がここに来たということは何やら訪ねたいことでもあるのかな?」

「話が早いと助かるわ……」と、アヤカは座りながらも、大きな態度を司祭の竜二に見せる。全くもって頼む者の態度ではない。


「あなた、『天使の事案』について何か隠しているでしょ?」

 それは率直な質問だった。

 天使という言葉がまたしても飛び交う。


 竜二は一度、怪訝な顔を見せる。

「山田が知っていること以外は知らないと思うな。ローマ教会側からの指示を受け取って、俺も山田探偵社と同じく探している最中ではないか? それとも、何か噂でもあったのか?」

「掘り返すようで悪いけど、雨香李って子が天使じゃないかっていう話があってね……」

「ちょっと待ってくれ。あの子が唯一の生き残りだからって、話なら以前も弁解はしたハズだ」竜二は手ぶり素振にアヤカへ訴えかける。

 年上の竜二には失礼だが、これって兄妹の遺伝的なのか?

 だが、雨香李が天使じゃないかって――それは……確かに合っている。


「分かっているけど。ある占師によると、理の世界の教会付近で強いオーラを感じたっていう噂が広まっている。天使か天使じゃないとか関係なしにこのままじゃ彼女の命が危ないわよ」

「そりゃないよ!!アヤカちゃん――」

「気持ち悪い言い方しないで? だから、彼女に対してそれなりに対処すべく助言しているじゃない?」そう言うとアヤカは溜息をついた。


 俺からしたら何の話だか分かったもんじゃないな……と、後ろを見ると、ぴょこっと顔を出した雨香李が俺たちの話を気になって眺めていた。

 アヤカは、俺の背中に触れると、小さな声で「ちょっと…、頼むわ」と言った。

 どう考えても、雨香李には知られたくない話だというのは察するに容易いことだった。俺は小動物のように覗き込む雨香李の元へと向かった。


 俺は雨香李と共にこの礼拝堂から外へと出て行った。さりげなく、彼女の腰に手を廻したかった。癒しが欲しい。


「へっ? 林ふみ? 腰に触れていますよ? ふしだらはよくないですよぉ!」

「あ、ゴメン。なんか、こういう雰囲気だったからつい触ってしまった」

「……あの女性とはいつも、こういう雰囲気ってことですかぁ?」

 ……なんだ、このジト目は? 何か勘違いしていないか?


「あの女性ってアヤカさんの事か?」

「下の名前で呼ぶなんて、随分と仲がよろしいのですねぇ?」

「いや、ちょっと待て? そう言われると困るんだが。彼女は俺が働いている本屋の上司でな?」

「この神聖の場で、彼女との真実の愛をぉ?」

「誤解だ? ああ見えて、アヤカはサタンと同じ職種の人間だ」

「マグダラノマリア! 泥棒猫!」


 ……何言っているんだ?

「偶然、ここで逢ってだな。カエルの兄、竜二の知り合いらしいな」

「本当ですかぁ? でも、私以外に偶然ポイントを使ったことは嫌です! 信じられません!」

「あの……偶然ポイントってなんだ?」

「あ、言ってませんでしたっけ?」

「言ってないな」

「あのですね? 一回しか言わないので、よく聞いてください? 先刻ご承知の出会いで1pt。本当に偶然の出会いなら3ptです。そして、奇跡的にもふたりが神秘的な出会い方をしたら5ptです」


 なんか、不思議なptだな。

 要するに、毎回海で何の約束もないが、必然のように会ってしまった場合は1ptってことか?そして、街中で偶然出会った。それは3ptだろう。そして、何週間か前に山の中で偶然出会い、一緒にこの日の始まりを眺めた。それは5ptに違いない。そこで、ひとつの疑問が生まれる。


「そんなのドコで考えたんだよ?」

「私が大好きな純文学の教科書です!!」


 まあいいや……。

「それで、このポイントは今何ポイントあって、景品とかあるのか?」

 雨香李は、ポツンとした顔を見せたが、一冊の手帳を取りますと、点数を数え始める。

「60点溜まっています」思ったより溜まっているな……。


 しかし、彼女は景品について述べることがなければ、モジモジしながら手帳を眺めた。そして、ちょうど、会話を終えたアヤカが教会から出てきた。アヤカさんは高いハイヒールを履いているせいか、アカリより身長が高く見える。


「アナタが雨香李さんね? 竜二の友達、山田アヤカです」と偽の笑顔を見せたが、雨香李はアヤカを睨み付けたまま返事をしなかった。天使だけあって……悪魔の誘いに気づいたのかもしれない。



 それでは、と雨香李に別れを告げて俺とアヤカのふたりは徒歩数分ほどの山田古書堂へと向かっている最中だ。

「なんで私、あの子に睨まれていたのかしら」と尋ねられたので、思わず「心の中のサタンが見えていたのでは?」と口に出した。


 脳震盪のうしんとうで、この日のバイトを休みたくなった。

 話を変えて、あの茅原教会の事をアヤカに尋ねた。


「私は知らないけど、十年前に二代目の神父様が亡くなってね。それから、今の神名:ガブリエルスの茅原竜二がここの司教を務めているの。でも、彼ら本当にチグハグな名前よね」


 それからがアヤカの考察は長かった。

「まず神父の竜二って名前に竜と書かれている。竜は、旧約聖書で書かれていた大天使ミカエルの敵方よ? あの叛逆天使サタンの別名っていう説もあるわ。その前に、竜は蛇を意味する場合も多いけど、その場合アダムとイブに知恵のリンゴを食べるように唆したのが蛇にも繋がるわ」

 へぇ……。

 聞き手が呆れているとは知らず、アヤカは未だに話を続ける。

「人の生死を生み出した原因とも言われる悪名の司教だなんて滑稽よね。どちらかと言えば、神主のほうが似合うんじゃないかしら? 島根の出雲大社いづもたいしゃでは確か白蛇はくじゃを祀っているわよね」


 よくもまぁ……宗派を超えた神話を話せるもんだな。

「確かに、旧約聖書のアダムとイブの逸話は俺でも知っているがな」

「それにシスター静香しずか。これは名前の語路が悪すぎるわ」

 完全にアヤカは自分の世界に入込んでやがる。

 だがそれは……俺でも違和感があった。シスター静香って、シスターにするべく付ける名ではないのは一目瞭然だった。

 だが……それらすべて含めて、実際には彼ら兄妹がどんな存在なのか、察するに容易いことであったのだが。



 そして、二人は古書堂へと戻ると、ある異変に気が付いた。

 あの古賀が本の販売を行っていた。恰も、本当の本屋顔負けの営業スマイル。


 言っておくが、古賀は本屋のアルバイトではない。

 あくまで探偵? と言うべきか。そして、古賀の目がアヤカを凝視する。

 古河はアヤカに六法全書全文程の文句が溜まっているようだ。その目は『ウラへ来い』と語っているが、彼女はそれを無視して古賀の肩を叩く。


「とても、似合っているわよ?」

 そして、ふたりは肩を組んで裏のスタッフルームへと行った。

 その様子はラブホに向かうカップルにも似ているが……その姿が見えなくなった瞬間だった。


 ――ボッ!!


 マクネチュード9.0ぐらいだろうか……随分の腰の力が御強いんですね。

 教科書の会計を行う高校生が一瞬唖然(あぜん)とした顔を見せた。だが、俺は何もなかったように、即座に本屋アルバイトへの座についた。


「あ、すいません……千円のお返しですね」


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