二章

2-1/3:発注ミスと家出少女


 大量な本が届いた時、山田店主の発注ミスが原因かと思っていた。


 宅配便の若いドライバーの男たちが失礼しますと、体半分はある本の束を抱えて訪れた時に驚いた。驚いた原因はガラス戸で煙草を吹かしていた山田店主が目玉を飛び出すぐらい驚愕きょうがくした顔を浮かべたからだ。

 ホラー映画とかで、よくビビって変な行動をしてしまう人間ってのが大概いるが(大体勝手な行動をして死ぬ)、こういう奴の表情をしていた。


 宅配員に「どこ起きますか?」と聞かれたが、とにかくスタッフルームに詰めるしか方法はない。

 運ばれていく最中、真意を確かめるため山田店主に「この荷物なんですか?」と聞くと、「発注ミスかもしれん」と返答が返ってきた。


「はぁ?」

 俺はわざとらしく顔を歪ませるが、山田老人が恐怖で顔が変形しすぎて見えない。てか、見たくない。


「あと、5束あります」という声は山田店主の耳にはもう届かなかった。


 スタッフルームという我が領土を荒らされたアヤカが目を細めて、デスクから細めた目を積み重なる包装紙へと向けていた。

 俺が宅配員に出した指示が予期せぬ方向で怒りを買ってしまったと思ったが、そうではなかった。


「もう、こんな時期なのね」アヤカは染々しみじみと言った。


「こんな時期ってなんのことですか?」

「あぁ、フミは初めてだもんね? 昨日封筒で届いていたけど、毎年二回、聖ミカエル高等学校の生徒への教科書受け渡しを請け負ってるのよ?」

『聖ミカエル学園』と言えば、ドコかで聞いたことがあった。確か……雨香李が通っている高校のジャージにはこのような名前が記載されていた。

「あ、そういうことね」山田店主は、ケロっとした顔でいつものぬらりひょんへと戻る。


 そういえば俺も中学の時から学年が変わるごとに、今は潰れた老舗しにせ本屋で教科書を受け取っていた。受取日を忘れてて、近所に住んでいた同学年の女の子に叩き起こされたんだっけな……。自慢じゃないけどさ。


 全ての荷物を運び終わると、スタッフルームの片隅が包装紙ほうそうしの壁と化していた。本の多さに唖然としたが、三学年全生徒分の教科書と考えれば、この本の質量は妥当なのかもしれない。


「これじゃ、作業できないじゃない」アヤカはちょっとイラつき始めていた。

 それからしばらく、俺とアヤカと山田店主は、その本の壁を眺めていた。だが、眺めるだけじゃらちが明かないのも確かだ。

 見ているだけで販売されていくなら、誰もが苦労せずに商いをしているだろう。


「んで、教科書を渡しやすいように何かするんですか?」

 ふと、ふたりへと尋ねていた。

「去年は各自奥で、ビニール紐に縛って持ち帰ってもらったよ?」

 アヤカはビニール紐の丸い束をポンポンっと野球ボールを扱うように手首を使って浮かせた。

 ……彼らは本屋業務に対して、なぜこんな杜撰ずさんな扱いはないだろうか。

 探偵としての業務も場合によっては詐欺師 まがいに近いというのに、そもそも真面目に仕事をしているところなんて見たことがない。


「ネタですよね?」

「ネタじゃないわよ」

 紐でって、粗大ごみ回収じゃないんだから。もっとやり方があるだろ?


 おこがましいと思いながらも、俺はアヤカたちへひとつの提案をした。

「いや、勝手な想像ですが、持ち帰りやすいように紙袋を用意するとか、色々あるんじゃないですか?」

「お?ヤル気満々だな?」山田店主が茶茶をいれる。

 さすがに癇癪かんしゃくを起こす寸前、拳に刺さる爪で正気を戻す。


 アヤカの何か遠くを眺めるような澄んだ目が俺へと向けられている。

 彼女は俺の言葉にしばし目視。そして、聞きたくない一言をすんなりと吐いた。

「確かに、これだったら本は傷つかずに済むな?」


 俺は一度、瞳を閉じた。ただ、心が叫んでいた。

 今までの東京での生活が目蓋まぶたに甦る。こんな、適当に働くことが許される日は一日もなかったし。だが、ことわざではごうにはいっては郷に従えという教えがある。

 もしかしたら、それが普通の在り方なのかも知れないと……。

 ――んなワケあるか!



 アヤカは前日の夕方、どこからか細長いテーブルを幾つか持ってきて、車を置くハズのガレージに組み立て始めた。初めてアヤカが働くところを見た。

 誰も客は来なかったので、ガラス戸から顔を出して、煙草を吹かしながら眺めていると、外にいたアヤカが軽く手を振っていた。


「ここにカッターない?」

「ちょっと待ってください」


 カウンターには週刊誌や新聞を返品するためのビニール紐とカッターが常備されている。レジ下のテーブルにある引出ひきだしからハサミとカッターのふたつ取り出す。正面ガラス扉から出て、右隣に隣接されたガレージへと向かった。そこにいつも停車しているボックスカーはなく、代わりに包装紙とテーブルが運び出されていた。


「ありがとう、ふみ」

 アヤカにカッターとハサミを渡すと一度はふたつを凝視した。が、ハサミだけテーブルの上へ置き、その手に握ったカッターで商品が包まれた包装紙を思いっきり切り込み始めたのだった。


 うん、見なかったことにしよう。

 だが従業員として、ましては何か商いを営む人間として、商品をこのように粗末そまつに扱う奴はどうなんだろうか?


 そのあと、それ以上はこの古書堂の沽券こけんに関わると思い、仕方がなく学校側から郵送されてきた封の手紙を読み、通常教科と選択教科の仕分けぐらいしようと考えた。


 手紙によると、受け渡し日は明日の午後からだ。

 まず、前日に教科書が届くってどうなんだ?週刊誌の販売じゃないんだぞ? と俺は手紙を読み終えた後にそれを伝えるためにガレージへ向かった。教科書は適当に天高く積み上げられて、アヤカの姿はもうここにはなかった。逃げたのだ。


 ――バーゲン市じゃねぇんだよ!

 アヤカにそう言えるはずがない俺を誰が責めようか……、結局は俺自身がやらざる負えないのかよ!


 手紙に書かれた順に右から教科書の束を並べかえるとこからスタートした。

 そして、テーブル一番左には選択教科の教科書を置く。積み上げられた教科書はとてもバランスが悪かったが、二時間もあればなんとか配列は可能だった。


 問題としては、全生徒の教科書すべて陳列することは不可能という点だ。テーブルの上に陳列できるのはせいぜい一学年が限度。だが、あることに気がついていれば自ずと初めに配列すべき教科書は理解できたハズである。


 学校から届いた手紙には各学年ごとに教科書を受け取る時間帯が記入されており、まず午後一番のために一年の教科書を整列しておけばどうにかなる。また、学年ごとに30分ほどのスパンがあるので、そのうちにまた準備すればいいのだ。


 前回、どうやってさばいたのか、普通だったら上司が指示を出すべきだと説教したくなった。配列後の怒りに任せて俺の脚は自然とスタッフルームへと向かっていた、だがあろうことかアヤカは炬燵の中で気持ちよさそうに眠っていた。


 その顔はどこか安らにも、固く瞑った目は何か不安な顔――その表情を眺めた瞬間、なぜか自身の持病と重ねてしまう。そんなアヤカを起こすワケにはいかず、勤務時間が過ぎた今、帰り支度を始めるために一度古書堂の入口へと戻ったのだ。


 店仕舞のために外のガラス扉のopenの標識をcloseに変えようとした。だが、店内を見当たすと、まだひとりだけ客――ではない人物が残されていることに気がつく。

 この人物の名前は古賀はじめ。この古書堂の裏の容姿である特殊探偵事務所とくしゅたんていじむしょの探偵、兼 都内有数の大学の大学院生でもある。確か、『空間転移くうかんてんい』と名乗っていたが、その能力は正直謎のままだ。

 彼は高所の本を取るために設置されている梯子はしごの一番上に腰を降ろし、まるでロダンの『考える人』にも似た姿で優雅に本の世界に耽っている。

 毎週決まった時間にこの古書堂に出現し、気がつくとその姿は消えている。たまに俺とアヤカが出掛けている時に店主の代わりに店番をすることがあるが、あくまで彼は古書堂のバイトではないようだ。


 仕方がなく、俺は古賀が気づくまで凝視ぎょうしを続けていたが、そのときはすぐに訪れた。

「……おっと、スミマセン。りんくん、もう仕事には慣れましたか?」

 そんな世間話がしたくて来たワケじゃないが――

「まあ、一応には。この街のことが分かってきた気がします」

「そうですか? それはなにより。では、アヤカと店主からはもうこの特殊探偵事務所の目的は聞いたのですね?」


 ――目的?

 それについては、営利目的以外に俺が思い当たる点はひとつもないのだが……。

「おっと、スミマセン。まだ早すぎたようで……。そういえば林くん、何か言いたそうな仕草でしたがどうかいたしましたか?」

「もう店、閉めます」察しがよいと、なんとも助かる。

「もう、こんな時間ですか」彼は一度耽る態度を見せたが、もう一度こちらへ顔を向けた。「わかりました。古書堂は私があとをやっておきます」

「あ……助かるよ」

 そう言って、古河は手に持った新書を元の棚に戻し始めた。

 ちょっとだけ先輩に迷惑を掛けることはどうも不甲斐なく感じたが、それよりも優先してすべきことがあったのは確かだが――


「林くん?」

 古書堂から出ようとした時、古賀は俺を呼び止めた。


「これは私の独断です。天使という存在をご存知ですか?」

 それが古賀の質問だった。

 天使とは――聖書やギリシャ神話に出てくるあのキューピットのことだろうか? 今現在を生きる人間はありとあらゆる分野でこの存在を知り得ている。


「いえ、私の戯言たわごとです。ただ、心の片隅にでも置いといてください」

 そう、古河は何かオカしいことがあったのか笑みを零した。


 その理由は分からない。だが、いくら考えても俺の頭の中にはマヨネーズのマスコットキャラクターぐらいしか浮かんでこないのであった。

 


 

 いつもの場所――稲村ガ崎に存在する小さな公園へと俺は海を眺めになるべく通っている。

 ここは観光地鎌倉の一部であるが、訪れる者はよっぽどのモノ好きしかいない。結局ここまで歩いて訪れる人々でさえこの公園をスルーする。その理由として、あまりに目立たないために通り過ぎてしまうからと、地元民はそこから見える江ノ島の風景が七里ガ浜から望む眺めと全く変わらないと知っているからだ。


 だが、俺はここから見る景色は好きだった。なぜか、この場所だけは昔から何度も訪れる大切な場所なのだ。だから、そこにいたひとりの少女にナンパなんてバカげたことができたのかも知れない。


「林ふみ? こんにちは」雨香李あかりは俺の事をフルネームで呼ぶ。

 俺が階段を上り終わるや否や、彼女は嗅覚が鋭い犬のようにクルッと体を回転し、俺へと天使の微笑みを魅せた。恐いアヤカとは違う……なんだかそれが嬉しい。

「あぁ」っと我ながら間抜けな返事をしたのは、なぜか彼女といると胸が初々しいようなソワソワする気持ちが抜けないことが多々あったからだ。


 雨香李は変わりゆく波に心をせていた。

 だが、いつもの彼女とは違う点に気づく。いや、気づいてしまった。今日は紺色の学生服ではなく、それは西洋被りした修道服そのものだった。


「今日は、あの制服じゃないんだな?」俺は雨香李に尋ねた。

 少しの間を置いてから、もう一度ゆっくりと彼女はこちらへと振り向いた。


 雨香李はちょっと説明に困ったように微笑み、指を下唇に当てた。

 前へと腕を組み直し、少し耽るように空を見上げる。頭の中でまとまった文書を綴り出しているのかもしれない。


「私の普通の高校生活は……実は昨日でおしまいでしたから」と語る雨香李の目は優しく、ニコリとしていた。


 しかし、逆に俺は返す言葉に迷ってしまった。

 なぜなら、彼女の言い方だと、雨香李は高校を中退したのではないか、と考えてしまったからだ。

 もしそうであれば、どう慰めの言葉を掛けるべきか平然を装うべきだろうか判断に悩んでしまった。


 その表情を見抜かれたのか、少女は付け加える。

「すみません。言葉の修正依頼です。辞めたワケじゃないのです。ただ、普段通りの学生じゃなくて、立場が少し――変わってしまったのです」

 そういう雨香李はちょっとだけ身体を前のめりにして力説する。

 ボディーランゲージとでも言うべきか、言葉と一緒に身体を動かして何か伝えようとしているのが分かる。

「私が以前、教会の孤児だという話はしましたよね? それで、私が通うミッションスクールや教会のシスターも毎回茅原教会の孤児から選ばれるのです。……今回私がシスター候補になってしまったのです」

 そう言い切ると、雨香李はため息をつく。

 何かそれはよいことのようにも聞こえたが、本人はそうは思っていないらしい。


 雨香李は昔、物心つく前からこの鎌倉の教会に預けられている。

 その話を詳しくは聞いたことはない。彼女のプライバシーに自ら介入することは避けていた。だから、このように彼女自身の事を話すのは珍しい。

「なんか、あまり嬉しくなさそうだな?」

 同情でもないが、気持ちを察してしまったからにはそう尋ねる他なかった。

「はい、だって私が選ばれた理由がわからないの。私の本当の宗教が分からないのに。神父様やシスターには感謝はしています。ですが、私なんかじゃ――あ……」

 

 そこで、なぜか雨香李は顔をポカンとさせる。

「そ、それで友人の林ふみには、私からひとつ相談があるのですか……」

 これは確実に初めての経験だ。

「相談って?」

 あくまで平然をよそおって返事をした。だが、言葉の後半は少ししゃくれてしまった気がする。


 雨香李は半笑い気味に「エヘヘ」となにかを誤魔化そうとしているが、曲げた口に向けた目が全然笑えていないことにも気づいていないだろう。

 その理由はすぐ分かった。


「よければ、茅原教会のミサに参加して……せんか?」

 彼女はボソッと小さく、死にそうな虫のように呟いた。

 上手く聞きとれなかったが、口の動きで判断できた。


 ミサとは十字架教の儀式だとなんとなくは知っていた。儀式と堅そうなワードだが、宗派により千差万別で重要性は異なる。


 雨香李が住んでいる教会の掲示板には子供が書いたであろうカワイイ丸文字のチラシが貼られている。そこには『お祈りの日』と大きく書かれて文字のその下に目を閉じて微笑みながら何かを祈る白衣の天使が描かれていたとを覚えている。

 それを見る限り誰でもウェルカムな儀式であるのは想像ができるが……俺は買い物ついでに雨香李が住んでいる孤児院の隣の茅原教会のこのチラシをよく見かける。


 そういえば古賀が先ほど、この絵柄のような天使について尋ねてきたばかりかった。しかしな、俺らみたいなオカルティックなウラの職業の人間が脚を踏み込むのはあまりに失礼だし、そもそも俺はミサに興味ないし。

 それに教会側だってこんな風に疑われたら心底気持ち悪いはず……と、そんなことを考えていると、雨香李に顔を覗き込まれた――彼女の匂いが分かる距離。さらに上目遣いは反則だろ。なにかをねだるようにこっちを見られるが、ここはなんと返すべきだろうか? 何か、ボケてうまく誤魔化せる方法を思索したが、どうしてもうまい返事が見つからず終いには――

「勧誘か?」と、聞いていた。


「ギク……」

「……」


 一応、ボケのつもりだったのだが、この反応はなんだ?

 こういう反応は……本当だとしても見せちゃいけないよ、とアドバイスしたい。


 動揺で雨香李の目が尋常じゃなく泳いでいる。

「そうじゃないのです。アハハ……。私の所属する茅原派のミサはお祈りをしたい方なら誰でも参加可能な宗派なのです。ただ、毎週、知り合いと会えるのと、会えないのとじゃ、気持ちが違う気がするのです」

 雨香李は目を合わせずに引きずった早口で述べた。


 世の中には、嘘がつけない人間が存在するワケであって、雨香李はその代表と言えるのかもしれない。そこまで焦るの彼女を見たことがなかった。


 なんとなくだが彼女がなにを恐れているのか分かる気がした。

 宗教というはたから見たら怪しいと思われる団体に招くこと。それに自身の信念について拒まれる可能性というのは本来とても恐ろしいことだ。


 だから、どうすれば彼女を悩ませずに済むか考えると、答えはひとつしか思いつかなかった。


「本当に観に行くだけ、でいいんだな?」そう言わざる負えなかった。

 雨香李は慌てふためいて、「構いません、勿論です」と両手を最上級に早いワイパーのように振る。


 俺は忘れないうちにとバックから手帳を取り出して明日の予定を書き込む準備をする。

「時間は何時か?」

「九時に茅原教会に集合です。場所は分かりますか?」

「分かるよ。

 一応終わる時間ってどれくらい?明日、午後に仕事があるからさ」

「十一時には終わります。ご予定…大丈夫ですか?」


 ん……一応、明日は正式なバイトの日じゃないし、時間帯も聞いちゃいない。まあ、一応暇つぶしがてら様子を確認するとしてもこの時間帯なら間に合うだろう。


 「じゃあ数分前に茅原教会に行くよ」とメモを見ながら伝えると、「それなら、一度教会の前に落ち合いましょう」と彼女は提案した。

 俺は相槌を入れる。


 雨香李は少し早口で疲れたのか安心したのか、しばらく目を瞑っていた。暴走した意識を落ち着かせるためか、肩で大きく息をした。


 なんか、ちょっと虐めてしまった気分だが、そこをツッコむとまた彼女は気を使うことになりそう。ただ、雨香李という少女は女性としては珍しく一遍に幾つかのことができない性格だと思っていた。

 偏見かもしれないが、女性は話しながら仕事ができる人間が多い気がする。しかし、彼女はそれが苦手だ。


「じゃあ、そろそろ歩きませんか? 今日は一日中ココにいたので、飽きてしまいました。不思議なもので誰かを待っている時が一番時間が長く感じてしまうんもんなのですよね? いつもは、今日は林ふみに逢えるのかな、ぐらいの感情ですのに。今日はちょっと話をしたい気分だったの」

「あらそう」と、ふたりは自転車が置いてある134号線まで向かった。


 道路が近くなると、波の音よりも車の騒音が目立つ。

 そして、ふたりは狭い歩道を自転車を平行に押しながら、家の方角を目指す。

 彼女は自転車を漕ぎながらの会話ができない。だから、押しながらふたりで会話をして帰路を辿る。


 なぜか慣れてしまった帰り道。

 ただ会話はボツボツで何が楽しいのか分からない。無駄に時間が過ぎていく。気づけば彼女が何を考えて、どうしてここに居てくれるのか、そんなことが頭に浮かぶ。


 俺はこの会合を『黙って海を見る会』と固有名詞を断定していた。

 だけど、雨香李にとって、この活動は『散歩部』の活動の一貫だとか。


「そうです! 我が校建立当初からの伝統の部活動なのです。知りませんか?」

 もちろん雨香李が通っていた高校とは違うため知っているはずがない。

「他に部員はいないのかよ?」

「……いますよ」

「へぇ、誰?」

「アナタです!」

 あ、怒った。

「初耳だな」


 結局、その実態がなんなのかも知れずにふたりの活動は続く。

「ちなみに俺は高校時代の部活は写真部だ……」と、そのあとも話は続いた。


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