1-3/3
実際の仕事内容は『
おそらく山田店主は俺を彼らが言う通称:『
俺は毎日、暇を潰すように山田古書堂へと向かっていた。
古書堂の仕事に就いてから文句を言いたいことが多々あった。山田古書堂は商売という言葉はまったく分かっていない。
ほとんどの本棚には薄く透明な
――ギィイィィィ
そして、この黒板を引っ掻いたような不協和音……まさに閑古鳥さえ来ない原因がコレだ。
アヤカは一日の大半を共有スペースのはずのスタッフルームを独占し、ドコから持ち出したか分からない切断機や四角い3Dプリンターで図画工作に励んでいた。
この最先端の技術でマジのドンパチを制作しているのではないだろうな……だが、こんなことを続けているから客足が一向に増えないというのは想像するに容易いことであった。
そんな俺はというと知らぬが仏を突き通し、レジ前の椅子で煙草でも吸うか、読書に励む気楽な毎日を送っていた。人のことは言えないのだ。
特殊探偵? とも云える業務も少なからず存在した。
「ふみ、一緒についてきなさい。はいコレ」
アヤカが声を掛けたのは、俺のバイト生活から一週間が過ぎようとする朝のことだった。
そして、一枚のB5用紙には『佐助にある魔女の家がなにやら夜に怪しいことをしています』から始まる現代では不可思議なメールの内容が綴られていた。
アヤカは図画工作に飽きると、次はパソコンで何かをしているのは知っていた。
そして、前の日にアヤカは少しだけ
おそらくだが、このような奇々怪々なメールが届いたから舞い上がっていたのだろう。
そして、このような調査や依頼のため、急勾配が多い鎌倉市街を探索するというロードワークが幾度となく繰り返されたのだ。
だが、それと同時に寺社や宗教に関わる依頼を多く受けて分かってきたこともある。我らが住む古都
俺が知っている鎌倉仏教は
一般的な日本人の誰もが当てはまることだが、クリスマス(十字架教)やハロウィン(ケルト神話の悪魔が由来)、結婚式になれば神に祈り(神道か十字架教)、誰かが亡くなればお坊さんに念仏を頼む(ほぼ仏教)など多岐にわたる。
しかし問題はここからだ。
本来するべき神主やお坊さんは、祝祭やお祭りといった銭儲けばかりに目を引かれており、呪術、霊視や除霊などといった『真の教え』などは当の昔に忘れてしまったらしい。人によってはまだ視る力が残っているが、それはほんの一握りに過ぎない……と山田店主は語っていた。
なんとも恥ずかしい話に聞こえるが、科学や技術が発達した時代に神様仏様を真面目に信じている者は少ない。そうは言っても、そういうオバケや都市伝説のような事件が一向に消えないのは未だに一般人でも霊的なモノを視えてしまう人が多いからだ。
それでというワケではないが、一般的なヒトの見方では『
こちらの仕事は我ら特殊探偵を信頼してくれている寺社の二次受けとしての依頼がほとんどであるが、依頼名目が探偵業務のため
そのため、独占的ではあるが、この宗教街
だが実際に対峙した事件の全て こんな霊界探偵的な事件はなく、どれも人間が招いたただの
魔女が魔法で火を出しているというのは深夜にばあさんが
『
「力がない者、信念がない呪いは、誰にも伝わらないわ」
と飽きた玩具を眺めるような目つきで語っていた。
ちなみに引っこ抜いたのはあとに、アヤカという現代の悪魔は「
そのたびに彼女の白く細い指先にはお供えではなく金一封が挟まっていたのは……よろしいのだろうか?
この日の依頼が終わり神主が見えなくなったところで、アヤカは笑い袋が壊れたような卑猥な発声をしていた。
「阿弥陀も銭で光るってまさにこのことよね!」
狂ってやがる……と信じて止まない四月初頭、この帰り道、ある神社の坂を降っている時だった。
彼女はニタニタした笑いを抑えられないまま、金一封の中身が正しいのか確認をしている真っ最中であった。
だからというワケじゃないが、霊界探偵ではなく、ただの詐欺師のように働く彼女の背中に何か正義感のような
「アヤカさんって本当に探偵らしいですけど、銃だって妖怪の他力だし、魔法ってことは全くもってやりませんね」と、
その時だった。
いままでの金銭に溺れた汚い大人の顔がすんっと消え失せていた。
「……コレで、いいのよ」振り向きもせず、そう小さく呟いた後だった。「魔法なんて使えなくても、私には解決できるの」
その真意を知るのは来月のことになるが、俺はそれまでこの言葉がどれだけ彼女を傷つけたのかを知る由もなかった。
アヤカのコートは風に揺れていた。春先に残されていた落ち葉もまた、その中で微かに揺れる。
彼女はその一部のように、この下り坂を無言で降り始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます