17回目:年の瀬:2038/1/19

2037年の年の瀬は帰宅することを諦めて。愛用の料理ロボットをついに職場へ持ち込んだ。

 32bit、元試作機の愛娘。ウィルスすらも感染しない骨董品。

 わかっていても。

 手放せなくて。


 *


「なんとかして」

「死なせないで」

 聞こえる要望は切実で。

 エンジニアだから。専門家だから。

 できる限りの延命策を。


 *


 できないことも、また、あって。


 *


 除夜の鐘が響き渡る。

 君が淹れたコーヒーを啜る。ハード欠陥に由来する少しずれた数値の味は、どう残しても変わってしまうと知っているから。

「今まで、ありがとう」

 ERRのランプが点いては消える。

「ドウいたシましテ」

 割れた音声が作業室へ響き渡る。


 あと19日。

 ――君の時間が、過去となっても。


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以下、蛇足。


<2038年問題>


コンピュータは、1970年1月1日を0として1秒ごとにカウントを行う作りとなっているが、

32bit機の場合、2038年1月19日にそのカウントがマイナスを示す値になり、1901年12月13日となってしまう。

これによりマシンが停止、もしくは、誤作動することが想定される。


※1999年末も2000年問題(99⇒00)で大騒ぎだったことを覚えている方もいるかと思う。


現在、windows等のパーソナルコンピュータは64bit対応しており、

大型システムも順次64bitへ更新されている。

2038年に32bit機が残っていることは希と思われるが、

古い大型システム、衛星などの交換がきかないものなどで懸念が残る。

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