16回目:写真:想いは影の彼方に

「影なんだ」

 机に置かれたガラス板を、じっと見つめてヤツは言う。

「ブラックホールに落ちる物質は事象の地平面に情報を残す」

 どこか縒れた一張羅。整髪料に汗の臭い。

「三次元は二次元に投影されうるとされ」

 ガラス板を持ち上げる。繊細な縞がヤツの顔に彩を作る。

「つまり宇宙は二次元であり、全ては影であるとされた」

 見つめているのは、板の、先?

「この板が宇宙と言ったら、信じるか?」

 窪んで澱んで据わった目で。

 独り嗤う。

「これを割ったら」

「ちょ、待てっ」

 制止も届かず重力のまま、全てを乗せた干渉縞を積分の光にきらめかせ。


 鼓膜を振るわす高い、


 *


「次があるさ」

 泣きながらガラスと恋を片づけるヤツへ、無糖ブラックを差し入れた。

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