10回目:匂い:紅香晶

  ──目立たないといけないから。


 一番強く魅力的な香りを手に入れた。

 紅い結晶を飲み続ければ、内から香りが生まれるという。


 ──この世界で生きていく為に。


「いらっしゃいませ」

 ヘルプに入れば、姐さんの常客は弾かれたように私を見た。

 指名も増えた。常連も付いた。


 ──容姿は主張。声は誘い。匂いは暴力……感情を強制する。


 暴力がなに。強制がなんだというの。

 空気のように無害な私なんて要らない。

 香りと共に、私はこの世界で生きていく。

 この世界で。


 *


 匂いは暴力。匂いは誘惑。匂いは嫌悪。

 流れた紅は結晶となって散らばって。僕はそれらを拾い集める。


 寂しがることはないよ。

 君を殺めた彼らはみんな、君の虜だったのだから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る