8回目:時:胡蝶の夢

 彼女はやんわりと輝く球の中にいた。

 眠っていると伝えられる。眠りと共に世界は始まり、目覚めと共に世界は終わると。

「世界は女神の夢なのです」

 神官の告げる、その、違和感。

「夢なら何故ここにいるの」

 球に触れる。感じるのは微かな抵抗と確かな拒絶。押し続ければ壊れるという直感。

 神官の口元が笑みを作る。

「あなたの方がご存じでしょう」


 だから僕は球に触れる。球を否定し、世界を拒否する。

 迷いながら時を止めた彼女を、叩き起こすことを選択する。

 僕では駄目と分かった、から。


「逃げるな!」


 *


 目覚めると一番愛しい顔があった。

 私を拒否した彼女の、涙を浮かべた目の中に凡庸な見慣れた顔が見える。

 私でも良いの?

 ……女の私でも。

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