7回目:雪:雪衣の呪

 女は粉を零しつつ音を立てて倒れ込んだ。手刀を下ろした雪衣の少年は、巫女を認めて膝を折る。

「間者です」

 巫女は僅かに頷くと、鈴紐を静かに引いた。


 少年は衛士をじっと見送る。畏れに竦められた背は、ついぞ少年に気付かなかった。

 僅かな衣擦れに振り返る。ふわりと色袖が舞い降りた。

「ありがとう」

 細い腕が少年を抱き寄せる。

「私には、貴方だけ」

 雪深いこの地にあって、雪衣は呪をなした。

 呪とは人を人でなくすもの。見られず知られず、有るを無きへ変えるもの。

 主を除く全てに。護るために。

「僕は姫さまのものです」

 巫女の首筋に顔を埋め、少年はひたと笑う。

 彼が巫女のものであるように。

 ──巫女もまた、非人の少年だけのものなのだと。


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※補足。


雪衣(ゆきご)とは、歌舞伎用語、らしいです。

いわゆる『裏方』、黒子の語源、黒衣の背景白バージョン。

雪のシーンで使われるので、『雪衣』だそうです。


同じく、背景海バージョンに『青衣』があります。

(全てWiki知識)


言葉の成り立ちからすると、古代ファンタジー風には有り得ないんですが、

ニュアンスがそんな感じなので。

ご容赦いただきたく。

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