chapter 02
結局、ソフィアの強引な誘いに負けた僕と、頑固な僕に負けたであろうソフィアとで、ひとつの契約が成立した。
僕はお腹が空かないから食堂に行きたくない。ソフィアはふたりで一緒に遊びたいから僕をどこかに連れて行きたい。
よって、ソフィアの思う食堂以外の良いところを、僕に紹介してもらおうというわけだ。
正直、僕は病院のことをよく知らないし、毎日すごく暇だから、案内してくれるのはとても助かる。
ソフィアがすこし強引なタイプ——言ってしまえば僕の苦手なタイプ——なのだけ気になるところだけど、きっと長い付き合いになるだろうから、それくらいは我慢する。
「まず、中庭を案内するわね。花がたくさん咲いてて、小さい噴水もあるのよ」
長いブロンドを眺めながら、無機質な廊下を歩く。
壁に飾ってある絵は、誰が描いたんだろう。
寂れた廊下の端、それも、誰も見ない壁なんかに飾られて、絵画が可哀想だ。
満月に照らされた海から夜空に向かって跳ねる、イルカの絵。
なんだか見覚えがあるような——。
「メール? 大丈夫?」
ソフィアに声をかけられ、顔を上げてハッとする。常盤色の瞳が、僕の顔を覗き込んでいた。
「ああ、うん。綺麗な絵だと思って」
ふうん、と不服そうな言葉を返し、ソフィアはまた歩みを進める。
どこかで見たことがある。そう、何かが強く告げている。
透明な、ガラスのようなイルカ。どう考えても実在するはずのない、絵の中だけのモノなのに。
モヤモヤする。
「ねえ、メール。シーガー病って、本当はなんだと思う?」
こちらに振り返るわけでもなく、歩きながら、ソフィアがそう呟く。まるで聞こえてはいけない内容のように、小さい声で。
突然の問いかけに、少し緊張する。
医者が病気だと言っているんだから病気だろう、と安直に考えてしまう。
けれど、そうか。死者も出ているんだから、もう病気じゃないとしたら、真剣に考えないといけないのか……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます