月光イルカ
雪餅シュクル
シーガー病
chapter 01
朝。いつもと同じ時間に起きて、いつもと同じ食事を口にする。いつもと同じ服で、いつもと同じ場所に、いつもと同じ電車で向かう。
毎日同じ、代わり映えしない日々。単純な事の繰り返しは退屈で、少し苦しくなる。
だから、確かに少しは考えたかもしれない。
何か大変な病気にでもなって、ぽっくり命を終わらせられないものか。なんて。
結論から言うと、僕はシーガー病と呼ばれる病気になったらしい。近日流行している伝染病。感染症、だったっけ。どちらでもいいけど。
原因不明、対処法不明、明確な療法はない。
体の一部に黒いシミが出来て、広がっていく。まだ全身にシミが広がった者はいないらしいが、一人死者も出ている。
「大丈夫よ、メール。きっと治しましょうね」
そう言ってくれた優しい看護師は、昨日、自殺した。彼女もシーガー病だったらしい。
これも不可解な点で、細かい数値は忘れてしまったが、この病気を患った者の数割は自殺しているという。
ぼんやり、大変な事態だということは理解している。家族にシーガー病患者がいない者はいないというほど流行している病気で、人が自殺するのだから。
病気の直接的な死者は一人でも、実際は、きっととんでもない数の死者が出ているのだろう。
+++
「おはよう、メール」
「……ソフィア、おはよう」
ソフィア・マズリエ。
隣の病室から、毎朝かならず会いに来てくれる。彼女もシーガー病患者だ。
僕は左手の小指だから目立たないけれど、彼女は右頬だからよく目立つ。それに、僕のと違って、彼女のは夜空のような模様がついているから、シミに見えない。
別の病気みたいだ。
「今日も朝ごはんは食べないの? くるみパン、おいしかったわ」
彼女は小さく微笑んで、食堂のほうを指差す。
スープも出たんだろうな。口に少しついているから。
「それは良かった。けど、僕はいらないよ」
「あら、どうして?」
「お腹空かないんだ」
ソフィアが不満そうに「もったいない」と呟く。仕方ないだろう、お腹が空かないんだから。
シーガー病の症状のひとつ……かもしれないと言われている、食欲不振。僕にもきっとその症状が出ているんだろう。たぶん。
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