もしかして翻弄されてる? 1

 年末年始の居酒屋といえばどこも書き入れ時で大忙しになるのだけれど、バイト先の土地には大きな寺があるがゆえに他と比べて私のところの居酒屋はかなり大にぎわいになる。

 中でも大晦日の夜は決まってすさまじいもので、除夜の鐘を鳴らす人や参拝をする人等が暖を取りにこぞって押し寄せるので、それはもう目まぐるしいとしか言いようがないくらいに客の入れ替わりが激しいのだ。

 なので大晦日は一人でも多くの人材を必要とし、よってバイトの皆はほぼほぼ強制的に仕事に駆り出されるのだ。



 シフトを管理している先輩が大晦日の予定を私に聞いてきたのだけれど、チキンで断れない上にバカ正直な私は嘘の予定も言えずにあっさりと出勤組に参入させられた★

 いやいやいや、こんな私でも居ないよりはましだと思うのw

 へっぽこでも何かの役には立つだろうし、 “猫の手も借りたい” の猫くらいにはなれるだろうしさwww

 そして出勤メンバーにはイケメン・タカヒロも入っていた。

 あのストイックぶりもいつにも増して激しくなるんだろうなぁwww(^ω^ ;)と思いつつも、一緒に年を越せるという事はすごく嬉しかった。

 一方のアサコはうまく休みを貰ったらしい。

 羨ましい反面、“私イジリ” から解放されると思うと心の底からホッとしたよねぇww



 そしていよいよ大晦日がやってきた。

 お店はやはり激混みの鬼混みで、正月を迎えていたことすら誰も気がつかないほど大盛況だった。

 タカヒロは勿論のこと、それ以外の仲間もずっとイライラ&てんやわんやしていたくらいだ。

 けれども閉店と同時に皆の表情もなごみ、タカヒロからもいつもの笑みがこぼれた。



 この笑顔は大仕事を成し遂げた私へのお年玉やねぇ(*^ ^*)

 私は達成感とタカヒロの笑顔を見られた満足感を抱えて早々はやばやと家に帰ろうとした。

 すると










 タカヒロ「 帰ってもやることないし、これから初詣にいくか?(^ ^) 」





 とイケメン・タカヒロが私を誘ってくれたのだった。

 しかし残念なことに二人だけでとはいかず、他の女の子も交えての三人でだった。

 けれどもたったの三人ですよ?

 一人を除いたら二人ですよ?ww

 ほぼ二人きりじゃないですか!? wwwww

 イヤッホーーーーーイ♪

 もちろん行かせて頂きますともぉぉぉ!(੭ु˃̶͈̀ω˂̶͈́ )੭ु⁾⁾ バンバンッ!

 もう一人の子が可哀想とか言わないでくだせえ。

 一番可哀想なのは一緒に行く女の子を差し置いてこんな事を考えちゃう私の方なんだから…

(´・ω・`)ショボーン



『そうと決まれば早速着替えてくるぜよぉぉwww 』と心の中で意気込み、私服に着替えた私は着てきたグレーのロングコートを羽織はおってイソイソと更衣室から出てきた。

 このグレーのロングコートは今季の流行りもあって私の大のお気に入りだ。

 そう、アサコからいじられる日々の中、私なりにファッションや化粧を研究し、バイト先でも…いや、タカヒロがいるバイト先だからこそ率先して取り入れるようにしていたのだ。

 タカヒロには少しでも綺麗に見られたいし、いつプライベートで接するのかも分からないから出勤の度に気合いを入れておめかしをしていたのだ(p`・ω・´q)グッ!

 え?勝負下着ですか?

 タカヒロと出勤が被るときは絶対着けてましたけど何か問題でも?www



 更衣室から出てきたもののタカヒロの姿が見当たらない。

『タカッチはまだ着替えてるのかな?』

 すぐに出てくるだろうと思い、外でもう一人の子と待つことにした。

 タカヒロは5分ほどしてから「お待たせぇ(^ ^) 」と言って外に出てきた。

 タカヒロがお店から出てきたのを背後で感じながら、「やっぱ寒いねぇぇぇ★」と女の子と話しをしながら歩き始めた。

 すると










 タカヒロ「あれー?

 ミノとお揃いのコート~(^O^)♪ 」





 とテンション高めに言い放ったタカヒロは自分の右腕の中へ私を放り込んだ。

 後ろからいきなり首に重みが掛かり、ガクッと前重心になった私は身動きが取れずに立ち止まった。










 ……一体何が起きたんだ?





 突発すぎて現状が全く理解できなかった。

 すると、自分の髪じゃない長さの髪が私の左頬にふわりと触わり、耳の近くで声が聞こえた。










 タカヒロ「 ニヒヒヒッ!

 ミノが固まってるぅwww 」





 と言ったかと思うとタカヒロはパッと私を放して











 タカヒロ「それじゃー行こうか(^O^) 」





 と何事もなかったようにタカヒロはもう一人の子と歩き出した。

 私はハッと我に返り、置いていかれないようにその後ろを駆け足で付いていった。










 今のは何だったの?……

 ……ていうか、み、耳元でタカヒロにささやかれた!!? ドキドキドキドキ…

 ん?あれ?

 タカヒロがあんなに馴れ馴れしくしてきたのって初めてじゃん?





 どうやらタカヒロも同色のグレーのロングコートを着ていたらしく、タカヒロの後ろ姿を見てようやく現状を把握した。










 あぁ、おおそろいだったからあんな行動を取ったのか〜。



 ……。



 ………………。



 いやいやいや!待て待て待てぇぇえい‼︎

 だからってあんな事をする理由にはならんぞ!!?

 ななな、なんでだーー‼︎

 タカヒロはもうお酒が入ってるのか⁉︎



 タカヒロの初めてのボディータッチに旨く頭が回らない。

 私の顔の真横にタカヒロの顔があったことを思い出して左手の指先で頬を触った。

『か、髪の毛が乱れてる⁉︎ 』

 急いで手櫛てぐしで髪を整えつつも、意外と激しく捕獲された事を実感した。





 一連の流れに整理がつかず上の空で歩いていると、寺の門をくぐり、いつのまにか賽銭さいせん箱の前まで来ていた。

 朝の6時という事もあって人もまばらですんなりと目的地まで来れたみたいだ。

 二人とも賽銭箱にお金を入れて既におまいりを始めている。

 私も急いでお詣りをした。





 チャリーーーン♪

『お願い事、お願い事…。

 今年こそはいい恋愛が出来ますように。

 勿論相手がタカヒロだったら凄く嬉しいですwww

 どーか神様!何とぞヨロシクお願いします!! 』

 と15円しか入れていないのに眉間にシワを寄せながら力強くお祈りをして顔を上げた。

 すると










 タカヒロ「そんな真剣に何をお願いしたのぉ?(^ ^) 」





 と私のお詣り姿を見ていたタカヒロが私の顔を覗き込んで言った。










 実乃果「 い、言えないよぉ////

 お願い事を口に出したら叶わなくなるからねぇwww 」





 あわわわ!近すぎて目が合わせられないよぉぉ★










 タカヒロ「そうか。

 じゃぁ俺も言ーわなーい(^ ^) 」





 と言ったタカヒロは、帰りの電車を目指して歩き出した。





 すッッッごい顔が近かったんですけど!

 いきなり覗き込んだら焦るじゃんよぉぉ!!

 タカヒロの願い事は聞きたかったけれどこっちの願い事は言えないしねぇwww( ̄∀ ̄;)

 しかし今年は新年早々から良いことあるな~。

 イケメン・タカヒロとこんなに急接近できたのもお気に入りのコートを着てきたからだもんな〜。

 ホント着てきた甲斐かいがあったわ♪

 つーかつーか!今更だけどペアールックじゃんねぇ!!

(´つヮ⊂)うきゃぁぁあああ‼︎

 とルンルン気分で寺を後にした。





 最寄りの駅にも近づき、皆とバイバイする時が迫っていた。

 するともう一人の子が「お腹が空いたから今から食べに行かない?(^O^) 」とタカヒロと何だか楽しげに話しをしていた。







 チクッ…



 ん?何だ、今のチクッ…って。





 私の心に何かが刺さった。

“私も一緒に食べにいく” という流れにはなっていないけれど『二人に付いて行ってはダメだ!』と瞬時に何かを悟った。










 実乃果「私は…予定があるから先に帰るねwww

 じゃーまたね~。」





 かなり不自然に聞こえたかもしれないけれど、私なりに平然を装ってその場を立ち去った。

 私はもう一人の子に嫉妬をしたのだった。



 二人に付いていって私が何を喋れるというの?

 あの子とタカヒロが話をしてるのをはたから見てるだけなんじゃない?

 タカヒロと二人で楽しそうにしてる姿を面と向かって見たくないよ…。

 アサコだけじゃなく、ただのバイト仲間にまで嫉妬をするだなんてホント最低。

 私どーかしてるよ…。



 浮かれモードから一転して、私はドヨーンとした重たい空気で家に帰った。





 しかし何を思ったのか、この日を堺にイケメン・タカヒロがちょくちょく私に絡み出したのだった。

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