第2話 猫が起きると王様と話すことになる

「猫?どうして猫がこんなところに?」

自分の枕元にいる真っ白の猫を見てそう言った。猫はまるで自分の事について話されているなんて気づいてもいない様子で(実際にそうだが)眠っている。

 猫の背中をそっと撫でていると、その横でエミリとアルテは不思議な光景を目にしているかのように何度もまばたきしている。僕に撫でられながら気持ち良さそうに寝ている猫を見ながら、エミリは体を震わせている。

「かわいい······」その声に真っ先に反応したのは無類の猫好きである僕──ではなくアルテだ。

「かわいい!?何を血迷ったことを言っているのですか!?このような毛玉、私はここへ置いている事すら良く思っていないのに······!」


それに反応したのは、今度こそ紛れもない僕だった。

「今、なんて?」1オクターブ下がった僕の声に少し驚いた様子のアルテが視線をこちらに向ける。

「えっ?」

「この猫を毛玉って罵ったこと、謝れよ」

僕は語気を強めたがアルテにそれを気にしている様子はない。先ほどと同様、不思議な表情をしている。「いや、そもそも、『ねこ』ってなんだ?」

数秒の沈黙が訪れる。意味が伝達してこない。ねこってなんだ?猫を知らない?

沈黙を破ったのは僕ではない。かといってエミリでもアルテでもない。

「ニャーオ」鳴いたのは猫だったエミリはパッと表情が明るくなったが反対にアルテは「ヒッ」と小さく声を上げている。猫は起き上がり、ゆっくり歩き始め、僕の太ももを踏んでエミリに飛びかかった。

「わあ!おはよう、モッフン!寝起きなのに元気だね」エミリに抱かれながら、猫──現在モッフンは鳴き声ではなく、あくびで返事をする。そのあとすぐにエミリから降りてトタトタとどこかへ歩いていった。

「モッフン?」「あの子の名前です」

一番最初に浮かんだ疑問を解決して一息つくと、アルテが言った。

「お嬢様、この者の事を王へ話されてはいかがですか?」

アルテの言っている王とはエミリの父親にあたる人物だろう。エミリにしてみれば、父親が一国の王だなんて相当なプレッシャーがかかっているはずだ。その人に相談をするなんて王の娘からすると、持っての他じゃないか?

「そうね!さすがアルテ!そうしましょ♪」······そうでもないみたいだ。仲良しで結構。(何様のつもりだ?僕は)


「弥彦様。早速、国王の元へお連れします。心配なさらずともあの方は寛大で素晴らしい、尊敬できるお方だ」

歩きながら背中で話すアルテに僕は返事をしない。さすがに毛玉は許せない。謝るまで許すつもりはない。

 窓から見える景色に心を奪われそうになりながら歩いていると、アルテの足が止まり、ぶつかりそうになるのをギリギリで避けた。

「ここだ」短い紹介で済まされたそこは、豪華で大きな扉の前だった。

洋風な造りはやっぱりここは日本ではないんだなと、再度気付かされ、元の世界が恋しくなると同時に新しい世界への期待が高まる。これも自分が恵まれた環境に生まれただろうが、そもそも急に異世界へ飛ばされたこと自体、恵まれてるとは言えないが。

「リアサルト様、アルテです!例の者を連れて参りました」

「入れ」

中から聞こえる太い声に少し恐怖を感じた。だってめっちゃいかついし。

まあそれでも、異世界に飛ばされたからには、こちらで頑張るしかないか。王様との対談、エミリの父親だしなんとかなるだろ。

なんて思いながら、一歩踏み出し、扉を開けた。

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異世界猫カフェ始めました。 蘇来 斗武 @TOM0225

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