Effectivee Ideca
だから、わたしの耳には今日もそれがベリィオールディな日本語として、聞こえる。……みんなの、聞いてるはずの、サウンディーワーズではなく。
教室に着くと、両手を上げて、突き抜けるほど能天気な笑顔でまずわたしに話しかけてくるクラスメイト。
「ヒロム、おっはよー!」
「おはよう、ミミナ」
彼女の名前は、ミミナ。世界人類が最高に究極にしあわせになれる直前の、もっとも成熟したこの世界で、人間としてツールでもアニマルでもなく個体性をたもつ、少数派の、そしてたぶん選ばれたってされている女子高生どうしの、ひとり。
ミミナは、オレンジ色の髪の毛のおんなのこ。わたしがちょっとそっちに意識をフォーカスすれば、パーソナルデバイスが起動して、ミミナの髪の毛の遺伝子情報がオープンできる限り範囲でヴィジュアリィに伝わってくる。ミミナは、すこし、
そのオレンジ色をぱつんとすごい短髪にして、ミミナは、今日も活発だ。
ミミナ、いま、なに考えてるの? ――わたしがそう思った瞬間、またしても親切にもお節介なパーソナルデバイスは起動して、ミミナの脳内のうごきを調べた、……ああ、だいじょうぶ、ミミナ、あなたは今日もわたしのともだち。
いまどき、わからないことなどあるのだろうか。
それは燦然と輝かしい、人類のこのステージの終末期における、みんなの実感らしかった。
いまどき、わからないことなどあるのだろうか。
いいえ、ない、ないのです。
そう、ない。
はるかむかし。われわれの遠い遠い原始的な祖先である人間たちは、
わからないことが多すぎて、哲学を。宗教を。社会を。科学を。情報科学を。つくりました。
しかし、それははるかはるか太古のことです。
つまりして
相手のことも。世界のことも。
わからなかったから、人類祖先は不幸でした。
かわいそうに。……かわいそうに。
いまの、われわれは。
哲学、宗教、社会、科学、情報科学……そんな涙ぐましいオールディな夕焼けみたいな血のにじむいえ、じっさいに
――手に入れました。
この、幸福を。
わからないことなんて、なにもないって。
ひとのきもちも。こころも。かんがえも。せかいも。はても。はての、はても。その先のことも――
――そして一体化すればついにわからないことは完膚なきまでに皆無になる!
……わたしはいつのまにか始まっていた先生の授業を聞き流していた。
授業中は、マルチデバイスが停止される。だから、退屈だ。
窓のそとを見るくらいしかやることがない。
教室は透き通っている。物理的に、どこまでも、この宇宙のなかで透き通っている。
この窓のガラスも、床のつるつるも、……元は人間なんだから、生きているはずだし、いま、意識をもってしてここに在るはずなんだけど、どうにもわたしにはその実感がわかない。
わからないこと……わからないこと。あるよ、わたし、わからないこと、あります。
でも、そんなこと言ったらさ。
人間であること疑われて、あっというまに、この教室の窓やら壁やら床やらの、一部分にされてしまいそう。
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