Countrry Doown

 今日も、今日とて、退屈な授業が終わった。

 Soundy WorddssサウンディーワーズSoundy Worddssサウンディーワーズ、授業をつまんないって言うのは、女子高生の権利。女子高生は選ばれし者。こんな時代こんな世界で、……個体として、たもっている。



 勉強用デバイスを、シャットダウン。コミュニケーション用アプリを、起動。

 いまどきの女子高生ならば、だれもやっていることを、すると。

 キキルが、しゃべりかけてきた。


「今日もつまんなかったねえ」


 わたしは、イエス、と答えた。


 キキル、キキル。

 彼女の名前は、そう、キキル。彼女も――わたしと、ミミナと、みんなとおんなじ。

 世界人類が最高に究極にしあわせになれる直前の、もっとも成熟したこの世界で、人間としてツールでもアニマルでもなく個体性をたもつ、少数派の、そしてたぶん選ばれたってされている女子高生どうしの、ひとり。


 キキルの髪の毛は、ピュアアイスブルー。瞳は、美しい義眼だ。ホワイトパールのように動いて、ひとなつっこい。ひとよりも、ひとらしい。

 その義眼もきっとひとよりもひとらしいんだろうなあ。いいなあ。いいなあ。わたしのからだは、……ほとんどが、生まれたまんま、ナチュラリィで、とっかえっこして、もらってない。わたしも、わたしも、……もっとアンナチュラルになったって、いいのかな。いいのかな?



 アンナチュラル、アンナチュラル、……アンナチュラリィがナチュラリィ、それともナチュラリィなのが、アンナチュラリィ? 言葉遊び、言葉遊びこんなの、でも、それでも、わからなくなってくる、……いつでもわからなくってわたし、先生にクラスメイトにみんなみんなに、パードゥン・ミー。パードゥン・ミー。そんな女子高生なんだから。笑っちゃう。ばかみたいと思ったりもする――至極、ナチュラリィ。



 わたしのそんな脳内反応、思考は置いて。

 いつでもビジュアリィ――仮想現実みたいに見えてしまう、放課後の教室。

 わたしたちの、まったき自由。

 犯さないでよ。侵さないでよ。……おかさないでよ。それは、まるっきり、べリィオールディな、ただの、言葉遊び。


「ヒロム。今日、残ってく?」

「うーん、どうだろう。ミミナ次第」

「だねえ」


 キキルは、苦笑した。



 ミミナが、そのまんなかで、しゃべっている。

 人類最後の時代の選ばれし女子高生の群れのまんなかで、しゃべっている。

 ちょっと遠巻きにわたしとキキルは立っているのだ。


 身ぶり手振り、ボディランゲージを交えて。腕をあげればパルスが走ってその感情、手を広げればパルスが走ってその感情。


 ミミナの話題はみんなが好き。ミミナはみんなの興味関心をよく知っている。プログラミング、されるまでもない。ミミナは知ってる。ミミナはなんでも。ミミナ、ミミナ……ミミナの言うことにはみいんな、耳を傾ける。



「ねえ、みんな、もうサインした?」



 コミュニケーションアプリに、切り替えているから。

 伝わってくる、脳内振動。

 興奮、信頼、ぴっかり輝く希望……同調、圧力。



 サインって、なになに。ざわめく彼女たちは、……ほんとうに、ほんとうにまったきこの時代の女子高生、たち。



「あれっ。また、情報きてないの? そんなことないよね? ――情報リソースはCammanカマンだし」



 そう、……共有されている。



「パルスが間に合わなかったんじゃないの」

「シナプス系のエラーかもしれないし」

「そもそも、それだったら先生がエラーリィと言うよ」

「ってことは、バリュアブルじゃないの?」



 さわさわ、遊ぶみたいに、ささやく女子高生たち。

 わたしはキキルと顔を見合わせた。……そうだろうねって、わたしたちふたりとも、思ってる。



「だったら! 私がいま、カマンにしてあげるよ」



 ミミナは唐突に叫んだ。

 体温上昇、……興奮のぶんだけ。



「ついに、きたんだよ! 私たちのもとにも! ――地球、人類化計画の、お知らせが!」



 さわさわさわさわ。

 みんな、みんな、そわそわしている。

 じっとしていられない。脳内、体温、なにもかも……パルスもシナプスも、喜んでいるみたい!



「うっそー……」



 キキルも、びっくりしていた。でも赤い。Readrryレッドリィ、わかりやすいな、こんな言葉遊びも、……いまは、意味ない?




 こわいこわいな、いまさらながら。だってわたしの脳内、体温、なにもかも、パルスもシナプスも、きっとまるわかり。

 この日、きちゃったんだな。ああ。こんな思考まで、スキャンされてしまうかな、されればそのまま、されてしまうな、……せめて設定言語がべリィオールディでよかったって、思うところ?




 だって、わたし。

 サイン、したくない、それ。





 「地球、人類化計画」――すなわちそれは、

 人類全員の意識を統合したうえで、地球そのものと符合させること。

 人類が、地球にかえるのではない。

 地球も――人類に、しちゃうの。




 ……クレイジィだなと、思う。

 でも根拠はない。

 まったくロジカルではないのよ。




「……ヒロムとも、いっしょになれるね」




 キキルは、そのきれいな感情と人間み、あふれる、ふたつの義眼でわたしを見た――そっと、ぎゅっと手をにぎって。人間どうしの感触、感触、……キキル、キキル、そんなふうにわたしを見ないでわたしにふれないで。わたしがほんとうは冷めていること、……そうやってスキャンしないで。そして勝手にスキャンしておいて、……いいんだよ、それだって、私はヒロムが好きだからって、そんなこと思って、思って、……そっとぎゅっと手を握りかえさないでよ。ゆるしてあげるんだから、待つよって――そんなエモーション、いだかないでよ。

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