匿名希望の回想②

「ジェーンって最近また元気になったよね」

 それはジェーンがアデリーの動画を見始めてからしばらく経ったある日、練習が終わった後のことだった。

「え、えっと……?」

 フルルの唐突な言葉に困惑するジェーン。

「ここしばらくジェーンが元気なさそうで気になってたんだ。でもここしばらくは何だか明るくなったから何かいい事があったのかなって」

「……そういう風に見えますか?」

「うん」

 ジェーンの問いかけにフルルは首肯した。

「フルルさんって妙なところで鋭いというか、他人のことをよく見ていますよね」

「そう~?」

 フルルはいつも通りのほほんとした様子である。

(フルルさんはやっぱり底が見えないというか……それこそがフルルさんの魅力なのかもしれませんけど)

「実はですね……」

 ジェーンはフルルに対し、自分には他のメンバーのような見る者を惹きつける強い個性がないのではないかと悩んでいたこと、アデリーペンギンのフレンズが自分の踊りを踊っているのを見て気持ちが楽になったことを打ち明けた。

「アデリーさんののびのびとしたダンスを見ていると思い出すんですよ、プリンセスさんに誘われてアイドルを始めて、まだ右も左も分からなかったけれど、歌と踊りが楽しくて夢中になっていたあの頃の気持ちを……」

「それならさ」

 黙ってジェーンの話を聞いていたフルルが口を開いた。


「そのアデリーちゃんに直接会ってお礼を言ってあげたらいいんじゃないかな」


 フルルの提案はジェーンにとって大変魅力的なものだった。しかし。

「でも、それってダメじゃないかと思います」

「どうして?きっと向こうも喜んでくれるよ」

「PPPはパークのみんなのアイドルです。PPPの一人である私が特定のファンと1対1で会うのは問題なんじゃないでしょうか?」

「ジェーンの考えすぎじゃないかな~」

「……」

 確かにフルルの言う通りかもしれない。

 しかしジェーンは、自身の時に頑固さにも通じる生真面目さ故にフルルの言葉に同意できずにいた。

(アデリーさんに直接感謝の気持ちを伝えたい……この気持ちは間違いなんかじゃないはずです。でも、それがアイドルとしての正しさから外れてしまうとしたら……私は、どうすれば……?)

 その時ジェーンのジャパッドがピロリンと着信音を鳴らした。

 フルルに「すいません」と詫びを入れてジェーンがジャパッドを開くと―。

「ふ、フルルさん。見てください、これ―」

「え、なになに~?」

 そこにはアデリーからメッセージ。文面はこうだ。

「いつも応援ありがとうございます。一回投稿しておしまいにするつもりがパプアさんのコメントのおかげで投稿を続けることができました。いきなりで申し訳ないですが実は何度もコメントをいただいているうちにあなたがどんな方なのか気になって仕方なくなってきました。もし迷惑でなければ一度お会いできないでしょうか?」

「アデリーさんの方からお誘いのメッセージが来ました……」

「何だか面白いことになって来たね」

「他人事みたいに言わないでくださいよ」

(フルルさん、まさかですけど他のフレンズさんの困った顔を見るのが好きだったりしませんよね……?)

「せっかくのお誘いを断るのはかわいそうだよね~」

「う……」

 言葉に詰まるジェーン。

「私だったら迷わず会いに行くよ。フレンズなら感謝の気持ちはきっちり伝えないと」

「……そうですね、私たちはアイドルである以前にフレンズでした」

 それがわかれば結論は一つしかない。

「アデリーさんに会いに行きます」

 ジェーンの言葉にフルルは満足そうにうんうんと頷く。

「あっ、でもこのことは他の皆さんには内緒でお願いしますよ」

「え~どうして?」

「それはその……そうだ、桃色のジャパリまんあげますから!」

「うん、いいよ~」

 二つ返事でフルルを買収したジェーンであった。

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