オフ会前半
(まさかみずべのパプアさんの正体がジェーンさんだったなんて……)
アデリーは未だショックから立ち直り切れずにいた。
そんな彼女とは対照的にジェーンはうきうきとした様子である。
「アデリーさんは今まで遊園地に行ったことはありますか?」
「えっと、実は今回が初めてで……」
「そうなんですか!初めて行く場所って何だかすごくドキドキしますよね!」
「そ、そうですね」
私のドキドキの一番の原因はあなたなんですけどね!……と言ってやりたいところだが、そういうわけにもいかないのでアデリーはコクコクと頷くだけにとどめた。
「私もだいぶご無沙汰なんですが、行ってない間に整備がさらに進んで乗れる乗り物がかなり増えたらしくて今から楽しみです!」
「なんかめっちゃテンション高いですね……ジェーンさん」
(もっとこう、おしとやかなイメージだったんですが意外とそうでもなかったり……?)
アイドルの普段見せない一面を垣間見た気がしてドキドキするアデリー。
俗にこれを「ギャップ萌え」と呼ぶ。
「それじゃあまずはアレに乗りましょう」
ジェーンが目の前のアトラクションを指し示した。
見ると中は吹きさらしになっていて、着飾った馬の模型が円を描いて並んでいる。
「これは……?」
「メリーゴーランドですよ、馬が上下に動きながら周回するんです。口で言うより実際に乗ってみた方がよくわかると思いますよ」
ジェーンはアデリーに向かって手を差し出した。
「えっと……?」
意図するところが分からず困惑するアデリー。
「今日までずっと正体を内緒にしていたので。お詫びってわけじゃないですけど、今日一日アデリーさんのことをエスコートしようって思いまして」
「え、えっと……じゃあ、よろしくお願いします」
アデリーは顔を赤く染めながらおずおずと差し伸べられた手を握るのだった。
さてキングとヒゲッペはというと。
「ヒュー、お熱いねえ二人とも」
「おい、警部感微塵もなくなってただのうっとうしい奴と化してるぞクソ警部」
メリーゴーランドの方へ向かっていく二人を物陰から観察していた。
「しっかし、せっかく遊園地来たのに何にも乗らないってのは面白くねえなあ」
「なんだ、ヒゲッペ。お前もあれに乗りたいのか?」
「別にちょっと言ってみただけだ。大体今日ここに来た目的からして乗るわけにはいかないだろ」
「あいつら完全に二人の世界に入ってるし大丈夫だって。反対側から乗り込めばバレないよ」
「まあ……そこまで言うなら乗ってもいいぜ」
「よし、決まりだな」
自分たちも遊園地を満喫することにしたキングとヒゲッペだったが。
「ところでだヒゲッペ」
「なんだよ?」
「せっかくだし私もエスコートしようか?」
「それだけは絶対にない」
「あ、そう……」
「なんでちょっと残念そうなんだよ」
「わっ、すごい……座っているだけなのに走ってるみたいです!」
「普段はなかなか味わうことのない感覚ですよね。私も久しぶりに乗ったから新鮮な気分です!」
やがてメリーゴーランドの回転が終わり、出口へ向かうようにとアナウンスが流れる。
「ジェーンさん、次は何に乗りましょうか?」
メリーゴーランドから降りたアデリーは柄にもなくうきうきしながらジェーンに尋ねる。
「アレなんか面白そうですよ」
ジェーンが指さした先にはまだ真新しいアトラクションがあった。
「アレは船……ですか?」
「何だか振り子のようにも見えますね。とにかく乗ってみましょう!」
聞くところによるとこの乗り物はバイキングという名前らしい。
アナウンスに従ってベルトを締め、安全バーを下げるとやがて船が前後に揺れ出した。
「やっぱり大きな振り子みたいですね!」
「あの、これどんどん動きが大きくなってるんですが大丈夫なんでしょうか……?」
アデリーの言葉の通り、初めは揺り籠が揺れるような振れ幅だった船が今はもう勢いが付いたブランコのように前後に振れていた。
(そういえばキングとヒゲッペと三人で見た映画のワンシーンにめちゃくちゃ長いブランコに乗るシーンがあったような……)
そう思っている間にもさらに振れ幅は広がっていき―。
「や、やばいですよ!私たち完全に逆さまになってますよ!?」
慌てふためきながらアデリーが横目でジェーンの様子を窺うと。
「わぁ……すごいですね!」
(めっっっっっちゃ目ェ輝いてるぅぅぅぅぅぅぅ!?!?!?)
「いやいや!なんでそんな平気そうなんですかあああああああああああああああああ!?!?!?!?」
ついに船の振れ幅が最高点を超え一回転した。
「「「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」」」
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああ」
乗客のフレンズたちの絶叫(大多数の悲鳴+一部の歓声)を乗せて船は回った。
回転を終えた後、船の動きは次第に小さく収束していき、やがてスタート地点で静止した。
立ち上がって伸びをするジェーン。
その際彼女の体の自分のそれより存在感のある一部分が揺れたような気がするが、アデリーは見なかったことにしておく。
「初めて乗りましたけど、刺激的ですごく良かったです!」
「そうですね(正気ですか)」
(そういえばジェーンさんはPPPの誰よりも泳ぐのが得意で速いんでした……あんなものに乗ってけろりとしていられるのもその辺が関係しているんでしょうか……?)
「私は正直怖かったですね」
「確かに、何が起こるのかわからないまま乗りましたもんね」
(ただまあ、ライブでは見られないジェーンさんの一面が見られたのはすごく得した気がします……)
比較的のんきなことを考えていたアデリー。
この後彼女にとって受難の時が訪れることなど今のアデリーは知る由もなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます