オフ会スタート!

 オフ会の集合場所は遊園地の広場の噴水の前となった。

 そして迎えた当日の朝。

「やっぱりやめとけばよかった……」

 アデリーはいつにも増して憂鬱な表情でいた。

「でもドタキャンするわけにはいかないし……そうだ、こんな時は」

 アデリーはジャパッドを立ち上げ操作した。

 そして流れ出したのはジェーンの動画だった。

「ジェーンさんが好きな理由?私に似て地味だからですかね」

 誰かにジェーンを推す理由を聞かれたら彼女はそう答えるだろう。

「本当はそうじゃないんですけどね」

 もしもアデリーにPPPのメンバーの良い所を挙げていくように言えば、彼女は全員分の長所をすらすらと挙げることだろう。それでも。

「やっぱりジェーンさんは特別ですね。あの人の歌とダンスは私に勇気をくれます」

 動画を再生し終えたジャパッドの画面を閉じ、いそいそと出かけようとするアデリー。

 そこにキングが通りがかった。

「あれ、アデリー何してるんだ?」

「何って遊園地に行くところですよ。みずべのパプアさんに会いに行くんです」

「そうだったのか、呼び止めて悪かったね。それじゃ気をつけて行ってらっしゃ―」

 ここでキングはふと重大な事実に気が付いた。


「おい待て、嘘だろ。あのアデリーが、だって!?」


「なんでそんな遠くまで行かなきゃいけないんですか」

「こんな暑い日に出かけようなんて正気の沙汰じゃないですよ」

 キングがどこかに行こうと誘う度に一旦は渋るのがアデリーのはずだ(無論最終的には無理矢理連れていくが)。

「あの出不精のアデリーが自分から出かける……それも、どこの誰とも知らないフレンズに会いに?」

「おいヒゲッペ!とんでもないことが起きたぞ!」

 こうしてはいられないとキングはヒゲッペを探すのだった。



「こっちを見るとリア充、あっちを見てもリア充。あー一面のクソリア充。いっそこの場で暴れてやりましょうかね」

 遊園地の入り口近くにある噴水の前のベンチに座って物騒なことを呟いているのは他ならぬアデリーである。

「パプアさん、来てくれますかね」

 リア充共と同じ空気を吸っていることはこの際問題ではない。そんなことは待ち合わせ場所を遊園地にした時点で分かり切っていた。

 一番の問題は本当にみずべのパプアさんが来てくれるかどうかである。

「まさか、全ては罠で今頃私が待ちぼうけを食らっている様がJapari tubeで配信されてたり……?」

 ペンギンJtuberオフ会に誰も来ず凹むというタイトルで自分の姿がさらされるのを想像し、背筋が凍りつきそうになるアデリーだったが。

「アデリーペンギンさんですか?」

 凛とした声が響いた。

「はい、そうですけど……」

 そこにはパーカーのフードを目深にかぶったフレンズが立っていた。

(は虫類のフレンズさんでしょうか?顔は隠れていて良く見えないけど、足がすらっとしててスタイル良さそうだな……)

「あの―」

 ―あなたがみずべのパプアさんですか、と尋ねようとしたその瞬間。

「キャッ!?風が」

 突然の強風に煽られ、彼女のフードが跳ねあがった。

「えっ……ウソ……!?」

 現れた素顔にアデリーは息を吞む。

 真っ直ぐに下ろした艶やかな黒髪、その黒髪とコントラストを成す白いヘッドフォン、ぱっちりとしたアーモンド色の瞳、そう彼女こそまさしく―

「じ、じぇ、じぇ、ジェーンさん!?!?」

「あはは、パプアで通すつもりだったのがあっさりばれちゃいましたね……」

 そう言って苦笑する彼女は紛れもなくPPPが一人、ジェンツーペンギンのジェーンであった。

「そうだ、一応お忍びという体で来ているので名前を呼ぶ時は静かに読んでもらえますか?」

 ジェーンはピンと人差し指を立てるとアデリーの唇に当てがった。

「ひゃ、ひゃい……」

「それじゃ、今日一日よろしくお願いしますね」

 ドギマギするアデリーに対してジェーンはいたずらっぽくウィンクするのだった。



「おい、見たかよキング」

「ああ、まさかオフ会の相手があのジェーンだったなんてな」

 キングとヒゲッペはその一部始終を物陰から見ていた。

「ところでだキング」

「どうしたヒゲッペくん」

「その格好は何なんだよ」

「ほら、それっぽく見えるじゃないか」

 キングは茶色のトレンチコートを羽織り、同じく茶色の中折れ帽をかぶっていた。

 また手にはジャパリまんを持ち、時々口にしていた。

「それからな、ヒゲッペくん。今は私のことを呼ぶときは警部と呼んでくれないか?」

「うわぁ何だコイツ……めんどくせぇ……」

「うん?何か言ったかい?」

「いやほら、アイツら移動するぞ。追わなくていいのかよ」

「よしわかった、追うぞ」

 こうして尾行を続ける二人であった。



 また同じ頃PPPの他のメンバー達はオフをどう過ごすか話し合っていた。

「たまにはオフにみんなでどこか出かけましょうよ」

「いいんじゃないか?私は賛成だ」

「もちろんあなたもついてくるわよね、マーゲイ?」

「はい!例え地の果てでも!」

「けどよぉ、ジェーンのヤツが先にどこか行っちまったぜ」

「あら、どこに行ったのか知らないかしら?」

「私は知らないな。フルルはどうだ?」

「え~、桃色のジャパリまんもらったから知らな~い」

「えっと、それって……」

 一瞬の沈黙が流れた。

「思いっきり買収されてるじゃねえか!って言うかそれ言っちゃダメなヤツだろ!?」

 ツッコミを入れるイワビー。

「口止めまでするなんて気になるわね。フルル、教えてくれないかしら?」

「でも~」

「私の分の桃色のジャパリまん上げるわ!」

 渋るフルルに対してグッと真剣な顔を近づけるプリンセス。

「いや、お前も買収すんのかよ!」

「何と今ならコウテイとイワビーとマーゲイの分も付けるわ!」

「ええっ!?」

「セット商法かよ!っていうかなんで俺らの分まで!?」

 フルルさんのためなら私のジャパリまんなんて十個でも百個でも差し上げられますぅ、などと言いながらエレクトしているマーゲイを尻目にプリンセスはコウテイとイワビーに詰め寄る。

「いい?二人とも。もし万が一あの娘が恋愛していたなんてことがあったらアイドルとしての一大事よ。それにひょっとしたら何か危ないことに巻き込まれてるかもしれないわ。私たちは今仲間としてどんな犠牲を払ってでも動かなければならない状況なの。そうでしょ?」

 いや、単にお前が知りたくてしょうがないだけだろ。

 などという二人のツッコミが彼女の耳に届くことはなかった。

 結局、桃色のジャパリまんは没収され、一同は遊園地に向かうこととなったのだった。

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