第10話 2人目②

喫茶店で二人がランチをしていると、大江の隣から札1枚はらりと落ちて、そこから角が現れた。


(呼んだか?今度は大物が釣れたらしいが....)


そう笑う角に美沙は病院で見たことを話すと、角の顔から笑顔が消え、段々険しくなっていった。


(信じられん。まだいたとは...。おい大江よ、今回ばかりは相手が悪い。ここは引いた方が良いかもしれんぞ。)


「どういうことだい、角?大物である君も慄くほどなのかい?」


角の話はこうだった。


赤い猿の名は赤彈というモノで、通常の妖怪よりも人の思いや感情に応え、宿主の代わりに暴れ回る。


とりわけ、怒りや憎しみ、悲嘆などの強い感情は赤彈を更に破壊的にさせるという。


また、暴れ出したら止めることは難しく、手がつけられなくなってしまう。



(もしこんな街中で暴れられたら、まず間違いなく穴が空くぞ。)


「穴?穴ってどこに空くんですか?」


「妖怪達の世界は不安定でね。大きな力が働くと、そこから穴が開いてしまうことがあるのさ。穴が開くと、此方の物や人に直接干渉できる。例に挙げると、ポルターガイストみたいな」


大江はそう説明すると、暫く考え込んでいたがやがて口を開いた。


「まずは、その赤彈の動向とそれがあの女性のどういった感情で動いているか知ることが必要だな。


とりあえず角、憑いてくれ」


(待て。本当に戦う気か?何か作戦でもなくばあれと戦うのは無理だ。儂でも止められるかどうかだぞ。)


「憑依状態ではまず勝てない。だからあれを使うさ。」


そう言うと、角はしぶしぶといった感じで大江の影に入っていった。


憑依され、目が角のように赤くなった大江は暫く店内を見回すと、美沙に店を出るように促した。


店先で大江の会計が終わるのを待っていると雨が降り始め、それと同時に赤彈が現れた。


彼女は大江に知らせに行こうか迷ったが、暫く赤彈の動向を観察することにした。


どこかを目指して、のっしのっしと歩く背には黒い糸状の靄のような物が繋がっていた。


おそらくあのおばあさんに繋がっているのだろう。そう思った彼女はその靄に触れてみた。


《生きたい。もっと生きていたい。死にたくない。死ぬのは怖い。寂しい。どうして私は死にそうなのに他の人は生きているんだ。憎い。妬ましい。》


そんな感情が頭の中にどっと流れ込んできた。終わることのない負の感情の連鎖.....







肩を揺すぶられ、気がつくと大江が心配そうに此方を見つめていた。


「大丈夫? いきなり倒れたから救急車呼ぼうか迷ったよ。」


美沙が起こった事を話すと大江は少し青ざめた。


「靄に触ったのかい?あれは人とモノを直接結ぶ物でダイレクトに原動力となる感情や思いが流れているから、触れたら流されちゃうよ。


幸い触れてる時間が短かった見たいだったから特に問題はないと思うけど、少し休もうか。」


タオルをもらって少し休憩していたが、美沙の頭はまだくらくらしていた。


雨が止んだので、2人は黒い靄を辿りながら赤彈を探しに歩き始めた。


2人は歩きながら、モノに憑かれると人から見えなくなる事やモノによっても大物、小物がいる事について話した。


しばらく行くと、大広場がありその中央で佇む赤彈を見つけた。


やはり病院にいた時と同様に空を見上げている。


するといきなり、拳を思いっきり振り下ろした。その衝撃が大広場の端の方にいた2人にまで届く。


「ここまで強大なものとは.....」


大江も流石に驚いたようで少したじろいでいたが美沙にこの場で待つように伝えると、暴れ回る赤彈に向かって歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

境の観察者 大月 帷 @Kasen-Houroku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ