第8話1人目②

翌日二人は男性の自宅に赴いた。男性が家を出るタイミングに合わせて家に入ると、ベッドの上に缶バッジと同じ顔の化け物がいた。


《何だ?おまえらは。この俺様がデパラプスと知っての狼藉か?》


そう言った化け物は頬杖をついて、ベッドの上に寝そべっており、見事に膨らんだ腹が呼吸するたびに動いていた。


「ここに住む男性の寿命を規定分以上奪ってたりはしないかい?」


《ふんっ!上級悪魔である俺様がそんなことするかよ。そんなことは3流のする事だ。


俺様はきちんと契約分だけ取ってるぜ。》


「そうか。なら、彼には他のモノが付いていたりはしないかい?」


それを大江が聞くと、デパラプスは首をかしげて暫く考え込んでいた。


《あぁ、そういえば俺様が貰った分以上に寿命が減っていることが何回かあったな。


どんな奴に奪われたかは知らんが.......》


それだけ聞くと大江はありがとう

と言って、踵を返して玄関の方へ行った。


《おい!今度はそっちが俺様の質問に答える番だ。


お前らはなにもの........》


美沙は扉を閉めると、一つ疑問に思ったことを口にした。


「あれは祓わなくて良かったんですか?」


「ああ、あれは彼等の中では良い方だよ。あれらは憑いている人々に悪い影響与えるものと、いい影響も与えるものがいるのさ。」


そんなことを話しているうちに彼等は男性を見つけた。


彼は女性と食事をしている最中だった。女性には大きな肉食魚のようなものが憑いているようで、それが男性に噛みついていた。


大江は美沙にここで見ているように指示をしてからその魚に声をかけた。


魚は体が白くて目が赤く、口には無数の鋭い歯があった。声をかけられたその魚は大江に襲いかかり、彼がそれを避けると今度は美沙の方に襲いかかってきた。


あんなものに噛まれたらひとたまりもない。骨折どころではないし、最悪死んでしまうかもしれない。


そうは思ったが彼女の足は恐怖で竦み、目を瞑ることしかできなかった。


「白!!」





次に彼女が目を開くと、魚恐ろしい顔が前にあった。魚はいつの間にか彼女の手に握られたククリに口を塞がれていた。


恐怖のあまり、その魚を払いのけると彼女の意思に反して、体が勝手に動き一瞬で近くの物陰に身を潜めていた。


彼女は何が起こったのか分からずに暫く呆然としていると大江歩いてきた。


「もう大丈夫だよ。ごめんね、怖い思いをさせてしまって。もう魚は祓ったよ。


それから白、ありがとう」


それを聞いて、彼女は白が助けてくれたのだと知った。取り憑いている体を操って彼女を守ってくれたのだと。

心の中で白に礼を言ってから、先を歩く大江について行った。


大江はもう一度若い男性の所に戻り、寿命の説明を始めた。


「さっきのは怒りの感情で動く魚みたいだったよ。周りの人の寿命を奪い、生けるものになろうとする。それから怒りの感情に任せて常世で暴れるっていう所だったんだろうな。」


「どうしてそんなにも常世で暴れようとするんですか?」


美沙がそんな質問をすると大江は少し哀しそうな顔をした。


「彼等はここにいた、ここにいるといった証拠が欲しいんだよ。


何もしなければ消えてしまう存在だから、自分の持つ負の感情を爆発させて少しでも爪痕を残しておきたいっていうね。」


彼女はそれを聞いて、かわいそうに思った。そんな感情が顔にも出たのだろうか、大江がまた口を開く。


「同情してはいけないよ。彼等はそうすることで実際に被害を出している。奪われた方も被害者だし、もちろん取り憑かれてもただでは済まない。」


そう言いながら、彼は食事を終えた男女に指を指す。すると彼等の中に木が現れた。男性の方の木はさっきの魚のせいだろうか、葉がかなり落ちていて、女性の方の木は葉も殆どなく木の幹も傷だらけであった。


「あれは寿命だよ。木が生えれば新たな命が芽吹き、木が枯れれば其の者は死に至る。」


「じゃああの女の人は......」


「ああ、もう長くはないね。だけれど私達にはどうすることもできない。

ただ見守ることしかね。」


彼女は無力さとともに何もできない自分に悔しさを覚えた。








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