第7話 1人目①
大江が運転するセダンの中で、揺られる彼女は今回の仕事内容についての説明を受けた。
今回の仕事内容は、寿命の減り方が著しいと思われる3人の所へ行き、彼らの状態を確認、問題があれば対処して報告することであるらしい。
1人目が居る地域に到着すると、大江は美沙にお札を渡した。
「ここから私達は、誰にも気づかれてはならない。気づかれると観察どころではなくなってしまうからね。
そこで、妖の力を借りるんだ。自分に妖を少し憑依させて、常世に存在しない者にする。
君はまだ力を借りることができる妖がいないから、今回は白に力を借りてね。」
「でも、どうやって力を借りれば....」
彼女がそう尋ねると、彼はにこりとしてからこう言った。
「白、契約分は私から取って構わない。彼女に力を貸してくれないかい?」
その言葉とともに、白が現れコクンと頷くと美沙の体と同化して消えた。
彼女は白の格好となると同時に、自分が少し半透明になっていることに気づいた。
「これで一時的に常世の人達には気づかれない存在となったよ。
では、行こうか。」
1人目は若い男性だった。スーツを着て鞄を下げながら歩いて居るその顔には疲労と絶望が現れていた。
大江と伴に彼女が後をつけると、その男性はとある雑居ビルに入っていった。会社に行くのだろうかと急いで後を追うと、その男性は上司と思われる人間から怒鳴り散らされていた。
『お前は全く使えない男だ!
契約を一つも取れないとはどういうことだ!
ふざけるな!お前の居場所なんてこの会社には無い。帰れ!』
そう怒鳴られた男性は 『すみません』と始終頭を下げていた。哀愁漂う彼の背中にはおかしなものが着いていた。
何かの顔が書かれた缶バッジである。
耳がウサギくらい長く、顔は横長で太々しそうに黄色の目を見開いたものの缶バッジである。
誰もそれを指摘したり、気づくような行動をとっていないことから、彼女はすぐに自分達にしか見えないものだということに気づいた。
大江もそれが怪しいと思った様で家に帰る男性の後を追って、男性の自宅を確認した所で1日目の観察が終了となった。
帰り際に、車内で美沙が
「どうして、寿命が減っているって分かったんでしょうか?」
と大江に問うと、彼は
「よし、じゃあ明日その説明をしよう」
と言って車を走らせた。
その夜、彼女はまた昨日と同様の夢を見た。船を漕いでいるとまた、澤井はいるか、澤井はいるかと声がする。
彼女は思い切ってそのイルカに話をして見ることにした。角や白、大江達の気さくさが、彼女に話しかけようとする勇気を与えたのかもしれない。
「ねぇ、イルカさん。イルカさんはどうしてその澤井って人を探しているの?」
その問いを聞くと、イルカはさぞ恨めしそうに訳を語った。
元々、イルカは江戸時代の豪商の町娘であった。性格も明るく、元気であって周りからの評判もよく、縁談の話が持ち上がりそうとなっていた時にとある男に殺されてしまったそうである。
その男が澤井という人物で、殺した娘の金品を根こそぎ奪い、それを売って富豪になった。
娘は悔しさや絶望のあまり、その男を呪い殺すイルカの怨霊となって海を彷徨っているらしい。
そう話したイルカの目からはポロポロと涙が溢れたかと思うと、憤りの表情に変わってもう一度美沙に、澤井はいるかと問いた。
美沙はいないと答えると、イルカは再び海に潜っていった。
暫く、船を漕ぎ進めると今度は海座頭が現れた。海座頭はツカツカと船に歩み寄ると、
《此処から先へ行きたくば、ビワを3つ持ってこい。
今日はおとなしく帰るが良い。》
と行った。彼女は船を沈められたくは無かったので、回れ右をしてしばらく船を漕いだ所で目が覚めた。
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