第6話 夢

目がさめると朝日が窓から差していた。服を着替えて階下に降りると、大江が朝食を作っていた。


「やあ、おはよう。よく眠れたかな?」


美沙は挨拶をしながら、席に着く。大江も席に着いたところで朝食が始まった。


食後の紅茶を啜りながら、大江は色々と話し始めた。


「さて、まず君を追ってくるもの達のことについて話そうか。君はあれらの正体を何だと思う?」


「えっと...幽霊とか妖怪だと思ってましたけど...」


「うん、半分正解かな。君を追ってくるものは幽霊や妖怪の以前のよくないものも追ってきているんだ。


例えば、あそこでテレビを見ながら笑っているのが妖怪だけど、君が追われたのはああいう形のはっきりしたものだったかい?」


お笑い番組を見ながら、笑いすぎで涙が出る程笑っている角を見て、彼女は


「うーん、逃げるのに必死であんまり覚えてないんですけど、なんか不定形なものが多かった気がします。」


「それらは、人間の強い悪意が具現化したものなんだ。憎悪、怒り、殺意とか色々ね。


妖怪や幽霊は自律的に行動することができるんだ。死んでるからね。

でも、悪意が具現化したものはその人が産み出したものだからその人が死なない限り離れない。


もし、その人が死んで自由に動き回れるようになったとしても、妖怪や幽霊程強い妖力はないんだ。

だから、とこ世とうつし世の両方に干渉できる君に取り憑いて操り、その悪意をうつし世に体現する便利な手段になるわけさ。」


そう言うと彼は1冊の古そうな本を取り出してきて、彼女に渡した。


「この本を読むと、そこらへんのことが詳しく分かると思うよ。」


彼女は古そうな本を受け取って、いざ読もうとした時、玄関の呼び鈴が鳴った。


大江が応対している間、彼女が何気なく本を開くと夢に関する記述があったのを見つけた。


"夢は常世と現世を繋ぐものであり、見た者の状態を表す。


夢においての常世の者はその夢でしか現世のものに干渉は出来ない。だが、夢引きを行えばその条件は当てはまらない。"


その記述を読み、彼女は今朝の自分の夢について考える。あの夢が今の自分の状態だと考えるのは彼女にとっては難しいことだった。


「お、何か気になる記述でも見つけたかい?」


来訪者の応対を終えた大江の手には4つの封筒が握られていた。彼はそれらをテーブルに置くと、にこやかな顔をしながら彼女の顔を覗き込む。


彼女は夢についての記述と昨晩見た夢の話をすると、大江はその夢の中に出てきたもの達について教えてくれた。


「そのイルカは多分某イルカだね。殺された人がなるものだよ。その人を殺して金品を奪ったものの名前を呼び続けるものさ。


手招きをしていたのは海座頭だろうな。海の上を歩いて漁師を驚かせたり、船を転覆させてしまうんだ。でも、海座頭の言うことを素直に聞けば消えると言われているよ。」


「某イルカと海座頭......」


「まあ、また何か見たら教えてね。」


そう言うと大江は身仕度をしながら彼女に


「さて、私はこれから仕事に行くけど、深瀬さんも一緒に来るかい?」


と問いかける。


「お邪魔じゃなければ行きたいです。」


「よし、ならついておいで。」


急いで身仕度を済ませ、玄関の前で彼女を迎えたのは、古ぼけた白塗りのセダンだった。

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