第5話 帰る場所

大江の家は2階建てのログハウスで様々な鳥や虫たちが鳴く、木々が生い茂る森の中にあった。



「ここが君の部屋だよ。一応、衣類とかもひと通り揃えたけれど、足りないものがあったら言ってね。」


そう言うと大江は彼女の荷物を部屋の隅に置いて、ご飯の支度をしに部屋を出て行った。


自分の荷物を整理していると、階下から


「お風呂湧いたからお風呂入ってきていいよ。」


と声がする。彼女が着替えを持って部屋を出ると、白い仮面にコートの妖怪が手招きで風呂場の位置を教えてくれた。


風呂場は檜風呂であった。美沙は浴槽に浸かりながら改めて妖怪について考える。


今まで害を及ぼしてきたものが本当に私の力になってくれるのか、どの様な技術や心構えが必要になってくるのだろうか、そんな事を考えているとのぼせそうになったので彼女は急いで風呂を出た。


風呂上がりの美沙をご馳走が出迎える。


「ははっ。久方ぶりのお客人だから張り切ってしまったよ」


と笑う大江の顔を見ながら、美沙はスープに手を伸ばす。暫く食べていると、大江が話しかけてきた。


「君は将来の夢とかはあるのかい?


例えば、この職業に就きたい!っとか。」


「うーん。考えた事なかったです。


でも折角、私の目が特別あるのならこの目を使って人を助けられる大江さんの様な仕事がしたいです。」


「私の仕事では、人を救えないよ。前にも言ったけど死神みたいなものだからね。


死神じゃ人は救えないさ。」


そう言った大江はどこか悲しそうな顔をした。


食事を終えると、どこからともなく先程の妖と、また別の妖が出てきた。


「ああ、そうかまだ紹介してなかったね。


君を案内した白い面の妖は 白鷹 という名の妖だよ。私は白(しろ)と呼んでるよ。


喋らないけど、とても優秀だよ。」


白と呼ばれた妖は少女に向かってペコリと頭を下げた。



もう一方の妖怪は白や大江よりふた回り程大きく、地面からは肩が出ていてその周りにはたくさんのお札が張り付いている。人の形の顔は青く、赤い目をしていて、落ち武者の様に白髪が振り乱れていた。額には五角形のお札が貼られていた。


そしてその妖は大江が紹介するのを遮って、自ら自己紹介を始めた。


《ほう、ラピスか。面白いのう、娘っ子。


儂は角羅(カクラ)という。周りのものは角(カク)と呼ぶ。


よろしくなぁ。娘っ子。》


「あ、こちらこそ。私は深瀬 美沙です。あっ、あと助けて頂いてありがとうございました。」


《ん? あゝ、よいよい。 礼なら面白いもので返しておくれ。


儂にとって興はとても嬉しいものだからのう。面白ければ何でも構わん。


さて、儂はテレビでも見ることにするかのう。》


そういうと、角羅はテレビを見ながらウヒャウヒャ笑い始めた。


「ああ、彼はああいう奴なんだ。気にしなくていいよ。

それより、今日は疲れたでしょう?

もう遅いから寝てきなさい。」


自室に戻る彼女を横目で見ながら、角羅が口を開く。


《おい、大江よ。あの娘っ子は.......》


「皆まで言うな。分かってるさ。あれはいずれ解くよ。」


《ならいいが.........》


再びテレビに視線を移す角羅を背に、大江は読みかけの本を開く。時計は午前0時を指していた。


その夜、彼女は夢を見た。大海で一人、船を漕いでいる夢である。暫く漕いでいると、何か声が聞こえた。


《$*<,>'・@2は..いる.....か?

;<'+^%>'+€...い..る...か?》


「誰?何を探しているの?」


そう声の主に問いかけると、船の隣にひょっこりとイルカが顔を出した。


普通のイルカのようだったが、目が赤く、血の涙を流していることから妖だということがわかった。


《澤井はいるか? ....澤井はいるか?》


「澤井? ごめんなさい。私はその人知らないし、この船に乗ってるのは私だけだよ。」


《そうか、おらぬか。あなくちをしや。》


そういうと、イルカは船から離れて行った。暫くすると、今度は海の上に人影が見えた。


琵琶を持った僧侶の格好で杖をついたそれは少女に手招きをしている。


彼女がその手招きに応えようと舵をきった瞬間、視界が真っ逆さまになったと同時に目が覚めた。

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