第3話 ラピス

「"ラピス"?それってなんですか?」


「君の蒼い目の事だよ。その目は色々見通す力を持っているんだ。


所謂、審美眼というものだね。慧眼ともいうのかな?


その目を持つ者は大変珍しく、その希少性から色々な方面から狙われやすくてね」


そこまで言うと、彼はとても穏やかな顔をしてこう言った。


「こんな事を言うのは少し変かもしれないが、


今まで良く頑張ったね。

ここまで生きてくれてありがとう。」


彼女は驚いたと同時に自分の中で何かがプツンと音を立てて切れた様な感じがした。


次の瞬間、彼女の目からは大粒の涙が次々と零れ落ちていた。


「ごめんっ.....ごめんなさい....私...そんなこと言われた事....なくて.....」


「大丈夫だよ。辛かったね。落ち着いてからまた、話そう」


そう言うと、彼は周りの様子を伺った。女の子を泣かした男として彼を見る周囲の目線は冷ややかな物で、彼は


「あ、えっと、いやぁ、大丈夫大丈夫!」


等と適当に慰めて、彼女が落ち着いた所を見計らって二人で喫茶店を出た。


「すみません。取り乱してしまって...それであの、貴方は一体?」


「うーん。それはあまり知らない方がいいと思うけどな。


あとは、知ってもそれを他の誰かに言わないと約束してくれるかい?」


元から彼女の話を真剣に聞いてくれる人などいない。言ったところで信じてもらえないなら他人にいう必要もない。


「約束します。」


そう言った彼女の目を暫く見てから大江は続けた。


「そうか...わかった。


私は生と死の間で人々を観察、そして脅威の排除をする仕事をしているんだ。主な仕事は観察なんだけどね。


簡単に言えば死神擬きかな。」


「死神...擬き?」


「まあね。死神はあの世とこの世と橋渡しの他に寿命の管理を行うんだけど、


私は寿命の管理だけを行う人間なのさ。」


「人間?大江さんは人間だったんですか?」


すると大江は慌てた様子で、


「え!?人間だよ!顔もちゃんとあるし、目や耳だってちゃんと2つあるし


あれ?人の顔ってどういうのだったかな?そもそも人間を人間たらしめるものとは......」


予想以上に泥沼状態になっていく彼を見て彼女は


〈大丈夫なのかな?この人〉


と思ったが、何だか哀れに思えて来てしばらく眺めていると、


「あ、冗談だよ。ジョークさ、ジョーク。


だから、そんな哀れな者を見る目で私を見ないでくれ。悲しい気持ちになるからさ。」


話を戻して詳しく聞くと、大江の仕事は主に人々がその寿命を全うできているか見る仕事だと言う。


だが、人の寿命は妖怪や悪鬼羅刹、霊やその他良くない者にとって、喉から手が出る程欲しい物である。


なので、それらに奪われてしまわない様に、祓ったりする事も仕事に入るらしい。


「さて、そろそろ暗くなって来たから帰らないとね。」


辺りはもう既に暗くなりかけで、霊等が活発に動き出し始める時間帯となっていた。


彼女がふと、背後の嫌な視線に気づき振り返ると、黒いモヤの中に薄気味悪くこちらを見る一つ眼があった。

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