第2話 喫茶店で

翌日の朝、くたびれた布団の上で目を覚ました彼女は昨日の出来事を反芻する。

化け物に襲われたこと、老人がそれを消してくれたこと、木彫りの鳥を渡されたがそれを置いてきたこと。


彼女は一瞬木彫りの鳥を置いてきたことを後悔したが、すぐに


〈あの人が私を連れて行かないとは限らない〉


と考えなおす。だが、老人が話したいと言ったことには少なからず興味があった。


〈私自身についても話してくれると言っていたけど....〉


迷った挙句に彼女は老人の言った様にお昼に昨日の場所へ行くことにした。


だが、木彫りの鳥を持っていなくては相手の心象も良いものではないだろう。

そこで彼女は朝一番でそれを取りに行くことにした。

部屋にあった壊れ掛けの洗面所で身支度を整えていると、欠けた鏡が写す窓の外に何かが写った様な気がした。

よくあることである。

玄関に行き、靴を履き、ドアを開けて外に出た。


季節は春。それ程寒くないので、彼女はジョギングがてら、走って昨日の場所へ行くことにした。

走りながら横目で見ると道行く人々も色々なものに取り憑かれている。


犬の散歩をする中年女性の頭には何やら小さな白い子虎の様なものが丸まっている。

犬には和装で烏帽子をかぶった小人がついてきている。

また、疲れ切った様なサラリーマンの肩の上には大きなコウモリの様なものが止まっている。

若い女性の肩には妖精の様なものが座っていたりしている。


彼女はそれらに目を合わせない様、更にスピードをあげた。



気がつくと昨日、老人とあった場所についていた。だが、木彫りの鳥は見つからない。


「お探しものはこれかな?」


と声がし、振り向くと昨日の老人が立っており、手には木彫りの鳥が乗っていた。


「うわっ...えっと、すみません。昨日せっかく頂いたのに...でも、まだ朝じゃ....」


「私はお昼まで時間があったから、ここらを散歩していただけだよ。そしたらこれを見つけた。」


深く頭を下げる彼女に老人は続ける。


「いや、全然構わないさ。私達の様な存在を簡単に信用してはいけないということもわかっている様だしね。


まあ、立ち話もなんだしどこかの喫茶店にでも入ろうか。」


そう言うと老人は歩きだした。


〈この人は他の人に認知されないのに喫茶店なんか入って大丈夫なのだろうか?〉


彼女は一瞬疑問に思ったが、老人はもう歩きだしていたので、それについていった。


*****************


喫茶店に入ると、店員が駆け寄ってきて


「いらっしゃいませ。2名様ですね。」


と言う。少女が驚いて老人を見ると老人は笑いかけてきた。


席に着き、老人が飲み物を注文している間に少女は老人をじっと見て観察した。


老人は見事な白髪で、瞳の色は茶色であった。身長は少し高いくらいで、ワイシャツ、紐ネクタイ、スラックスを身につけジャケットを羽織っている。老人というよりは老紳士というべきに近い格好であった。


老紳士は注文し終えると改めて名乗った。


「私は大江雅和。よろしくね。」


「あ、私は深瀬美沙です。えっと、貴方は何者なんですか?私の事を何か知ってるんですか?なんで貴方は他の人に認識されているんですか?」


老紳士は突然の質問に少し驚いた様だった。


「えっ...そうだなぁ。何から話すべきか迷うなぁ。


君の事についてが一番話しやすいかな。少し顔を見せてくれる?」


そう言うと彼は彼女の顔をじっと見つめてやっぱりと呟いた。


「深瀬さん、貴方は"ラピス"の持ち主だよ。」





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