第1章---------「闇をかいくぐり」

彼らの様子は、昼間からおかしかった。互いに小声で連絡を取り合っては、バタバタと周りを気にするそぶりをした。心の深いところで彼らとの関わりを遮断していたロートラウト以外、誰も気づかなかったことだ。

この異変、違和感がこびりついて離れなかった。

ロートラウトは彼らを観察した。

そして悟った。

今日、なにかある。


裏口を通り、垣根をくぐって森を分け入る。

歩く、歩く。

しばらくすると、松明の灯りが近づいてきた。茂みに顔を伏せ、髪の隙間からーーロートラウトは柔らかい金髪を、前髪だけは整えていなかったーー様子を除いた。

子どもらより、ふたまわりくらい大きい街の青年が三人、なにやら交渉している。幼馴染の男子陣は、リーダー盾にもじもじしながら彼らの様子を伺った。

青年の1人がなにかを言う。程なくして、隊は合流した。


やがて、森は下り坂になった。

くるぶしに雑草が刺さるたび、ロートラウトは悪態をつきたくなるのを堪える。もう少し丈夫な靴を履いてこればと思った。尾行の手前、怪しまれにくい女中用のものを盗み取ったのだ。

突然、歓声が飛んだ。

「騒ぐなガキが!」

男が怒鳴る。

叱咤の声に、ロートラウトは身をすくめた。浮き足立つ少年たちに、青年らは苛立ちをあらわにした。

ここはどこだろう。

気がつくと、沢山の布に包まれた、背の低い建物が茜の灯火に巻かれ、艶めいている。

その広さ、その眩しさ。

ロートラウトは頭にふんわりと眠気が指すのを感じた。暖かい、ふと思った。

遠い音がかなり響く。少年たちも同じらしい。ぼーっと突っ立っているところを、男たちにどつかれている。


「おい、あれなんだかわかるか?」

ふと耳元で声がした。

振り返ると、闇。

ああ、どうやら錯覚だったらしい。

胸を抑え、ふたたび目線を戻すと男の一人がリーダーの肩に喋りかけていた。


「あ、…その……」

狼狽する少年の姿。


「娼館だ。ようこそ新人君」


仄暗い逆光の中、男は歯を見せて笑った。

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