序章---------「幼少期」


ロートラウトは、何人か友達を持った。

使用人の息子や、丘下の街のガキ大将と取り巻きだ。彼らと交友するたびに、彼女は男の子が自分とどれだけ違うのかを思い知った。使用人たちは決まって競争心を示し、悪ガキたちはまず声がでかく、悪態漫才に熱心だった。

前者は絹地に包まれた戦争だったが、後者は異民族たちの共同体だった。

悪ガキたちと戯れることは、彼女にとっては珍しい遊びであったが、いつもひとりぼっちの気分になった。

使用人の息子は例外。おべっかしか言わない上に、時おり対抗意識を垣間見る。それがたいそう不愉快で、立場と家の名がなければはっ倒していたところだ。

街の子供達でつくられたサル山との交友は、長く続いた。

ここは自分の居場所ではない、けれどそこは開かれた気兼ねの良い人たちの住処だった。

ロートラウトは喧嘩の作法をしらない。おいしい店も、虫や植物の名も、少年たちのもつある種の結託も知らない。それでも街の少年たちは、ロートラウトがハキハキとして、彼らの遊びに感心する限り、嬉々として新しい世界への道先案内人になってくれた。街のゴロツキの中で、気をつけるべき人、場所、礼儀、お金の流れや生きるコツ、娼婦たちの微笑み、創造的な遊び。そんな事を学んだ。

ロートラウトは疎外感をひた感じつつも、サル山の中のいくらか異文化的な友人として、少年たちと微笑ましい信頼を気づきあげていた。

悪ガキたちは彼女を風変わりで物知りな仲間として一目を置いていた。ロートラウトは彼らを心強い友人として見た。

幼少期は実に豊かな日々といえる。


ロートラウトにはつねに護衛役の、年上の少女がついていた。彼女は令嬢の戯れの横に常に張り付いていたが、特になにかをすることはなかった。

護衛の名はロミルダ。下級貴族の出であったが、不幸な事故に見舞われ、ワルト領に流れ着いた。

彼女の役目は跡取りの行動を報告する。ただそれだけだ。表向きは世話係。数人いる候補の中、ロートラウトが気に入った。

早くに街と戯れ、世の中を知った上で領主の自覚を持たせる。

そんな教育方針の元に、ロートラウトは順調に転がされていた。

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